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イケメンシリーズ ストーリーのネタバレです

王宮【アラン】4話後半

私の震える手を、アランがぎゅっと握ってくれる。


(アラン……?)


込められていく優しい力に、私の鼓動が跳ねた。

 

アラン「…………」

 

アランはじっと、私の手だけを見下ろしている。

やがて震えが止まると、アランがゆっくりとした仕草で手を離した。


「あ……」

 

何か言おうと、私が口を開きかけたその時…。

庭の方から、私を呼ぶ声が聞こえてきた。


ユーリ「美香様ー?」


(あの声は、ユーリ?)

 

思わず目を向けると、その間にアランは、ユーリとは違う方向へ去っていってしまう。

 

「…………」


そして私の姿に気づいたユーリが駆けてくると、私の顔を覗き込んで息をついた。


ユーリ「心配したよ。部屋を見たらいないんだもん。どうしてこんなところにいたの?」

 

「……なんでもないの。探しにきてくれて、ありがとう」


そうしてユーリと共に部屋へ戻りながら、手を見下ろす。

触れたばかりの温もりや強さがよみがえり、私は鼓動を高鳴らせた。

 

(アラン、どうして……)

 

 

..........

 


その頃…―。


部屋に戻ったアランは、剣を置くとすぐに倒れるようにベッドに横たわる。


アラン「…………」


苦しそうに眉を寄せながら横を向くと、自分の手を持ち上げた。

 

アラン「……なんで震えてんだ、あいつ」

 

 

..........

 


翌日、勉強をしている私の元にジルが現れた。

 

ジル「あなたには、プリンセスとして『ネープルス王国』を訪問して頂きます」

 

(ネープルス王国って…聞いたことはあるけど)

 

それはウィスタリア王国からは西に位置する小国で、森と湖に囲まれた静かな国だったはずだ。


ジル「ネープルスは農業の国です。友好関係を結ぶことは不可欠になります」


ジルが私を見下ろし、笑みを浮かべる。


ジル「これは外交に関わる問題ですから、今はネープルスだけでなく、自国の歴史についても、しっかり学んで頂きます」

 

「は、はい……」


私は頷きながらも、鼓動を速くしていた。

 

(それってやっぱり、アランたちと行くことになるんだよね……)


そうしてジルが去った後、私は小さくため息をつく。

すると突然、頭の上から声が降ってきた。


レオ「ため息なんて似合わないよ、プリンセス」

 

「え……!」


驚きに顔を上げると、そこにはレオの姿があった。

 

「レオ?」

 

名前を呼ぶと、レオが口元に笑みを浮かべる。


レオ「少しは息抜きしたら?ちょっとだけ、外に出ない?」


「息抜き……?」

 

 

..........

 

 

レオの隣を歩きながら、私は胸いっぱいに空気を吸い込んでいた。


(やっぱり外に出るのは気持ちいいな……)

 

するとレオもふっと笑い、私を見下ろす。


レオ「やっぱり、部屋で本に向かってる時よりずっといい顔するね。こっちのほうが好きだよ」


「……!」


レオの言葉に、私の頬が微かに赤く染まった。

 

(レオってこういうことが自然に言えるんだ……すごいな)


そのうちにレオが気持ち良さそうに空を見上げる。

 

レオ「たまにはいいよね、散歩も」


(レオ…気を遣ってくれたのかな)

 

私はレオを見上げ、同じように笑った。


「うん」


(おかげで、本当に息抜きが出来たみたい……)

 

 

やがて辿り着いた闘技場では、多くの騎士たちが訓練していた。


アラン「…………」

 

ざわめきの中に目を向けると、そこにはアランの姿もある。


「あ。アラン……」

 

レオ「…………」

 

そのうちに、アランが気がついたように振り返る。

するとレオが、私の腰元に手を回した。


「レ、レオ……?」


私は弾かれたようにレオを見上げる。


(アランが、見ているのに……)


慌てて身をよじろうとすると、レオの手にぐっと力が込められた。

 


レオ「ねえ、美香ちゃん。俺を選んだら?」

 

(え……?)

 

レオ「アランがだめなら、俺にしておきなよ」


「どうして……?」

 

するとレオが微笑み、顔を寄せ耳元で面白そうに囁く。


レオ「だって、俺たち双子だから」


「双子……!?」


レオの言葉に、私は驚いて何も言えずにいた。

 

(アランと、レオが双子……?全然似ていないけど……)

 

ふと、二人の雰囲気が少しだけ重なって見えたことを思い出す。

 


―――――――

 

アラン「お前は、顔上げて前だけ見てろ」

 

アランが言ってくれた言葉。

そして、レオも…。

 

レオ「顔を上げて、前を見て」

 

―――――――

 


(兄弟、だったんだ……)


するとレオが、ふっと目を細めて唇に人差し指を当てた。

 

レオ「でも俺が話したことは、アランには内緒だよ」


「え……?」


レオ「アランは、あまり知ってほしそうじゃないからね」

 

そうしてレオは視線を上げ、闘技場のアランを見る。

アランは動かないまま、こちらの様子を窺っていた。

 

アラン「…………」


レオ「…………」

 

私は引き寄せられたまま、レオを見上げた。

 

「レ、レオ……」


気づいたレオが、私と鼻先が重なりそうなほどに顔を寄せた。


レオ「どうしたの?」

 

「え……えっと」


息がかかりそうな距離に、呼吸が苦しくなる。

やがて少し顔を離すと、レオが囁いた。

 

レオ「考えておいてね、プリンセス」


「……っ」

 

(どうしよう、やっぱり近い……!)


私は顔がかあっと赤くなるのを感じ、レオの胸に手をつく。

 

レオ「あ……」


そうしてレオの身体から離れると、城の方へと駆けていった…。

 

..........

 

 

私は急いで執務室に戻ると、立ったまま息を整えていた。

 

(どうしよう、逃げてきちゃった……)

 

考えながらも、ゆっくりと机に向かっていく。

 

 

―――――――

 

レオ「アランがダメなら、俺にしておきなよ。俺たちは双子だから」

 

―――――――

 

 

(レオは、私の気持ちを知ってそう言ってくれているんだ……)

 

椅子に腰掛けると、首を上向かせた。

 

(でも、私はアラン以外の人を選べるのかな……)

 

 

..........

 

夕方から再びアランに馬術を習うことになっていた私は、何事もなかったかのように頭を下げていた。

 

「……よろしくお願いします」

 

アラン「ん。ああ……」


アランがどこか面食らったように、眉を上げる。

 

(落ち込んでなんかいられない……)

 

 

―――――――

 

アラン「俺は騎士として、プリンセスを守るだけだ。そのことを、誇りに思ってる。お前は、プリンセスだろ」

 

―――――――

 

 

(プリンセスとして、やらなきゃいけないことはたくさんあるんだから)

 

..........

 

 

そうして練習を終え、私は厩舎に帰した馬のお世話をしていた。


「今日もありがとうね」


短いいななぎで答える馬の姿に、自然と口元が綻ぶ。

私はブラシを持ち、ゆっくりとそのお腹にあてた。

 

(確か、こうやって動かすんだよね……)

 

すると肩越しに、アランの手が伸びてくる。

 

アラン「そこじゃねえよ。ここ」


「あ、うん……ありがとう」


突然の近い距離に、私の耳元が熱くなる。


アラン「…………」


アランは私を見下ろし、黙ったまま離れていった。

 

(赤くなってること、気づかれてないよね……?)

 

高鳴る鼓動を抑えるように、私はブラシを動かしていった。

 

..........

 

部屋まで送ってもらった私は、疲れきったままソファに腰掛けた。


(今日も、大変だったな……)

 

アラン「…………」

 

すると、いつもならすぐに帰るはずのアランが静かに部屋に入ってくる。


(あれ……?)

 

私は目の前に立ったアランを見上げ、尋ねた。


「アラン、どうかしたの?」


するとアランが、ゆっくりとドアを閉めながら口を開く。

 

アラン「……お前、あいつを選ぶのか?」


「あいつって……レオのこと?」


私が尋ねると、アランがふいっと視線をそむけた。

 

 

―――――――

 

レオ「だって、俺たち双子だから。でも俺が話したことは、アランには内緒だよ。アランは、あまり知ってほしそうじゃないからね」

 

―――――――

 

 

(そういえば双子なのに……二人って、仲が悪いのかな。どうしてなんだろう……)


やがてアランが後ろ手に、微かな音を立ててドアを閉めきった。

静寂が、部屋の中を満たしていく。


アラン「選ぶのか?」

 

「あ……」


アランの言葉に、私ははっと顔を上げる。

 


―――――――

 

レオ「考えておいてね、プリンセス」

 

―――――――

 


(そうだ。レオのこと、考えなきゃいけないよね……)

 

「まだ、そんな……」


私が言うと、アランが目を細める。

ゆっくりと近づきながら、息をついた。


アラン「お前さ、男を相手に選んだらどういうことするかわかってんの?」

 

「どういうことって……」

 

目の前に立ったアランが、ソファの背に手をつく。


「……っ」


アランに囲いこまれ、私は驚いて目を瞬かせた。

 

「夜中に城の中うろついてるし、わかってやってんだよな?」


「え?」

 

 

―――――――

 

ロベール「それと…女の子がこんな時間に男の部屋に来ちゃだめだよ」

 

―――――――

 

 

(確かに、ロベールさんにも言われたけど……)


私は顔を赤くしたまま、アランを見上げる。


「わ、わかってるよ。でも、アランに関係ないでしょ?」

 

アラン「…………」

 

「アランだってこうして、夜に私の部屋に来てるんだし……」


するとアランがふっと目を細めて言った。


アラン「ああ、そうだな。どういうことが起こるか、試してみるか?」


「え……?」

 

(試すって……)

 

アランの言葉に顔を上げると、そのまま唇をふさがれて…。


「……っ」