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イケメンシリーズ ストーリーのネタバレです

戦国【佐助】共通2話前半

信長「貴様を守ったつもりはない。奴らが邪魔なので斬った、それだけだ」

「……っ、そう、ですか」

 

(この人には、人間らしいところなんてなさそう……。佐助くんがせっかく助言してくれたけど、理解し合おうと思うのは、やっぱり無理なのかな)

 

諦めて戻ろうとした時、カサッと足元で何かの音がした。

 

(ん? 何か落としたかな)

 

あたりを見回していると、ふいに手首を信長様に掴まれた。

 

「な、なんですか?」

 

信長「貴様……。これは、貴様のものか?」

 

(え……?)

 

信長様の視線の先に、見覚えのある袋が落ちていた。

 

口を結ぶ紐が緩んで、中に詰まった金平糖がのぞいている。

 

(反物を買った時にもらった金平糖だ。立ち上がった拍子に落としたのか)

 

「そうですけど……何か?」

 

信長「……気が変わった。礼がしたいなら、それをひとつふたつ俺に寄越せ」

 

(へ?) 

 

「……もしかして、お好きなんですか?」

 

信長「ああ」

 

可愛い金平糖と不釣り合いなほど、返される声は低い。

 

(そうなんだ……。ちょっとというか、かなりのギャップが発覚したような)

 

「ええっと……それじゃ手を出してもらえますか」

信長「良いだろう」

 

手のひらに金平糖をザラッと盛ると、信長様は子どもみたいに嬉しそうな顔になった。

 

信長「悪くない」

(こんな顔もなさるんだ。怖いだけの方だと思っていたけど……)

 

「人間だもの……」

 

信長「何か言ったか?」

 

「い、いいえ! それじゃ失礼しました!」

 

慌てて一礼した後、すぐに自分の席へと戻る。

 

蘭丸「お帰りなさい、美香様!」

 

秀吉「信長様に失礼な態度はとらなかっただろうな?」

 

「多分、大丈夫だと思うけど……」

 

(ん? 光秀さんがいなくなってる)

 

周りを見回すと、苦々しそうに秀吉さんが眉根を寄せた。

秀吉「光秀なら調べることがあるとかで、もう帰った」

「忙しいんだね」

秀吉「本当はどうかは怪しいとこだな。……相変わらず秘密が多い奴だ」

 

(……秀吉さんは光秀さんに何か思うところがあるみたいだな)

 

気持ちを切り替えるように、秀吉さんがポンと私の頭に手をのせた。

 

秀吉「それより美香、信長様への礼も済んだなら、お前もしっかり料理を楽しめよ」

 

政宗「そうだぞ。端から味見して、お前の好みを俺に教えろ。今後の参考にする。俺のメシが食えないとは言わないよな?」

 

所狭しと料理が並び、ふわりと汁物から柚子の香りがして食欲をそそられる。

 

(これ全部、政宗さんが……!?)

 

「五目の巾着煮、汁が染みて美味しそうですね……! 鯉のお刺身も、新鮮でプリッとしてる」

 

政宗「美香、このあわびの酒蒸しも食ってみろ」

 

「わっ?」

 

有無を言わさず口の中へ運ばれたあわびは、歯ごたえが絶妙で味わい深い。

 

「っ……こんな美味しい料理、生まれて初めてかもしれません」

 

政宗「いい顔だな。腕によりをかけた甲斐がある」

 

「こんなにたくさん、政宗さんがひとりで全部作ったんですか?」

 

政宗政宗でいい。そんなに驚くことか? それに、食う人間が多いほど作り甲斐があるしな」

 

三成「政宗様は美香様を驚かせるために、はりきってご準備なさっていたんですよ。こはる様に気づかれないよう、秀吉様からお願いして町へお出かけしていただいてる間に」

 

「え、そうなの……?」

 

にこにこと微笑む三成くんを前に、周りから微妙な空気が漂った。

 

蘭丸「ええっと、三成様……?」

 

秀吉「それを言っちゃ……」

 

家康「はぁ、台無し……」

 

(秀吉さんが私にお小遣いをくれたのは、息抜きだけじゃなくて……みんなでサプライズの準備をするため?)

 

秀吉「あー…つまり、ここ数日お前がふさぎ込んでいたからな。そういう時は、何より美味い料理が効くだろ。ほら、好きなだけ食え」

 

優しい眼差しが向けられ、じわりと胸が熱くなっていく。

 

(今まで私は、武将たちの一面しか見てなかったんだな)

 

「ありがとうございます、すごく嬉しいです!」

 

家康「ねえ、その畏まった話し方、うっとうしいんだけど」

 

「え?」

 

家康「いい加減、敬語やめなってこと。……俺も呼び方、政宗さんと一緒でいいから」

 


「……うん、ありがとう」

 

(家康さん……、じゃなくて家康は、そっけないなりに歩み寄ろうとしてくれてるんだ)

 

むずむずとくすぐったい気持ちになって、笑みがこぼれる。

 

(佐助くんの言葉は本当だった。怖がってるだけじゃ何もわからない。私も佐助くんみたいに、この時代の人たちと、真正面から向き合ってみよう)

…………


翌日から、私は部屋に引きこもるのをやめて、三成くんを介して信長様に頼み、城の雑務を手伝い始めた。

 

(うーん、お針子の仕事は張り合いがあるな! 今までのスキルを役立てられるし。手が空いちゃたから、新しい仕事を探さないと)

 

三成「美香様、今、お針子部屋からお戻りですか?」

 

「あ、三成くん。うん、ノルマが終わって……じゃなくて、頼まれた分を縫い終えて、ちょうど手が空いたところなの」

 

三成「お針子さん達から、あなたを紹介してもらいとても助かっているとお礼を言われました。裁縫が好きとお聞きしていましたが、とてもお上手なんですね」

 

「よかった…! うまく縫えてるかちょっと心配だったんだ」

 

三成「心配なさる必要なんてありません。見事な出来栄えだと評判ですよ。ほかにも掃除や炊事を手伝って下さり、皆も私も助かっています」

 

「少しでも役に立ててるなら嬉しいな」

 

照れながら答えると、三成くんが目を細めた。

 

三成「……元気になられて何よりです」

 

「え…」

三成「ここへ来られたばかりの時と違い、美香様の笑顔が増えて私も嬉しいです」

 

「……ありがとう、三成くん」

 

三成くんと別れた後、真顔でとぼけてみせる『ちょっとすごい忍者』の友だちを思い浮かべる。

 

(元気になれたのは、佐助くんが背中を押してくれたおかげだ。お礼を言いたいけど、次はいつ会えるんだろう。っ、そうだ……!)

 

…………


部屋に戻った私は、市で買った布地を取り出して広げる。

 

(ささやかでも佐助くんに、お礼の品を贈ろう。サイズや好みはわからないし、突然友だちから服をもらっても重いだろうし……。ここはやっぱり眼鏡ケースでしょう! 佐助くんにとって生命線の眼鏡を守れるよう、できるだけ頑丈にしよう!)

 

…………


その日の夜……

寝る支度をしている最中に、上からトントンと音が聞こえてきた。

 

(天井がノックされてる!?)

 

見上げると、戸板を外して顔を覗かせたのは佐助くんだった。

 

佐助「天井裏からこんばんは」

 

「佐助くん!」

 

音もなく飛び降りてきた佐助くんが口布を外す。

佐助「夜分遅くにお邪魔してごめん」

 

「ううん! どうぞ座って。お茶いれるね」

 

(会いに来てくれたんだ……)

 

嬉しくなって、すぐにお茶の支度を整える。

「どうぞ、佐助くん」

 

佐助「……! これは」

 

佐助くんが湯呑に入ったお茶を見つめる。

 

「どうかしたの? 秀吉さんが持ってきてくれた茶葉を使ったんだけど……」

 

佐助「あまりに良い香りで驚いた。ずっとかいでいたいくらいだ。おそらく君のために、特別用意してくれた上質の茶葉だろう」

 

(そうなんだ。私もこのお茶は美味しいと思ってたけど……) 

 

「佐助くん、お茶に詳しいんだね。それも忍者だから?」

 

佐助「いや、昔から、いい香りには目がなくて。あ、この場合は『鼻がなくて』が正しいんだろうか……」

 

(へえ、意外な一面……)

 

「佐助くんて、会うたびに発見と驚きがあるね」

小さく笑みをこぼすと、佐助くんが真っすぐ私へ視線を向ける。

 

佐助「そんな風に笑えてるところを見ると、元気になったみたいだな」

 

「うん、佐助くんのおかげで、武将のみんなと少し仲良くなれたんだ。この前、みんなに宴サプライズをしてもらって……」

 

そこまで話したところで、佐助くんが手のひらで私の言葉をさえぎった。

 

佐助「嘘はつけないから言うけど、実はその様子、俺もこっそり見てた」

 

「そいうなの!? もしかして天井裏から!?」

 

佐助「いや、畳のすき間から」

 

「さすが、ちょっとすごい忍者……!」

 

(どこでも自由自在に入り込めるんだ)

 

佐助「無許可で申し訳ない。敵襲を受けたあとだったから、君が大丈夫だったか気になって」

 

「そうだったんだ……。心配してくれてありがとう」

 

佐助「畳のすき間から偵察して、お礼を言われたのは初めてだ」

 

「ふふ! 私だって、武将の飲み会に参加するのも、忍者の友だちができるのも初めてだよ」

 

佐助「たしかに」

 

数日ぶりに交わす佐助くんとの突拍子もない会話が、楽しくて心地良い。

 

(心配して会いに来てくれるなんて、佐助くんってやっぱり親切でいい人だ)

 

「佐助くんのアドバイスは間違ってなかったよ。現代と同じで、相手を理解しようと思って向き合えば、ある程度なんとかなるものだね」

 

佐助「君が武将たちとコミュニケーションを取る気になってくれてよかった。名だたる武将たちと直接話せる機会を逃すなんて、もったいないから」

 

(もったいないって……)

 

「そういえば佐助くんは前に、戦国時代が好きだって言ってたね」

 

佐助「ああ。正直、安土武将飲み会に参加できる君がうらやましい。……いや、うらやましいと感じたのは、君にだけじゃないけど」

 

「え……?」

 

佐助「……なんでもない」

 

ゆっくりとお茶を飲み干した佐助くんが、話を切り替えた。

 

佐助「ところで明日、また城下に出かけない? 会わせたい人がいるんだ」

 

(私に? 誰だろう……)

 

どんな相手か見当もつかないけれど、自然と胸が踊りだす。

 

「ぜひぜひ! 三成くんに言って、お休みをもらっておくね」

 

佐助「それじゃ、また明日」

 

「うん……!」

 

(前に城下へ行った時は不安でいっぱいだったけど、すごくわくわくする)

 

乱世で出会った新しい友達–––彼といると、とんでもなく面白いことが起こりそうな予感がする。

その夜、気持ちが弾んで私はなかなか眠ることができなかった。

 

……


翌日––

 

佐助「こっちだ、美香さん」

「お待たせ、佐助く……、あれ!? あなたは、あの時の……!」

 

幸「お前、イノシシ女!?」

 

佐助くんの隣りにいる男性、この口の悪さには、間違いなく覚えがある。

 

〜〜

 

幸「っ…バカ、待て!」

 

(……! 目の前、崖だったんだ)

 

幸「あー……焦った…」

 

「ありがとうございます、助けてくれたんですね…」

 

幸「お前、佐助の知り合いだったのかよ」

 

佐助「彼は幸。流しの行商で、友だちなんだ

「そうなんだ……。あなた、商人なのに、あの夜、なんであんな場所にいたの……? 武将っぽい人たちと、一緒だったよね……?」

 

佐助・幸「…………」

 

(あの時は気が動転してて、名前は忘れてしまったけど……今思えば、ただならない雰囲気をまとってた)

 

幸「あー……あの夜は佐助に頼まれて、知り合いのお偉いさんの道案内をしてたんだ。あちこち商売して歩いてるから、京の道にも詳しいんだよ」

 

「そうなんだ……」

 

佐助「…………」

 

面倒くさそうに説明する幸の横で、なぜか佐助くんは難しい顔をして黙っている。

 

「ふたりは知り合って長いの?」

 

佐助「ああ。幸と出会ってから、俺は毎日がいっそう楽しくなった。仕事に張り合いが出て、身体の調子も絶好調になったから、君にもどうかと思って」

 

幸「おい、人をオススメの健康法みてーに紹介すんな」

 

(息ピッタリだな、このふたり)

 

幸「で? お前の方は、佐助の何なんだよ」

 

「それは、ええっと……」

 

(佐助くんはどこまで、この人に話してるんだろう?)

 

迷いながら佐助くんの方をちらりと見ると……

 

佐助「…………」

 

(両目をパチパチさせてる……。これ、佐助くん流のウィンクだ。『現代人だってことは黙っていたほうがいい』って、アイコンタクトかも)

 

「私は……佐助くんと出身が同じで、それで友だちになったの」

 

とっさにごまかすと、幸の口端が意地悪く上がった。

 

幸「へー。崖っぷちを目ぇつむって全力疾走するトンチンカンが、用意周到な佐助の友だちとはな」

 

「な……っ。佐助くんの友だちだから黙ってたけど、初対面の女性をイノシシ女呼ばわりする無神経な人に、トンチンカンなんて言われたくないよ」

 

幸「ほんとにイノシシみてえだったんだから仕方ねーだろ。シカとかキツネじゃ猪突猛進の感じ出ねーし」

 

「たとえが野生動物限定ってどういうことっ?」

 

佐助「ふたりとも、気持ちは嬉しいけど俺のために争わないでほしい」

 

こはる・幸「そうじゃないから! あっ、かぶった」

 

幸「……っ、たく、真似すんなよ」

 

「ふふ、幸こそ!」

 

怒っていられなくなって、同時に吹き出してしまう。

 

佐助「親交が深まって何よりだ。せっかくだし三人でお茶でもしよう」

 

幸「なに勝手に決めてるんだよ。俺は商いの最中だぞ」

 

幸が指さした風呂敷の上には、美しい装飾品が並んでいる。

 

(どれもすごく綺麗だけど……)

 

「幸、女性向けの飾りを扱ってるんだ。女心、全然わからなさそうなのに……」

 

幸「ほっとけ! 色々事情があんだよ」

 

佐助「少しくらい店を閉めても大丈夫だ、幸。どうせ今日もたいして売れないだろうし」

 

幸「お前な……。ま、売れねーのは事実だけど。女ってなんでこんなガラクタ欲しがんだろうな」

 

佐助「そういうとこだぞ、幸」

 

「取り扱い商品変えた方がいいと思うよ?」

 

幸「ったく、ふたりしてうるせーよ」

 

「わっ!」

 

佐助「……!」

 

苦笑する幸にふたり連続でデコピンをお見舞いされた。

 

佐助「幸、痛い」

 

「やっぱり売れる気がしないね……」

 

佐助「ああ。俺もその意見には同意だ」

 

幸村「うるせー。もう一発くらわされたいのかよ」

 

文句を口にしながらも、幸は風呂敷に商品をくるんで立ち上がった。

 

幸「行くぞ。こーなったら安土一うまい甘味、佐助におごらせる」

 

佐助「そう来てくれると思った。行こう、こはるさん」

 

 

幸と佐助くんと一緒に入った茶屋は大勢の客で賑わっていた。

 

(この時代の最新トレンドカフェなのかもな。現代人的には古民家カフェだけど、素敵なお店……)

 

幸「この店は団子がうまい。特に粟団子な。おーい、粟団子と茶を三人前頼む」

 

店主「はいよ」

 

「待って、私、よもぎ餅が気になるんだけど……」

 

幸「今度にしろ。粟団子で間違いねーから」

 

あっさりと幸は注文を押し通す。

 

「横暴……!」

 

幸「いーから俺の言うこと聞いとけ」

 


佐助「幸、そういうとこだぞ」

 

幸「それ、意味わかんねーけど妙に腹立つわ」

 

「もしかして、味を保証できるくらい幸は甘味通ってこと? 甘いもの好きなんだね」

 

幸「いや……。詳しくなったのは、仕方なくっつーか、やむを得ずつーか……」

 

(なんだか困った顔してるな)

 

その後すぐに運ばれてきた粟団子を、早速一口かじってみる。

 

「わぁ、本当に美味しい!」

 

幸「だろ? すっげー美味いよな!」

 

(ふふ、すごく嬉しそう。本当に美味しいって知ってたから、私たちに勧めてくれたんだな)

 

佐助「幸、まるで自分が作ったかのように、店の粟団子を自慢するのは……」

 

幸「んだよ、また文句つける気か?」

 

佐助「いや、幸の素晴らしい長所だなと思って」

 

幸「っ、急に真顔で褒めんのやめろ。調子狂うじゃねーか」

 

「ふふふ、ふたり、息ぴったりだね」

 

幸「お前と佐助もなかなかのもんだと思うけど? ほら、もう一個食っとけ」

 

「うん、ありがとう!」

 

(よかった……幸って口は悪いけど、悪い人じゃなさそう、さすがは佐助くんの友だちだ)

 

年齢が近いことも手伝ってすっかり打ち解けて、いくらしゃべっても話が尽きそうにない。

 

安土城にいると、周りは戦国武将ばかりだから、簡単に気を緩めるわけにはいかないけど……)

 

今だけは、ただの普通の同世代として、わいわいと騒いでいられるのが嬉しい。

 

(戦いを目の当たりにしてから、なんてことないこの時間がとても大事だって、今はわかる。佐助くんは、会うたび私に元気をくれるな)

 

…………


夕暮れが近づいたころ、仕事に戻る幸と別れて、私は佐助くんに城まで送ってもらうことになった。

 

佐助「美香さん、今日は幸に会ってくれてありがとう」

 

「お礼を言うのは私の方だよ。すごく楽しかった」

 

佐助「それならよかった」

 

(次に会えるのは、いつだろう……。よく考えたら、私から佐助くんに会いにいく手段がないんだ。すぐに連絡を取り合える現代だと、考えられないな……)

 

話をしているうちに城が近づいて、だんだん心細くなってくる。

 

電話もメールもSNSもない乱世で、どうすればこの絆を結んだままにしておけるだろう。

 

『友だち』というだけのつながりが、とてもはかないものに思えて、不安が広がっていく。

 

(そうだ!)

 

「あの! 佐助くん、狼煙の上げ方、教えてくれないかな?」

 

佐助「え……」

 

「この時代はスマホもパソコンもないでしょ? 佐助くんにどうしても会いたくなった時、連絡する方法があったらいいなと思って……」

 

(あれ? 私、なんかすごく恥ずかしいこと言ってる……?)

 

そう気づいて、途中で言葉が尻すぼみになる。

 

「ええっと……やっぱり、なんでもない」

 

気恥ずかしさに俯きかけた時、佐助くんが自分の懐に手を入れた。

 

佐助「丁度、これを渡そうと思ってた」

 

(これは……?)

 

渡された小さな袋へ視線を落とす。

 

佐助「狼煙をあげるための材料だ。穴を掘って、これを入れて火をつけたら、白く細い煙が立つ。天候がよければ五キロ先でも見分けられる。研究を重ねて、少量でたくさん煙が立つように改良した優れものだ」

 

(連絡手段を用意してくれてたんだ……)

「ありがとう……!」

 

佐助「いや。俺も、君に不安な顔をさせるのは本意じゃない。俺が四年の間に培ってきた乱世のライフハックを、君に伝えたいと思ってる」

 

「佐助くん……」

 

佐助「君さえよければ今度『戦国講座』をしよう。ハッピーな戦国ライフを送れるように」

 

(すごい……佐助くんて、本当に頼りになるな)

 

『ちょっとすごい忍者』は、会うたびいつも、私から心配を取り除いてくれる。

 

クールに見えてお茶目、それでいて、とぼけてみせた次の瞬間、深い思いやりで包んでくれる。

 

(佐助くんって、なんて素敵な忍者なんだろう!)

 

「『戦国講座』の受講を申し込みます! よろしくお願いします!」

 

佐助「お任せあれ。それからあとは……君の不安を取り除けるよう、狼煙以外の対策を検討してみる」

 

「狼煙以外の対策……?」

 

無表情な佐助くんの口元に、かすかだけれど自信に満ちた笑みが浮かんだ。

 

佐助「楽しみにしておいて」