ikemenserieslのブログ

イケメンシリーズ ストーリーのネタバレです

100プリ【ゼノ】共通1話前半

手首を掴まれたまま転がるように車内から出されると脱げてしまったガラスの靴まで転がり落ちる。

 

(いけない...っ...)

 

視線を上げると逆光の中、私をじっと見下ろす姿があった。

突然の出来事に呆気に取られてると、足の甲に指先がかかりつま先にガラスの靴がそっと触れた。

 

「.....何してるんだ、『プリンセス』」

 

(...誰?)

 

逆光に次第に目が慣れてきて、はっきりと顔が見えてくる。

 

「アラン...!どうしてこんなところにいるの?」

 

アラン「それはこっちの台詞」

アラン「城門の見回りしてたら、お前がタクシーに乗るのが見えたんだよ」

 

アランの後ろには、衛兵と思われる人が車を停めてこっちを見ていた。

 

アランは立ち上がると、私を見下ろす。

 

アラン「なに、もう逃げ出したわけ?」

 

「逃げ出した...?」

 

アラン「そうだろ、この状況だけ見れば」

 

(そう思われても仕方ないけど)

(きちんと本当のことを伝えないと)

 

立ち上がり、ドレスに付いた砂を払い、アランを真っ直ぐに見据える。

 

「逃げ出した訳じゃないの」

「プリンセスを引き受けるのに、私はプリンセス制度について何も知らなかった」

 

アラン「...........」

 

「だから、お城に連れてきてくれたクロードを追って飛び出したの」

 

アラン「お前、どんだけ慌ててたんだよ」

 

アランが吹き出すように笑ったその時.......

 

アラン「........」

 

(アラン...?)

 

アランがふっと視線を上げると、一台の車が走り抜けて行く。

 

アラン「...シュタインの車か」

 

「シュタイン?」

 

アラン「いや、なんでもない。それより早く乗って」

 

「うん」

 

亜嵐の後ろについて行くと、振り返って笑みを向けられる。

 

(.....?)

 

アラン「戻ったら覚悟しといた方がいかもな」

アラン「プリンセスの1番最初の仕事が待ってるから」

 

............

 

(1番最初の仕事って叱られることだったんだ)

 

ジル「アラン殿が見つけてくださらなかったら、大騒ぎになるところでしたよ」

 

「...ごめんなさい」

 

ジル「確かに、100日間という説明が漏れていたようですね」

 

ジル「クロードを探して外へ出た...という話も納得しましょう。」

 

ジルは息をつくと、言葉を重ねていく。

 

ジル「よろしいですか、プリンセス?」

 

ジル「あのガラスの靴に選ばれた女性は、選ばれたら原則断ることはできません」

 

「そう...」

 

(あんな大々的にお触れがまかれるくらいだし覚悟はしてたけど)

 

ジル「100日間経ったら、またセレモニーが行われてガラスの靴を返還する儀式があります」

 

「ガラスの靴を返したらどうなるんですか?」

 

ジル「その時らウィスタリアに残ることも、出て行くことも貴女次第ですよ」

 

ジル「のこでやっていく覚悟はあるのか、聞かせて頂けますか...?」

 

(この場所で、やっていく覚悟...)

 

まだ右の左もわからない、だけど心にあるのはたった一つの想いだった。

 

(何かを変えたくてこの国に来た)

 

(...何かを変えるためは、怖くても飛び込むしかないんだ)

 

私は1度だけ息をついて、口を開いた。

 

「はい、よろしくお願いします。ジルさん」

 

ジル「...そうですか」

 

妖艶な笑みを浮かべたジルの指先が顎にかかり、くいっと持ち上げられる。

 

(...っ...)

 

ジル「敬語は不要だとお伝えしたはずです。ジル、そう呼んでください」

 

「はい。あ!.....うん、ジル」

 

ジルは指先を離しながら、どこか可笑しそうに微笑んだ。

 

ジル「貴女は教育のし甲斐がありそうですね」

 

.........

 

___...プリンセス終了まで、あと99日間

 

 

窓から差し込む陽ざしが本をめくる手元を淡く照らす。

 

「セレモニーはウィスタリアで国民からプリンセスを選ぶ」

 

「...という過去にあった歴史が現在まで残った伝統である」

 

「プリンセスセレモニーは大切な国の伝統として色濃く残っている」

 

ジルから貸してもらった本を声に出して読んでみる。

 

(私は、まだ知らないことばっかりだ)

 

足りない知識を埋めるように文字を目で追っていると...

 

(これ...)

 

本に書いてある単語に目を奪われる。

 

「シュタイン...」

 

(そういえばアランが言ってたっけ...)

 

ーーーーーーー

アラン「シュタインの車か」

 

「シュタイン?」

 

アラン「いや、なんでもない。それより早く乗って」

 

ーーーーーーー

 

続く文字を読もうとしたその時......

 

ユーリ「わからないことがあるなら俺が先生になろっか?」

 

「ユーリ!」

 

ユーリ「頑張ってるね、美香様」

 

ユーリはニコッと笑うと、隣にある椅子を引いて手元を覗き込む。

 

「ユーリ、このシュタインって何のこと?」

 

ユーリ「ああ、ウィスタリアの隣にある国だよ」

 

ユーリは地図を指で辿りながら、言葉を重ねていく。

 

ユーリ「同盟国で、貿易を交わしてるんだ」

 

「.....ゼノ=ジェラルド」

 

ユーリ「この方が国王陛下」

 

歴代の国王陛下の名前が書かれた1番新しい項目に、その名が記されていた。

 

ユーリ「数年前に即位して、一代でウィスタリアと交易を結んで国を急速に成長させた人」

 

「なんだかすごい人なんだね」

 

ユーリ「...そう、すごい人なんだ」

 

ふとユーリの横顔を見ると、どこか真剣の表情で本を見つめている。

 

(...ユーリ?)

 

「ユーリ、疲れてる?」

 

ユーリ「嫌だなぁ、文字を追ってたら眠くなっただけ」

 

いつものユーリらしい笑顔に、ほっとする。

 

「少し気持ちは分かるけど」

 

ユーリ「でしょ?本って眠れない夜には最適のアイテムだけどね」

 

ユーリはウィンクすると、本をとんっと指で指した。

 

ユーリ「あ、でもきっと美香様はもうすぐゼノ様に会えるんじゃないかな?」

 

「え...?」

 

ユーリ「だって、数日後プリンセスのお披露目パーティーがあるから」

 

(.....お披露目、パーティー!?)

 

目を見開くとユーリが満面の笑みで微笑んだ。

 

ユーリ「あれ、知らなかった?」

 

.........

 

ーー数日後、お披露目パーティー当日がやってきて

 

(よし!やれるだけのことはしてきたし)

 

まだ慣れないドレス、そしてガラスの靴を履いて鏡を覗き込む。

この日まで、ダンスの練習、マナー色んなことを教えてもらった。

 

それでも、鏡に映る自分はどこか不安げだ。

 

(いけない、不安な時こほ上を向くこと)

 

ぐっと視線を上げて、ドレッサーに置いたスピーチ原稿を持って窓辺に寄りかかる。

 

(ちゃんと、プリンセスらしく挨拶しないと)

 

原稿を広げたその瞬間、ざあっと強い風が吹く。

風にさらわれて、窓の外に原稿がひらひらと舞う。

 

「...いけない!」

 

腕を伸ばしたその時、体勢が大きく崩れて.....

 

(...っ..)

 

窓の外に体が投げ出されて、慌ててバルコニーに手をかける。

 

「...!」

 

(...どうしよう、誰か呼ばないと)

 

それでもバルコニーに掛けた手が痛くて、何も言葉が出ないまま目をぎゅっとつむったその時.....

 

???「...来い」

 

「...?」

 

???「受け止める、手を離せ」

 

(...っ...、...もう、駄目だ)

 

階下から聞こえてきたその声に促されるように手を離した瞬間、腰にぐっと腕が回される感覚がして.....

 

夜の風が強く吹いて、そっと目を開く。

 

???「............」

 

目の前には窓から身を乗り出して抱き留めてくれている男性の姿があった。

 

(...助けて、くれたんだ)

 

それでも突然のことに言葉が何も出てこない。

 

唇をきゅっと噛み締めると、目の前のグレーの瞳がすっと細められた。

 

???「腕を回せ」

f:id:ikemenseriesl:20200121192254p:image

「っ...はい」

 

掠れた声と、男性の上着がはためく音だけが夜に響いていく。

息を呑んで、ゆっくり腕を伸ばすと低い声が重なった。

 

???「ちゃんと捕まっていろ」

 

 

 

(この人は......誰?)