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イケメンシリーズ ストーリーのネタバレです

王宮【アラン】12話後半honey

シュタインとの極秘会談を終えて別邸を出ると、誰かに呼び止められた。


???「美香様……」


振り返ると、そこに立っていたのは…。

 

「ユーリ……」


ユーリの姿を見上げ、私はその名前を呼んだ。

 

ユーリ「…………」

 

..........


別邸から少し離れた場所で、私はユーリと話をすることになった。


ユーリ「これを、返したくて」

 

「え?」


そう言ってユーリが手渡してくれたのは、持ち出された機密文書だった。

受け取りながら、私は尋ねる。


「ユーリ、どうして……」


(なぜウィスタリアに来て、文書を持ち出したりしたんだろう……)


するとふっと笑みを浮かべ、ユーリが私を見た。

 

ユーリ「ゼノ様のためになればと思ったんだけど、必要なかったみたいだから」


木々の隙間から見えるシュタインの馬車が動き出し、一行がゆっくりと帰路についていく。

その様子に目を移しながら、ユーリがぽつりと言った。


ユーリ「……美香様が、プリンセスじゃなかったら良かったのに」

 

「ユーリ……?」


(出逢う場所が違っていたら、ユーリとの関係は変わっていたのかな?でも……)

 

私はユーリを見上げ、口を開く。


「プリンセスだから、ユーリに会えたんだよ。私はユーリに会えて、良かったと思ってる」

 

ユーリ「…………」


私の言葉に少し考えた様子のユーリが、やがて笑みを浮かべる。

そうしてゆっくりと、手を差し出した。


(ユーリ……)


私も手を差し出し、握手を交わしたその時…―。


「……っ」


そのままユーリに手を引かれ、軽く抱き寄せられた。

耳元で、ユーリの囁きが聞こえる。

 

ユーリ「さよなら、プリンセス」


(ユーリ……)


やがて身体が離れると、ユーリが踵を返して去っていく。

 

「……さよなら」

 

その姿を見送っていると、木々の間からアランが現れた。

ちらりとユーリの後ろ姿に視線を送ると、私の方へ歩いてくる。


「アラン……」


アラン「…………」


そうして目の前に立つと突然、アランが私の額を軽く叩いた。


「っ…え、何?」


驚き見上げると、アランが顔を背ける。

 

アラン「……別に」


「……?」

 

(何か、怒ってるのかな……)

 

 

..........


そして数日後、アランたち騎士の戦地への派兵が決まり、私は夜まで執務室にこもっていた。


(アランは戦場で戦ってくれる……。私も誰からも認められるプリンセスになれるように、努力しなくちゃ。それが、今私に出来ることだから……)

 

するとそこに、レオが現れた。

 

レオ「こんばんは、プリンセス。頑張ってるみたいだね。教えてあげようか?」


レオの笑みを見上げ、私はほっと息をつく。


「ありがとう、レオ」

 


..........


夜が、どんどん深くなっていく。

 

そうして勉強を教わっていると、眼鏡の奥で、レオがふっと目を細めた。


「……どうしたの?」


聞くと、レオが優しい声音で言う。


レオ「……なんだか変わったね、美香ちゃん」

 

「……そうかな」


私が呟くと、レオがにっこりと微笑んだ。

 

レオ「……アランのおかげだとすると、妬けちゃうな」


するとその時、部屋のドアがゆっくりと開かれていった。

視線を送ると、そこにはアランの姿がある。

 

「……アラン?」


アラン「…………」

 

アランが部屋に入ってくると、レオが立ち上がる。


レオ「謹慎、すぐにとけたみたいで良かったね」

 

アラン「…………」


そしてレオは私を見下ろし、笑みを浮かべた。


レオ「また教えてあげるよ。じゃあね、美香ちゃん」

 

「ありがとう、レオ」

 

レオが無言のままのアランとすれ違うように部屋を出ていく。

そうしてドアが閉まると、私は尋ねた。


「アラン、どうしたの?」

 

アラン「いや……アーサー知らねえか?」

 

「え、いなくなっちゃったの?」


私は立ち上がり声を上げる。

そうして私はアランと一緒に、アーサーを探しに出かけた。

 

..........

 

(あと探してないのは、ここだけだけど……)

 

私はアランと共に、時計塔の階段を登っていく。

 

すると、その時…―。

 

「……!」

 

丁度12時の鐘の音が鳴り始め、私は驚いて辺りを見回した。


(この音……)

 

その瞬間、初めて城を訪れた時のことを思い出す。

 

(そういえばあの時も、鐘の音が鳴っていたっけ……)


―――――――

 

アラン「『プリンセス』がこんなところで何してる。やる気出してんのかと思えば…逃げ出すつもりか」 

―――――――

 

 

私は、あの時からアランに惹かれていったのかもしれないと考えた。


(あの時抱きとめてくれたのが、もしもアランじゃなかったら……私は、違う人を選んでいたのかな?)


アラン「……アーサー」

 

思っていると、アランがアーサーを呼んだ。

すると階段の途中で眠っていたアーサーが、尻尾を振り駆けてくる。

 

(ううん、そんなことはない……)

 

アーサーを抱きとめたアランが、笑みを浮かべて言った。


アラン「見つけた。こんなとこにいたのかよ」

 

「…………」

 

顔を上げたアランと、目が合う。


(目が合うだけで、こんなに惹かれてしまうから……)

 

..........

 

 

アーサーと一緒に、アランが部屋まで送ってくれた。

するとアーサーが、走って部屋の中まで入っていってしまう。


アラン「俺も留守にするし、丁度いいだろ」

 

「うん……」


(そっか……アランしばらく留守にするんだ)


私は自然と、顔をうつむかせてしまった。


(やっぱり、少し寂しいな……)

 

黙ったままいると、アランが私をじっと見下ろして言う。


アラン「……お前さ、あんまきょろきょろすんなよ」

 

「え?」


私は顔を上げ、アランの言葉に戸惑い目を瞬かせる。


(きょろきょろって?)

 

アラン「…………」


するとアランが息をつき、呟くように口を開いた。


アラン「いいや。そのうち俺なしじゃいられないようにしてやるよ」

 


..........

 

アランが派兵されてからしばらくが経ったある日。

 

私は執務室に現れたジルから、戦地についての報告を受けていた。


ジル「シュタイン側からの働きかけにより、一時休戦となります」


ジルは、すぐに条約が締結され戦争は終結するだろうと言う。

 

「良かった……」


(ゼノ様が、ウィスタリアを助けて下さったんだ……)

 

ほっと胸を撫で下ろすと、ジルが私を見下ろした。


ジル「先日の極秘会談の影響でしょう。プリンセスのお手柄ですよ」

 

「え……?」

 

ジル「これでようやく、宮廷の重鎮も文句が言えなくなりました」


見上げると、ジルが目を細めて優しく言ってくれる。

 

ジル「よくやりましたね」

 

「ジル……」


ジルからもらった初めての褒め言葉に、私は息を呑んだ。


(すごく、嬉しいな……)

 


そうして庭へと出ると、ばったりとロベールさんに会った。

 

ロベール「久しぶりだね、美香ちゃん。なんだかすごくいい表情してるよ」

 

「え……そうですか?」


思わず顔を上げると、ロベールさんがふわりと目を細める。


ロベール「前に話を聞いた時は迷っていたけど……今は違う。とても真っ直ぐな目をしてる」


(ロベールさん……)

 

私は笑みを浮かべ、ロベールさんの言葉に小さく頷いた。

 


..........


そして日が暮れ始めた頃、私はアーサーを散歩させながら息をつく。


(私は、プリンセスとして役目を果たせたのかな……。でも、まだ……)

 

 

―――――――

 

ジル「貴女にはプリンセスとして、宮廷に出入りする王侯貴族の中から次の王となる人間…つまり、貴女の王子を選んでいただきます」

 

―――――――


(プリンセスとしての、一番の役目が残ってる……)

 


その時…―。

 

後ろから、ずっと待っていた声が聞こえてくる。

 


???「美香....」


名前を呼ばれ、私はそっと振り返る。

 

「アラン……」


アーサーが尻尾を振り、アランの元へと駆けていく。

 

アラン「ただいま」

 

アランがアーサーの頭を撫でて言うと、顔を上げた。

 

「…………」


アラン「…………」


私がただ見つめていると、アランがゆっくりと近づいてくる。

 

「お帰りなさい……」

 

声は、いつの間にか掠れてしまっていた。


アラン「…………」

 

そうして、アランが私の目の前に立った。

 

「約束……守ってくれてありがとう」

 

(アランは、最後まで戦ってくれた……)


―――――――

 

「……アラン=クロフォード。ウィスタリアのため、一緒に戦ってくれますか?」

 

アラン「ああ……命をかけて」

 

―――――――


するとアランが、私の頭をぽんっと撫でた。


「……っ」


そうして少し乱暴に撫でた後、アランが微かに笑いながら言う。


アラン「よく頑張ったな」


「………」

 

アランの言葉が耳に届いた瞬間、私の目から涙が一粒こぼれた。


「え……」

 

(こんなつもりじゃなかったのに……)


戸惑いながら目元を拭うものの、涙は次から次へと溢れてくる。

 

アラン「……ここで泣くのかよ」


アランが私を見下ろしたまま、少し呆れたように、でも笑みを浮かべながら言った。


「だ、だって……」


(アランにそんな風に言ってもらえるなんて……頑張ってきてよかったって、思えたから……)

 

アラン「…………」


すると、アランが指先で私の涙を拭ってくれる。


思わず顔を上げると、そのままアランがキスをしてくれた。


「…んっ……」