ikemenserieslのブログ

イケメンシリーズ ストーリーのネタバレです

100プリ【ゼノ】3話後半 彼目線

 

__...美香が、シュタインを訪れてから3日目のこと

 

 

数人の衛兵を従えて、初めて美香をシュタインの城下へと案内する。

 

美香「アラン、見て。あのお家可愛いね」

 

アラン「はしゃきすぎて転ぶなよ」

 

美香「転ぶわけないでしょ?」

 

(...随分と楽しそうだな)

 

わずかな時間でわかったことは少しのことでも喜んだり悲しんだり一喜一憂する真っ直ぐさだった。

 

(きっと、温かい人に囲まれて育ったのかもしれないな)

 

感情を素直に出せる、そのことがなんだか眩しく感じられて目を細めた。

 

「どうだ。シュタインの街並みは」

 

ウィスタリアより、静かで車の通りも少ない街並みを見渡す。

 

(ウィスタリアの方が、人も多い。それに華やかなのかもしれないな)

 

美香は視線をさまよわせると、呟いた。

 

美香「ウィスタリアとは雰囲気が全く違うんですね」

 

「ああ」

 

美香「だけど、似ている部分もあります」

 

(...?)

 

美香は、人の顔を見渡すと嬉しそうに綻ばせる。

 

美香「街に活気があって、人の笑顔が多いところはウィスタリアと同じですね」

 

「そうか」

 

アラン「そう言ってるお前が、なんで一番嬉しそうなんだよ」

 

美香「アラン...」

 

あまりに穏やかな会話に、笑みを浮かべたその時...

視界の傍で何かが光って、その眩しさに目を細めた。

 

(何だ...__?)

 

「..........?」

 

何かが光った方に視線を向けると......

 

そこにはカメラを構えた人の姿があった。

 

美香「あれって、報道記者...?」

 

アラン「みたいだな」

 

(...珍しいな、あんな人数が集まるところは)

 

その瞬間、またフラッシュが瞬いた。

 

美香「...!」

 

衛兵「カメラを降ろせ!無礼だ」

 

報道記者「...!」

 

アラン「...ったく、口で言ってもああいう奴は聞かねえよ」

 

衛兵「アラン殿!?」

 

カメラを向けた人の方へと走っていく後ろ姿を視界の傍に捉えると、その間にも次々とフラッシュがたかれていく。

 

(...プリンセスを、カメラの前に晒していくことはできないな)

 

「...こっちだ」

 

美香「ゼノ様...?」

 

華奢な手を掴んで、そのまま引き寄せる。

 

「行くぞ」

 

走り出した瞬間、流れる景色の中、背後から声飛んでくる。

 

報道記者「何してんだ、ちゃんとカメラにおさめておけ!」

 

報道記者2「『氷の国王』の初スクープだ!」

 

「..........」

 

美香「ゼノ様...っ」

 

心配そうな声で名前を呼ばれるけれど、足を止めることはできない。

そのまま、美香の手を引いて走り出した。

 

(......ここならば)

 

「ここまで来れば、もう追って来ないだろう」

 

繋いでいた手を解いて、視線を上げると......

風が吹いて美香の髪をさらっていく。

 

目の前には運河が流れるシュタインの景色があって、水面に光が反射して、キラキラと光っている。

 

美香「連れてきてくださってありがとうございます」

 

「...ああ」

 

(...ここにくると、気持ちが落ち着くのはなぜだろうな)

 

ただ目の前に広がる景色を見つめていると、あんなに楽しそうにしていた美香の言葉数が少ないことに気づく。

 

「すまないな」

 

美香「え...?」

 

「普段は報道記者が動くようなことはないのだが        ...プリンセス、お前の来訪がよほど珍しかったのだろう」

 

美香「平気です   ウィスタリアでは毎日、報道記者がカメラを構えているんですよ」

 

「そうだったな」

 

向けられる笑顔は、なんだかウィスタリアの明るい街並みによく似ていた。

 

「それは悪いことも良いこともあるだろうが...   国が開けている証だろう」

 

(...国が明るい方に動いている   そう、ウィスタリアを訪れると肌で感じるからな)

 

その瞬間、一瞬だけ遠い過去が頭をよぎる。

 

(シュタインは国が開けても、まだ過去の傷跡が残っているようだ)

 

あのウィスタリアのような賑やかさを真似するつもりはない。

だが、あんな風にこの国に住む人が胸を張って笑える方に導いていきたい、そう強く願う。

 

「...........」

 

遠くに光る水面を見つめているとわ隣から声が聞こえてきた。

 

美香「ゼノ様、一つだけお聞きしてもいいですか...?」

 

(...尋ねたいこと?)

 

「ああ、どうした」

 

視線を景色から美香に移すと、少しだけ緊張した面持ちが見えて、ひどく真剣な声が返ってきた。

 

美香「この国の上に立つということは...   ゼノ様にとってどういうことですか?」

 

絞り出すように告げられた言葉に、薄い笑みがこぼれる。

 

「どういうこと、とは随分と曖昧な言葉だな」

 

(だが......)

 

答えを待つ表情に、なぜか本当の気持ちが口からこぼれ落ちた。

 

「俺にとってこの国の上に立つということは、宿命だ」

 

美香「......っ」

 

「人の上に立つということは...   いつでも自分の盾を投げ出す覚悟を持ち続けることだ」

 

美香「盾を...、投げ出す?」

 

「ああ、自分のために盾を使えば   いざという時、国を、人を守れないだろう」

 

(...もう、あんな光景を目にしたくはない)

 

押し込めていたはずの景色が、脳裏をよぎる。

 

(...何も守れないまま、己の非力を悔やむならば    この身に変えてでも、全てを守りたい)

 

美香「ですが...」

 

「...?」

 

戸惑うような声がして、まるで息をするように尋ねられた。

 

美香「それでは、ご自分のことはどうやって守るんですか?」

 

(...そんな言葉は、初めて言われたな)

 

その優しくて、少しだけ温かい言葉に笑みがこぼれた。

 

「自分を守ることなど、とうに忘れた」

 

(自分守ろうと思う気持ちなど   ...もう思い出すこともできない)

 

その瞬間に、自分の中に己のことを守るいう考えがなかったことに気づく。

 

美香「............」

 

(...こんな感情は、このプリンセスには向けたくない     なぜだかは、わからないが)

 

「風がわ冷たくなってきたな」

 

美香「はい」

 

景色から視線を逸らして、元来た道に足を踏み出す。

 

「報道記者たちも、もう追っては来ないだろう」

 

少し後ろから歩いて来る足音が響く。

頬を撫でる風は、少しだけ冷たさを増していた。

 

 

 

__...翌日

 

アランの声で、美香は淡い光の中、まどろみから目を覚ます。

 

アラン「やっと起きた」

 

「...っ...アラン!なにしてるの」

 

アラン「別にお前のこと襲うつもりとかないから」

 

アランはため息をつくと、眉を寄せる。

 

アラン「...そんな暇ないし」

 

「え...?」

 

アラン「説明するよりも、自分の目で見た方が早いだろ」

 

ばさっと何かがベットの上に投げられた。

 

「...これ、シュタインの新聞?」

 

美香はそれを手に取った瞬間、思わず息を呑んだ...__

 

(ゼノ国王陛下の王妃候補は...)

 

「...っ...」

 

(ウィスタリアの期間限定プリンセスーー!?)