ikemenserieslのブログ

イケメンシリーズ ストーリーのネタバレです

王宮【アラン】2話前半

レオ「…君が俺を選んだら、教えてあげるよ?知りたいんでしょ?俺のこと」


楽しそうに笑みを浮かべ、レオがゆっくりと顔を寄せる。


「…っ」


私が思わず小さく息を呑むと、レオがふっと笑って顔を背けた。

 

レオ「君ってほんとに可愛いよね」

 

「え…?」


私が真っ赤になってしまった顔で目を瞬かせると、レオが身体を離す。

そうして私をじっと見ると、目を細めて口を開いた。

 

レオ「今日のところはこれで退散するよ。またね、アンちゃん」


「…レオ?」

 

名前を呼ぶものの、レオは振り返ることなく去って行ってしまう。

その後ろ姿を見送りながら、私はふと気づいた。

 

(今のって、話をはぐらかされたってことかな…)

 

 

..........

 

 

その夜…__

 

ジルに呼び出された私は、部屋のドアを開いた。

 

「失礼致します」


するとそこに、アランの姿を見つける。


(アラン…?)

 

アラン「…………」

 

不意に目が合い、私は今朝の出来事を思い出してしまった。

アランの腕の温もりや力強さがよみがえり、鼓動が速くなる。


(何か少し意識しちゃうな…)


すると、いつの間にか私の目の前に立っていたジルが口を開いた。


ジル「プリンセス」


「あ、はい…!」

 

慌てて顔を上げると、ジルが笑みを浮かべて私を見ている。


ジル「座学ばかりでお疲れでしょう。たまには、外に出てはいかがですか?」

 

「え…?」

 

(外に出るって…)


軽く首を傾げると、ジルが続けて言った。

 

ジル「プリンセスには、明日から馬術の授業を受けて頂きます」


そうしてちらりとアランに視線を寄せ、ふわりと目を細める。


ジル「講師は…ここにおられるアラン殿です」


ジルの言葉に、私は思わず壁際に立つアランに視線を寄せた。

 

(アランが…?)

 

アランも驚いたように眉を寄せている。

 

アラン「…は?俺の役目は、こいつを守ることだろ。馬術を教えることじゃねーよ」


ジル「プリンセスの身に何かが起こった時のことを考えれば、馬術も必要です。プリンセスの危機に側にいる可能性が高い騎士団長のあなたが、適任だと思うのですが」


アラン「…………」


ジルの言葉に少し沈黙した後、アランが眉を寄せて言った。

 

アラン「騎士として、城の警護を優先させる」

 

踵を返すアランが、すれ違いざまに私に視線を落とす。


「アラン、あの…」


アラン「…お前も、俺なんかより優しい奴に教えてもらったほうがいいだろ」

 

そうしてためらいなくドアを開くと、アランは部屋を出て行った。

小さな音を立ててドアが閉まると、ジルの溜息が響く。

 

ジル「アラン殿はわかっていませんね。これは命令だと言うのに…」


ジルの言葉に、ドアを見つめていた私は振り返った。

 

(アランは騎士として私を守ってくれる…。だから、これ以上負担はかけたくない)

 

私は、静かに口を開いた。


「ジル、私は…」

 

..........

 

 

そして、数日後…_。

一人廊下を歩いていたアランは微かに眉を寄せていた。


アラン「…………」


向かい側から歩いて来る人影から視線を逸らしたまま、足を急がせる。

やがてすれ違いざまに、その人影は面白そうに呟いた。

 

レオ「プリンセス、一人で頑張ってるらしいね。馬小屋に入り浸ってるらしいけど…何してるのかな?」

 

アラン「…………」


レオの声に答えることなく、アランは廊下の角を曲がる。

そこで、ぴたりと足を止めた。

 

アラン「…馬小屋?」

 

そうして少し考えた後、アランは向かう方向を変え、歩いて行った…。

 

 

..........

 

「うん。これでよし…!」

 

私は馬の腹を撫でていたブラシを仕舞い、手についた毛を払う。

厩舎を訪れた私は、この数日の間世話を続けていた馬の鼻を撫でていた。


「良い子だね」


馬が、私の腕に鼻先をこするようにして喉を鳴らす。

その愛らしい仕草に、私の口元には自然と笑みが浮かんでいた。

 

(慣れてくれたのかな…?)

 

そうして、数日前のジルとの会話を思い出す。

 


―――――――

 

ジル「プリンセスセレモニーには多くの人が集まり、危険も多い。馬術のような身を守る手段も覚えておいたほうが良いと思ったのですが…」

 

ジルがため息をつき、アランが出て行ったドアを見やる。

 

ジル「講師には、アラン殿以外の候補もいないので仕方がありません」

 

そうしてため息をつくと、私に視線を移した。

 

ジル「今は、セレモニーの準備に励んで頂きましょう」

 

―――――――

 


(ジルも、もしもの時のためだと言っていたし…。今のうちに、馬に慣れておいたほうがいいよね…)

 

それからスケジュールの合間を縫い、私は馬術を習うはずだった厩舎に通っていた。


(やっぱり、一日部屋に閉じこもっていると気が滅入ってしまうから、こうやって馬のお世話をしていると安心するな)


柔らかな風が髪を揺らし、そのひと房が頬にかかる。

私は目を瞬かせて空を見上げた。


「やっぱり私には、こっちの方があっているのかも」


プリンセスとしてのカリキュラムを思い、少し気持ちが沈んでしまう。

 

(これから先、うまくやっていけるのかな…)

 

そうしてもう一度馬の鼻を撫でようと私が手を上げた時、背後から聞き知った声が響いてきた。

 

???「…お前、何してんだよ」


(え、この声は……)


聞き知った声に振り返ると、そこにはアランの姿があった。

 

「アラン…!?こんなところで、どうしたの?」


アラン「…それはこっちの台詞だろ」

 

呆れたように呟き、アランが近づいてくる。

そうして馬を見上げると、慣れた仕草でその腹を撫でた。

 

アラン「…講師はどうした?いないのか?」

 

「うん。今は馬術は習っていないの。ただ、少しでも馬に慣れておこうと思って…」

 

アラン「…へえ」


喉を鳴らす馬に微かに口元をほころばせながら、アランが呟く。


アラン「…お前に懐いてるみたいだな」

 

「本当?そうだとしたら、嬉しいな」


アランの口元が、微かにほころんでいった。


アラン「…………」

 

馬に手を伸ばすと、いつの間にか私を見つめるアランの視線に気がつく。


アラン「いや…」

 

アランは呟くと、何かを考えるように眉を寄せて踵を返した。

そのまま何も言わず馬小屋を出て行く後姿を見つめ、私は小さく首を傾げる。


(アラン、何か言いたそうだったけど…どうしたんだろう)

 

 

..........

 

 

そしてその夜、再び呼び出された私はジルの部屋を訪れていた。

 

ジル「あなたの馬術の講師が決まりましたよ」


「え…?」


ジルの言葉に目を瞬かせた瞬間、部屋のドアが開いた。

 

「アラン…?」


アラン「…………」

 

そこに現れたアランの姿に驚いて声を上げると、ジルがにっこりと微笑んで告げる。

 

ジル「本人も承諾済みです」


(え…!?)

 

「アランが!?」


ジル「アラン殿の馬術は特筆に値し、他人に教える能力も高い。しっかりと、指導を受けてくださいね」


アラン「…………」


馬術の講師として紹介されたアランを見上げ、私は小さく息を呑む。

 

(アランは一度断っていたはずなのに、なんで…)

 

するとアランを見やり、ジルが笑みを浮かべて言った。

 

ジル「プリンセスを頼みましたよ、アラン殿」

 


..........

 


そして翌日…__


アランと共に外に出た私は、指導を受けながら馬に乗っていた。


アラン「そうじゃねえ、ここに足をかけんだよ」

 

アランが手を伸ばし、私の足を取る。

そうして私の足で、軽く馬の腹を蹴ってみせた。


「……こう」

 

「う、うん…」


意外にも優しい口調での指導に、私はほっと胸を撫で下ろしていた。

 

(アランって、本当に教えるのが上手いんだな…)

 

やがて馬の手綱を引いてゆっくりと馬を進ませるアランを見下ろし、私はそっと口を開いた。


「アラン、ごめんね。嫌がっていたのに…」


私の言葉にちらりと視線を上げたアランが、ため息をつく。

 

アラン「…本来馬術の指導は、騎士の役目じゃねえからな」


「うん…」


私は前に向き直り、馬に揺られながら微かに眉を寄せた。

 

(私が、アランの役目の邪魔をしているってことだよね…)

 

アラン「…………」

 

黙ってしまった私を見上げ、アランがふっと笑みを浮かべた。


アラン「仕方ねえから、今度俺にも何か教えろよ」

 

「え!?」

 

思わず見下ろすと、アランが言う。


アラン「お前、ここに来る前は何か教えてたんだろ?それでチャラにしてやる」


それだけ告げると、アランは再び視線を前に向けた。

馬の蹄が地面を蹴り、静寂の中に高く響く。

私はアランの姿を見下ろし、口元に笑みを浮かべた。

 

「…うん!」


(ありがとう、アラン)

 

 

..........

 

 

そうして、日も暮れ始めた頃…―。


アラン「終わりにするから、そろそろ降りろ」


「そうだね……」

 

私は馬の上で無理やり身体の向きを変え、指先に力を込めた。

 

(乗るのは大丈夫だったけど、降りるのって結構怖いな)

 

私が降りるのをためらっているうちに、呆れたように息をついたアランが両手を差し出した。

 

(え…?)

 

アラン「来いよ。受け止めてやるから」