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イケメンシリーズ ストーリーのネタバレです

戦国【佐助】共通8話後半

謙信様から木刀を向けられて以来、これまでと一転して声をかけられることが多くなった。

 

謙信「美香、こちらへ来い。俺の姫鶴一文字を見せてやろう」

 

(え、今日も?)

 

その日も宴が始まってすぐに、上座の謙信様から名前を呼ばれる。

 

「昨日も一昨日もその前の日も、午前と午後に拝見させていただいてますが……」

 

謙信「それくらいでこの刀の良さがすべて分かるはずがない」

 

(妙な気に入られ方をしてしまった……。ちゃんと向き合って話をしたのがよかったのかな。フレンドリーになってくださったのはありがたいけど……)

 

謙信「何をしている、早くしろ」

 

「わ、刀の柄を握らないで下さい!」

 

慌てて席を立ちかけた私の前に、佐助くんがすっと割って入る。

 

佐助「大変残念ですが、丁重にお断りさせていただきます」

 

(佐助くん……)

 

謙信「なぜお前が断る、佐助」

 

佐助「端的に言うと、なんとなく不愉快だからです」

 

謙信「そうか、俺は至極愉快だ。美香、お前が来ないのであれば俺がそちらへ行く」

 

佐助「仕方がない。美香さん、俺が止めている間に早く逃げるんだ」

 

(まずい! この後の流れだといつも通り……)

 

謙信「美香、逃げれば斬る」

 

(やっぱり……!)

 

「謙信様、こんなところで刀を抜かないでください! 佐助くんも、そんなに大量にまきびしをまかないで!」

 

私を謙信様が追い、佐助くんが間髪を入れずに阻止する光景が日常になりつつあった。

 

幸村「ったく、また始まったか」

 

信玄「俺もたまには天女をめぐる争いに参加するかなー」

 

幸村「やめとけ! 佐助の心労が増えるでしょーが!」

 

義元「じゃあ美香はこっちへ来て、俺とお茶でもしていよう。いい茶器が入ったから見せてあげる」

 

幸村「義元も今はやめとけ。佐助がすげー目でこっち睨んで警戒してるから」 

 

騒ぐ謙信様と佐助くんを尻目に、信玄様と義元さんが興味深そうに見守るのも、すっかり恒例になっている。

 

謙信「逃げるな、美香」

 

佐助「これ以上、美香さんを追うなら俺も相応の対応を取らせていただきます!」

 

謙信「謀反か、良い度胸だ」

 

佐助くんが短刀を忍ばせた懐に手を伸ばすと、謙信様が刀の柄を握り直す。

 

(もう……!)

 

「ふたりとも、そこまでです!」

 

佐助・謙信「……っ」

 

(よし、なんとか止まった……)

 

「佐助くん、何度も言ってるけど、私は別に、謙信様に恋してるわけじゃないよ。だから、そんなに心配なくても……」

 

佐助「いや、油断ならない。謙信様は、『テスト勉強なんてしてない』と言っておいて、トップをかっさらう系のダークホースだ」

 

「たとえがわかりにくいよ、落ち着いて」

 

謙信様の唇に愉悦の笑みがにじむ。

 

謙信「佐助、ぼやぼやしていると、その女を横からかっさらうぞ」

 

佐助「駄目です」

 

謙信「よし、斬り合うか」

 

佐助「致し方ありません……御免!」

 

「『御免』じゃないよ……!」

 

慌ててふたりの間に入って両手を広げる。

 

「待って! 謙信様も、人をダシに佐助くんを煽って斬り合いに持っていくのはやめてください!」

 

謙信「ほう、よく気づいたな。頭の回る人間は嫌いではない」

 

佐助「彼女は駄目です」

 

謙信「よし、斬り合うか」

 

佐助「御免!」

 

「待ってって言ってるでしょ……!」

 

(なんなのこの無限ループ!)

 

幸村「そこまでだ、佐助!」 

佐助「……!」 

 

斬り合いが始まる寸前、幸村が佐助くんを背後から羽交い締めにした。

 

謙信「幸村、なぜ止める」

 

幸村「謙信様、これ以上、佐助に絡むのは、やめてやってください。佐助も佐助だ。お前最近どうかしてるぞ。あんま美香を困らせんなよ」

 

佐助「幸村……」 

 

(幸村、ナイスフォローありがとう! さすがはズッ友!)

 

ほっと息をつく私のそばに、義元さんと信玄様が微笑んで歩み寄る。

 

信玄・義元「お疲れ様、美香」

 

(う……。このふたりは私の気持ち、バッチリ気づかれちゃってるみたいなんだよな)

 

義元「それで? 美香、本当は誰に恋をしてるか、佐助に教えてあげたの?」

 

「そ、それは……ええっと……当分は、ちょっと」

 

信玄「賢明な判断だ。あいつは美香のことになると、本来の賢さと冷静さを失うらしいからなー」

 

(信玄様、鋭い……)

 

しどろもどろになる私を見て、幸村が怪訝そうに首をかしげる

 

幸村「何を三人で、こそこそ話してんですか」

 

佐助「俺も気になります」

 

信玄「んー? 教えないのが俺たちの優しさなんだけどなー」

 

幸村「は? なんだそれ」

 

佐助「情報隠蔽、反対です」

 

騒ぐみんなを横目に、謙信様が不満そうに腰を下ろした。

 

謙信「佐助をからかっていたら喉がかわいた。酒を持て」

 

(謙信様、もうずいぶん飲まれてるのに、本当にお酒に強いな)

 

信玄「よし。開戦は目の前だ。家臣も集めて、士気が上がるようパーっと飲み直すか」

 

家臣1「さすが信玄様だ。酒は樽でお持ちしろ! もちろん謙信様の梅干しも一緒にな」

 

家臣2「はっ、ただいま!」

 

信玄様の掛け声に周りの人たちは笑顔で応え、場はいっそう盛り上がるけれど……

これは開戦の前の、ひとときの平和な光景だということもわかっている。

 

(その分余計に、みんな、全力で楽しもうとしてるんだろうな。ワームホールが開くまで、もう一ヶ月もない……。ここで過ごせるのもあと少しだ)

 

だからこそ、こうして佐助くんやみんなと過ごせる今の時間がかけがえなく、愛おしい。

 

(乱世に来たばかりの時は、こんな気持ちになるなんて思ってもみなかった。この時間を私も大事にしよう……)

 

笑い声を響かせながら、みんなが盃を傾ける様子を眺めていると、信玄様に手招きされた。

 

信玄「ほら、君もこっちにおいで。天女に酌をさせてくれ」

 

「はい、ありがとうござ……」

 

頷いて、隣に座ろうとすると……

 

佐助「美香さんは、俺と幸村の間に座って」

 

(わっ!?)

 

ぐいっと手を掴み、佐助くんが私を隣へ引き寄せた。

 

佐助「信玄様のそばは危険だ。いつなんどき口説かれるか分からない」

 

信玄「やれやれ、佐助までそんなこと言うなんてな。いつから幸がふたりになったんだ?」

 

幸村「ド正論でしょーが。危なっかしい美香を、あんたのそばにはおいておけねー」

 

義元「じゃあ俺の隣は?」

 

佐助「義元さんも色気が半端ないので、当然駄目です。それから美香さん。謙信様の半径五メートル以内には近づかないように」

 

「そこまでしなくても……」

 

佐助「お願いだ。心配なんだ、君が」

 

「っ……わ、わかった」 

 

直球すぎる返事に、頬が一瞬で熱を持つ。

 

「……佐助くん、なんだか最近、変わったね」

 

(前はこんなふうに、強引に私をそばに呼び寄せたりすることはなかったのに……)

 

佐助くんは、困ったように目を伏せた。

 

佐助「我ながら戸惑ってる。クールダウンが必要だと思うんだけど、うまくいかない。でも……君のそばを離れたくはない」

 

(っ、しょんぼりした顔でそんなこと言わないで)

 

動悸が止まらなくなって、まるで病気だ。

 

(でも嬉しい。どうにかなりそうなくらい、嬉しい)

 

「……私は嫌じゃないから、クールダウンしなくてもいいんじゃない?」

 

(私も佐助くんのそばにいたいよ)

 

佐助「そうか、それならよかった」

 

無表情なのに、向けられる佐助くんの瞳は熱っぽい。

 

(佐助くんは私のこと、どう思ってるのかな……)

 

乱世から離れるその日まで、この想いは告げないと決めた。

忍びとして働く佐助くんの足かせになることは、絶対に避けたい。

 

(でも本当は、今すぐにでもあなたの気持ちを知りたい。……私の気持ちを知ってほしい)

 

もどかしさで胸がはちきれそうになるのを感じながら、見つめ合っていると–––

 

幸村「なにふたりとも辛気臭い顔してんだよ」

 

「わ……!」

 

佐助「!」

 

幸村が佐助くんと私の肩をたたいて、ハッと我に返った。

 

(しまった。周りにみんながいること、すっかり忘れてた……!)

 

佐助「辛気臭い顔はしてないつもりだ」

 

幸村「そうかー? 飲みすぎて酔っぱらってんのかと思った。具合が悪いんじゃねえなら、ふたりとも飲み直そーぜ。謙信様も美味い梅干し食って、大人しくなったみたいだしな」

 

佐助「そうしようか、美香さん」

 

「う、うん。そうだね」

 

三人で乾杯して美味しいおつまみを食べるうちに、ようやく気持ちが落ち着いてくる。

 

(そういえば、あれから聞きそびれたままだな……)

 

ーーーーーーーー

謙信「佐助は……四年もの歳月を、お前を救い出すためだけに捧げたのだ」

 

謙信「あの男は、忍びの修業をしていたのは、ある女のためだと言っていた。同じ国元から出てきて、別れ別れになった女性を必ず見つけ出して、助けるためだと」

ーーーーーーーー

 

(佐助くんは危険をかえりみずに私を守り続けてくれた。今みたいに仲良くなる前から。再会した瞬間から……ううん、四年も前から、ずっと。現代でほんの一瞬すれ違っただけなのに、どうしてなんだろう……?)

 

優しさだけじゃ説明がつかない気がして、疑問がふくらんでいくけれど……

 

佐助「……? 美香さん、俺の顔に何かついてる?」

 

「え? ううん。なんでもない」

 

幸村「どーせ甘いもんが足りてねーんだろ。ほら、とっとと食わねーと信玄様に奪われるぞ」

 

「うん、いただきます」

 

(みんながいる前じゃ、タイムスリップの話はできないな。戦が始まる前に、佐助くんとふたりでゆっくり過ごせる時間を作って聞いてみよう。どうして四年も前から、私を守ると決めてくれたのか)

 

けれど–––そのチャンスが訪れることはなかった。

ささやかな平和が無残に破られたのは、宴の直後だった。

…………


謙信「ほう、お前と佐助は、あの明智光秀の襲撃から逃れたのか」

 

「はい。佐助くんの変わり身の術が炸裂して、一命をとりとめました」

 

謙信「さすがは俺の忍びだ」

 

謙信様が話しかけてくることにもすっかり慣れたある朝……

 

家臣「謙信様! 急ぎ広間へ!」

 

謙信「何事だ」

 

家臣「国境に放っていた斥候が、大変な報せを……っ」

(え……?)

 

謙信「–––すぐに向かう」

 

(いったい何が起きたの?)

 

羽織の裾を舞わせ急ぐ謙信様のあとを、私も慌てて追いかける。

広間へ入るとすでに他の武将たちも集まり、騒然としていた。

 

信玄「来たか、謙信」

 

謙信「これは……」

 

斥候「っ……謙信様、信玄様……」

 

(大変……!)

 

村人を装っていたらしいその斥候は、着物が無残に焼け焦げ、身体中に血止めの布を巻いている。

 

信玄「無理にしゃべるな、手当が先だ!」

 

斥候「いいえ! いち早く皆様のお耳に入れなくては……っ!」

 

気力を振り絞り身を起こした斥候を、幸村が支えて水を飲ませる。

 

幸村「……ゆっくり飲め、焦るなよ」

 

斥候「っ、恐れ入ります……」

 

息も絶え絶えに斥候が頷いて、謙信様へ向き直った。

 

斥候「昨夜、国境にて、偵察へ来た織田軍の小隊とこちらの見回りの小隊がかち合い、小競り合いとなりました」

 

佐助「俺が先日まで偵察していた土地か……」

 

斥候「両軍ともに下々のもの同士、将の命で出陣したわけでもない偶然の衝突……大事に至らぬ前に互いに引くと踏んでいたのですが……っ」

…………

 

謙信「両者ともに、種子島を持っていた、だと……?」

 

斥候から報告を聞いた誰もが表情をこわばらせた。

 

種子島って……」

 

佐助「火縄銃の別称だ。妙な話だ。大将の指揮の元で銃を持つ部隊が戦うことはあるけど、とても高価で貴重な武器だから、一介の武士には手が届かないはずだ」

 

義元「どうしてその兵たちは南蛮の武器を……」

 

信玄「銃を扱う部隊を向かわせた覚えはない。そいつらはどこで入手したんだ……?」

 

ざわつく中、謙信様が低い声を発した。

 

謙信「織田の兵たちとて同じくだ。大将はあの信長、下っ端に無用の長物を持たせることを許すほど阿呆ではないだろう」

 

斥候「銃を持っていたのは、ひとりふたりではありませんでした……っ。軒並みの兵が、扱い慣れない様子で互いを撃ち始め……あとは、地獄でした」

 

怒りに任せての乱戦となり、自分ひとりを残し両者ともに壊滅したのだと、斥候は掠れた声で告げた。

 

(そんなことが……)

 

あまりの無残さに血の毛が引いていく。

 

幸村「なんだそれは! 大義をかけた戦じゃねえ、ただの殺し合いじゃねーか……!」

 

佐助「……それが、狙いかもしれない」

 

幸村「は……?」

 

佐助くんは何かを考えているように、唇を引き結んだ。

 

斥候「ぐ……っ、はぁ、はぁ」

 

信玄「もういい、よく知らせてくれた。お前は休み、回復に務めろ」

 

斥候「かたじけのうございます……っ」

 

謙信「俺は長年、信長との開戦を糧に生きてきた。どこの馬の骨か知らないが、俺の楽しみに水をさすとは……血祭りにしてくれる」

 

目の座った謙信様の身体からは、殺気が揺らぎたつようだ。

 

信玄「幸村、佐助」

 

幸村「はっ。即刻、国境へ向かいます」

 

瞬時に厳しい顔になり、幸村は先に外へと飛び出していく。

 

佐助「俺もすぐに発ちます。ですが、その前にひとつ」

 

謙信「言ってみろ」

 

佐助「恐れながら、謙信様。これは火種に過ぎないと予想されます」

 

(火種……?)

 

佐助「……燃え広がるのは、これからです」

 

それから–––

…………


「薬を追加で運んできました! 清潔な布も!」

 

家臣「ありがとうございます、美香様!」

 

怪我をした村人「ぐ……っ、うう……」

 

家臣「今、手当してやるからな、こらえてくれ……!」

 

私は薬が入った箱を置くと、すぐに手当の道具を補充するため、城内の倉庫へと急いで戻る。

春日山の城下町は今や野戦病院と化していた。

 

(こんな……っ、こんなことになるなんて……!)

 

恐ろしいことに、佐助くんの予測は的中した。

斥候から報告があったあの一件を皮切りに、国境に接する村々で上杉武田と織田の衝突が起き、暴動となって各地へ一気に飛び火した。

 

銃器が無作為にバラまかれ、兵のみならず村人までもが銃を手に戦い始め……やらなければやられる–––その恐怖が暴動を日に日に拡大していき、怪我を負った罪なき民たちが助けを求めて、城下へ押し寄せてきているのだった。

…………


その夜–––疲れと戦いながら、怪我をした人たちへ差し入れる着物を縫っていると……

 

佐助「美香さん……」

 

「佐助くん! お帰りなさい……!」

 

偵察から戻った佐助くんの顔には、憔悴の色がありありと浮かんでいる。

 

(佐助くんがこんなに疲れた顔をするなんて……)

 

「少し休んで。今お茶を淹れるから……」

 

支度をしようとした私に、佐助くんが首を振る。

 

佐助「ありがとう。でも、時間がない。すぐに謙信様たちの元へ報告に行かないとならない」

 

「え……」

 

佐助くんの緊迫した眼差しに、返す言葉がかすれる。

 

佐助「偵察の結果と俺の所感を謙信様たちに伝える。君も一緒に聞いて欲しい」

 

「私もいていいの……?」

 

佐助「ああ。安土にも越後にも、日ノ本全土にも……俺たちの生まれた現代をも変える事態だ」

 

(現代を、変える……!?)