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イケメンシリーズ ストーリーのネタバレです

王宮【アラン】7話前半

「私、アランのことをもっと知りたい。私に、アランのことを教えて欲しいの……」

 

それだけを言うと、私はアランの隣に腰掛けた。

アランの顔をそっと窺うと、その目はどこか遠くを見ている。

 

アラン「…………」

 

そしてしばしの沈黙の後、黙っていたアランが呟くように口を開いた。

 

アラン「あの頃、俺は……」

 

アランの低い声が、過去を語ってくれる。

宮廷官僚の家柄ながら、騎士を目指すアランを、両親は応援してくれていたのだという。

 


―――――――

 

レオ「すごく、優しい両親だったんだ……」

 

―――――――

 

(レオも言っていたけど、きっとすごく良いご両親だったんだ…)


やがてアランが、表情を暗くしていった。

 

アラン「あの日、俺が稽古から帰ってきた時にはもう……」


部屋の中に、両親が倒れていたのだという。


アラン「その後すぐに、屋敷に火が……」


言い淀むアランに気づき、私ははっと顔を上げた。


「わかったよ、アラン。ごめんね、もういいから……」


(こんな辛い話を聞き出すなんて、やっぱり良くなかったよね……)

 

すると私へ視線を向けたアランが、小さく息をつく。

 

「アラ……」

 

名前を呼びかけると、アランが私の額をぺしっと優しく叩いた。


アラン「何て顔してんだ。もう十年前の話だ、今さら傷つかない。教えてほしいんだろ?」


「う、うん……」


私はアランの触れた額を押さえ、再び黙って話を聞いていった。

 

その後アランは親戚に引き取られたものの、家を飛び出したのだという。


アラン「…………」


不意にアランが眉を寄せ、難しい顔を見せる。


「アラン……?」

 

思わず声をかけると、アランが呟いた。

 

「いや。話はこれで終わりだ」


ふと目が合い、近い距離のままアランが目を細める。


アラン「…………」


アランと目が合い、私の鼓動が一度だけ大きく跳ねた。


「うん……ありがとう、アラン。話してくれて」

 

私の言葉に、アランの目がふわりと細められる。


静寂の中、私はアランの瞳に揺れるランプの灯を見ていた。

 

アラン「…………」

 

やがて視線を逸らし、アランが立ち上がる。


アラン「そろそろ戻れ。見つかったらどうすんだよ」


「あ、うん……」


(また抜け出したことがばれたら、ジルとユーリに怒られちゃうよね……)


アランを見上げ、立ち上がろうとした時…。

アランが私の正面に回り、手を伸ばす。


「え…!ちょっと、アラン?」


腰元から抱え上げられ、私は肩の上で驚いて声をあげた。


「お、降ろして…!」

 

アラン「怪我人は大人しくしてろよ」


(そ、そんな……)


そうして私の身体を抱えたまま、アランが部屋を出た。

 

 

............

 


部屋に戻った私はベッドに腰掛け、ゆっくりと身体を横たえた。


(なんだかすごく、長い夜だった気がする……)


聞いたばかりのアランの話を思い出しながら、ふと思う。

 

(あれ、そういえば……)

 

―――――――

 

アラン「いや。話はこれで終わりだ」

 

―――――――

 

(レオの話は全然出てこなかったけど……聞きそびれちゃったな……)

 

 

............

 

その頃…―。

 

アラン「…………」


廊下を歩いていたアランが、何かに気づき足をとめた。

夜の薄暗い廊下の先から、誰かが歩いてくる。

 

???「アラン、どこに行ってたの?」

 

薄暗い廊下の先には、レオの姿があった。

立ち止まっていたアランが、ふっと眉を寄せる。

 

アラン「…………」


黙ったまま視線を背けると、レオが面白そうに尋ねた。


レオ「怪我をしたって聞いたけど……美香ちゃん、大丈夫だった?」


アラン「……っ」


レオの言葉に、アランの眉がぴくりと上がった。


アラン「……アンタには関係ないだろ」

 

低い声を響かせ、アランが歩き出す。

すれ違おうとしたその時、レオが呟いた。

 

レオ「関係あるでしょ」

 

その声に、アランが思わず振り返る。

 

レオ「謹慎処分を申し入れたんだって?プリンセスを怪我させたから……」

 

アラン「…………」

 

アランが顔を背けると、レオがふっと目を細めた。

 

レオ「お前が何を迷ってるか、わかるよ……」

 

アラン「…………」

 

薄闇の中で、レオがアランを見つめていた。

 

レオ「お前は、命をかけなきゃ誰かを守れないのか?」

 

廊下に響くその言葉に、アランが小さく息を呑む。

 

レオ「プリンセスとしての彼女を守りたいのなら……まずは自分を、守ってみせろよ」

 

アラン「…………」

 

それだけ言うと、レオはアランの肩に軽く触れ歩き去っていく。

レオの姿を立ちすくんだまま見送り、アランはぎゅっとこぶしを握りしめた。

 

アラン「わかってんだよ」

 

アランの呟きが微かに響くと、先を行くレオが口元を緩めた。

 

レオ「ほんと、素直じゃないやつ」

 

 

・・・・・

 

 

アランから話を聞くことが出来た、その翌朝…―。

 

私はいつものように食事をとりながら、一日のスケジュールを聞いていた。


(怪我も、一日経ったら痛みがひいたみたい)

 

テーブルの下で足を確認していると、ジルがぽつりとこぼすように言う。


ジル「プリンセス…あなたには本当に早く、王を決めてもらわねばならないかもしれません」


「え……?」


私は思わず顔を上げ、ジルの顔を見た。

 

(どういうことだろう……)


するとジルが、息をつきながら口を開く。


ジル「先日のネープルスでの会食を覚えていらっしゃいますか?」

 

「あ、はい……」

 

―――――――

 

ジル「最近、国境には緊張感が漂っているようですね」

 

国王「ああ。国内の事件も、どうやらかの国が関わっているという噂…。なかなか、不安定な情勢が続いていますな」

 

―――――――

 

会食でのジルとネープルス国王の会話を思い出し、私はジルを見つめた。


ジル「……近いうちに、ネープルスが戦を起こすかもしれません」

 

「えっ……?」

 

私は驚き、声を上げる。

 

ジル「ウィスタリアはネープルスの同盟国です。我が国からも、派兵することになります」

 

「それは、つまり……」


ジルの目が私をとらえ、はっきりと告げた。


ジル「騎士団が派遣されることになるでしょうね」

 

 

..........

 


その後、執務室で勉強していても、私の頭からはジルの言葉が離れずにいた。

 

―――――――

 

ジル「騎士団が派遣されることになるでしょうね」

 

―――――――

 

騎士団長としての、アランの姿が浮かぶ。


(もしかしたら、アランが戦争に行かなければならなくなるってこと?)


嫌な予感に、鼓動が跳ねた。


(そんな……)


うつむいたまま、じっと考えていると…。

 

レオ「どうしたの、美香ちゃん。怖い顔して」


「…っ…レオ」

 

突然響いてきた声に顔を上げると、そこにはレオの姿があった。

レオの笑みにすぐに応えることが出来ず、私の表情は曇ったままだ。

 

レオ「……わかりやすいね」


レオが、小さな声で呟く。

するとレオが、近くにあった椅子に腰掛けた。


レオ「ねえ、考えてくれた?」

 

「え……?」


戸惑い、私はレオの顔を見つめ返す。


レオ「やだな、忘れたの?プリンセス」


レオが身を乗り出し手を伸ばすと、私の髪をさらりと取った。


レオ「考えてって、言ったでしょ?」


(それって、もしかして……)

 


―――――――

 

レオ「アランがだめなら、俺にしておきなよ。考えておいてね、プリンセス」

 

―――――――

 

(あ……あの時のことだ)


レオ「…………」


私を見つめ、レオがぽつりと尋ねる。


レオ「……俺だったらって、考えないの?」


「え?」


見ると、レオがふっと目を細めた。


レオ「アラン以外のやつだったら、もっとすんなり決められるかもよ?」


「…………」


レオの言葉に一度うつむき考えた私は、それからすっと視線を上げる。


「ううん、考えたことはないよ……」

 

(たとえアランが、選んではいけない人だったとしても……)

 

すると満足そうに微笑み、レオが軽く首を傾げた。


レオ「……そっか」


そうして、微かな声音で言う。


レオ「君だったらきっと、アランを幸せに出来るよ」

 

 

..........

 

部屋を出たレオが、ゆっくりとドアに背をつける。

そうしてゆっくりとまぶたを閉じ、口元に笑みを浮かべたまま呟いた。


レオ「あーあ、振られちゃった」