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イケメンシリーズ ストーリーのネタバレです

王宮【アラン】9話前半

差し込む朝陽に気づき目を覚ますと、窓の外には朝焼けが広がっていた。

 

(朝になっちゃった……)


ゆっくりと身体を起こし見下ろすと、ぐっすりと眠るアランの姿が見える。


(私、アランと……)

 

 

―――――――

 

アラン「もっと教えて、お前のこと」

 

「……っ」

 

―――――――

 

 

「…………」


アランの寝顔に昨夜の出来事を思い出し、私はかあっと顔を赤くした。

 

するとその後、アランが微かな唸り声をあげて寝返りをうつ。


アラン「ん……」

 

アランに布団を引っ張られ、私も慌てて引っ張り返した。

 

アラン「…………」

 

するとまぶたを薄く開き、アランが低い声で言う。


アラン「何すんだよ」


「え、だって……」

 

(こんな格好……何かかけてないと、恥ずかしいのに)


アラン「…………」


顔をうつむかせていると、突然アランが布団を強く引いた。


「……!」

 

引っ張られた拍子に、私の身体がアランの上に倒れてしまう。

慌てて身体を起こそうとすると、アランがぐっと背中を抱き寄せた。


「あ、アラン。離して……!」


アラン「やだ」


私の身体を引き寄せたまま、アランが再び目を閉じる。


「…………」

 


窓から差す朝焼けは、どんどんと濃さを増していた。


(……このまま、朝が来なければいいのに)


同じように目を閉じ、私は浅い眠りに落ちていった…。

 


........

 

アーサーの鳴き声で目を覚ますと、隣にアランの姿はなかった。


(え……)


見上げると、すでに支度を整えたアランの後ろ姿が見える。

その姿に、鼓動が一度大きく跳ねた。


(もう、行っちゃうんだ……)


そうしてゆっくりと振り返ったアランと目が合った。

 

アラン「…………」

 

「…………」

 

黙ったまま見つめ合ううちに、アランがふっと目を細めた。

そうしてしゃがみこみ、アーサーの頭を撫でる。


アラン「こいつの世話、頼んだからな」

 

「うん……」


頷くと、アランが何も言わずに笑みを浮かべて立ち上がった。


アラン「…………じゃあな」


やがて立ち上がったアランを見上げ、私は口を開く。


「……行ってらっしゃい」

 

私が小さな声で答えると、アランはそのまま一度も振り返らずに部屋を出ていった。


「…………」

 

(アラン……)


突然訪れた静寂と寂しさに耐えきれず、私はベッドの上で一人、膝をぎゅっと抱える。


(頑張らなくちゃいけないのに……どうしても、寂しい)


そうしてわずかな時間が流れた頃―…。

 

何かに気がついたアーサーが吠え始めた。

 

「……アーサー?」


私が顔を上げた瞬間、ドアが開きアランが現れる。

 

「え?」

 

アラン「忘れもん」


そう言うと戸惑う私に近づき、アランが唇を重ねた。


「……っ」


驚き目を見開いた私は、睫毛を震わせてまぶたを閉じていく。

感触や温度を確かめるような優しいキスに、私は自然と指先をアランの腕に乗せた。


アラン「…………」

 

やがて唇が離れると、アランが笑って囁く。


アラン「…俺のいない間、あんまちょろちょろすんなよ」


「ちょろちょろって……もう」


私も笑みを浮かべ、ゆっくりと頷いた。

 

「うん」


(……寂しいけど、私はアランの帰りを楽しみに待っていなきゃ)

 

 

..........


部屋へと戻ってくると、ドアの前でばったりとユーリに会ってしまった。


「……!」


ユーリ「美香様……どうしたの?」


「あ、えっと……」


(ど、どうしよう……何て言えば)

 

ユーリ「…………」


顔を赤くしたまま慌てる私を見つめ、ユーリが尋ねる。


ユーリ「もしかして、アラン様のところに行ってたの?」


「え……」


ユーリの言葉に、私は鼓動を跳ねさせる。

 

「う、うん……見送りに」


ユーリ「そうなんだ……」

 

目を細めたユーリが、いつもと変わらない笑顔でドアを開けてくれた。


ユーリ「とにかく支度して、朝食に行かなきゃね」


部屋に入り身支度を終えると、私はユーリに声をかける。


「出来たよ、ユーリ。待たせちゃってごめんね」

 

ユーリ「…………」


いつもとは違う雰囲気をかもし、ユーリが少し視線を下げていた。

 

「……ユーリ、どうしたの?」


(何かあったのかな?)

 

尋ねると、ユーリがはっとしたように顔を上げる。

そうして私の視線に気づくと、いつものように微笑んで言った。


ユーリ「ねえ、美香様。もしかして、アラン様に決めたの?」


「……え!?」


ユーリの問いかけに、私の頬が赤く染まる。

 


―――――――

 

アラン「ああ。派兵されることになった限り、俺はまだ一介の騎士だからな。今、お前に答えることは出来ねえけど……」

 

―――――――


(アランが答えられない限り、私からは言わないほうがいいよね……)


「……ううん、まだわからないよ」


ユーリ「……そっか」


私の答えに、ユーリが呟く。

 

(やっぱりユーリ、なんだかいつもと様子が違うみたい……?)


「あの……」

 

何か聞こうと私が口を開きかけたその時、慌ただしくドアが叩かれた。

 

驚き振り返ると、厳しい表情を浮かべたジルが部屋へと入ってくる。


「ジル……」


ジル「お話があります、プリンセス」

 

(え……?)


厳しい表情を浮かべたジルが近づき、私を見下ろす。


ジル「国王陛下の容体が変わりました。私はしばらくの間、あなたの教育係から離れることになります」


「え……!」

 

(国王陛下が…!?)


驚き見上げると、ジルが眉を寄せたまま言った。


ジル「……後のことは、全てユーリに頼んであります。あなたにも色々と……考えて頂かなければなりませんね」


「…………」

 

私はただ静かに、息を呑んだ。

 


..............

 

部屋を出て食堂に向かいながら、私はジルの言葉を思い出していた。

 

(国王陛下の容体が悪いだなんて…このままじゃ、ウィスタリアは……)


プリンセスとしての役割の重さが、今になって肩に重くのしかかる。

 

「…………」

 

(王様がいなくなってしまったら、この国はどうなってしまうの……?)


???「美香様…美香様!」

 

悩みふらふらと歩いていると、誰かに腕を取られる。


「ユーリ……」


はっと顔を上げると、ユーリが心配そうな目で私の顔を覗き込んでいる。

 

ユーリ「顔色が悪いよ。大丈夫?」


「う、うん…大丈夫」

 

(考え事をしながら歩いていたから……)

 

ユーリ「でも真っ青だよ」


「…………」

 

私は思わずユーリを見上げ、呟く。

 

「私、どうしたらいいんだろう……」

 

ユーリ「…………」


ユーリは黙ったまま、私に触れる指先にぎゅっと力を込めた。

 

 

..........

 

美香を見送った後、以前と同じように、ユーリが厳しい顔で窓の外を見上げていた。

 

ユーリ「…………」


見上げたその先には、国王の部屋がある。


ユーリ「このまま、早く……」


ぐっと眉を寄せたユーリの、低く掠れた声が、廊下に響いていった…。

 


..........

 


美香がジルからの話を聞いた、その数日後…―。

 

アランはネープルス王国とシュタイン王国の国境付近にいた。


アラン「…………」


野営地から様子を窺うアランが、ふと目を細める。

一触即発の雰囲気の中でも剣を交えることなく、終日話し合いが続けられていた。

 

若い騎士「交渉が長引いてますね。どうなるんでしょう……」


アランの後ろで、若い騎士が呟く。

 

若い騎士「ウィスタリアから援軍が来たとはいえ、ネープルスの騎士団は……」

 

アラン「おい」


若い騎士の言葉を遮り、アランが視線も移さないまま言った。


アラン「俺たちの役目はただ守ることだろ。ぐだぐだ言うことじゃねえよ」


若い騎士「……はい」

 

若い騎士が頷くと、やがて足音が響いてくる。

 

アラン「……?」

 

そこに現れたのは、ネープルス王国の宰相だった。


宰相「アラン殿、少しよろしいですか?」

 

アラン「…………」

 

騎士団長として協議の場に呼び出されたアランが、荒野に張られた幕内に入る。

そこには、シュタインの騎士アルバートの姿もあった。


アルバート「……あなたがウィスタリアの」


ふっと笑みを浮かべ、アルバートが立ち上がる。


アルバート「なるほど」

 

アラン「……?」

 

面白がるような視線に眉を寄せ、アランはアルバートを見つめ返した。

すると、アルバートが口を開く。


アルバート「交渉は無事に終わりましたよ。こちらが、譲歩しましょう。お互い、このような小さないさかいは面倒なだけですからね」


アラン「…………」


そうしてすれ違いざま、アルバートが小さな声で囁いた。

 

アルバート「ところでアラン=クロフォード騎士団長。あなたはこんなところにいる場合ですか?」


アラン「……なんのことだ」

 

じろりと視線を向け尋ねると、アルバートが口元に笑みを浮かべる。

 

アルバート「……うちの者が、お世話になっているようで」

 

そうしてふっと囁くと、アルバートがすれ違っていった。

 

アラン「……!」

 

アルバートの言葉に目を見開き、アランが振り返る。

しかしすでに、アルバートは他の騎士たちとその場を後にしていた…。