ikemenserieslのブログ

イケメンシリーズ ストーリーのネタバレです

100プリ【ゼノ】2話前半

しだいに近づいて来る足音に一瞬だけドレスの裾を握りしめた。

 

(隣国シュタインの国王陛下...どんな方なんだろう)

 

目の前で足が止まり、濃い影が落ちる。

視線を上げて口を開きかけたその瞬間......

目の前の姿に息を呑んだ。

 

(......嘘)

 

ゼノ「..........」

 

目の前の姿に、私を助けてくれた面影が重なっていく。

 

ーーーーーーーー

「あの...!」

 

???「どうした」

 

「名前を教えて頂けますか...?」

 

???「また、すぐに会うことになる ...ではな」

ーーーーーーーー

 

(この方が......ーー)

 

ゼノ「こうして挨拶をするのは初めてだな

ゼノ=ジェラルドだ」

 

「......っ...」

 

(シュタインの国王陛下...)

 

何も言葉が出せないで、ただその瞳を見つめ返しているとジルの声が聞こえてくる。

 

ジル「...プリンセス?」

 

はっとして慌てて口を開く。

 

「初めてお目にかかります」

 

つい慣れた挨拶が口を突いて出て、それから言葉を続ける。

 

「...今夜は遠い隣国から足を運んでくださったこと、感謝しております」

 

ゼノ「ああ」

 

ゼノ様が目をすっと細めると、隣にいた人の視線に気づく。

 

???「今夜はお招き頂きありがとうございます、プリンセス」

 

(この人は...)

 

美香の視線を感じて、ジルが笑みを浮かべて教えてくれる。

 

ジル「こちらアルバート=ブルクハルト

シュタインの騎士団団長で、ゼノ様の秘書をなさってます。」

 

アルバート「正しくはゼノ様の右腕で...」

 

ユーリ「はいはい、シャンパンが通りますよー」

 

ワゴンにシャンパンを乗せたユーリが、満面の笑みでアルバートさんの横を通り過ぎる。

 

アルバート「貴様...!」

 

ユーリ「なんですか?今、仕事中なんですけど。その右腕にシャンパンがかからないようにどいてもらえます?」

 

(えっと...ユーリ...?)

 

アルバート「黙っていれば、お前という奴は...」

 

アルバートさんが声を上げたその瞬間......

 

女性「見て...王位継承者の三人よ!」

女性2「三人揃っているお姿、初めて見たわ」

 

ダンスホールに女性の黄色い声が飛び交うなさ、三人の足音が響く。

 

(...すごい迫力)

 

ルイ「.............」

カイン「..............」

ノア「..............」

 

三人は並んで歩いて来ると、ゼノ様の前で足を止めた。

 

カイン「ご挨拶が遅れて申し訳ありません」

 

ノア「お久しぶりです。ゼノ様」

 

横暴なカインと、だらっとしたノアが姿勢を正して挨拶を交わしている。

 

ゼノ「ああ、久しぶりだな」

 

ルイ「ゼノ。プリンセスのお披露目の日に、この場に足を運んでくれたこと感謝している」

 

ノア「これからも二国間が上手くやっていくために、プリンセスは大切な存在です。その気持ちを持ってわプリンセスのことは俺たちが支えていきます」

 

カイン「ゼノ様のお力をお借りすることもあると思いますが、よろしくお願い致します」

 

三人の声に、ゼノが笑みを浮かべて、順番に視線を送ってから私を見つめる。

 

ゼノ「プリンセスは支える者が大勢いるのだな

誰かがそばにいるということは、きっとお前の背中を押し、そして、支えてくれるはずだ」

 

(それって......)

 

ーーーーーーーー

???「このガラスの靴は、お前にとって大切なものか?」

 

「はい、大切なものです。数日前にプリンセスに選ばれたばかりの私が立っていられるのは...このガラスの靴が背中を押してくれているからだと思っています。」

ーーーーーーーー

 

(ガラスの靴だけじゃない

周りにいる人たちが私を支えてくれてるんだ)

 

発せられる言葉の重さを受け止めて、一度だけ頷いた。

 

「はい」

 

.........

 

ーー...たくさんの人と挨拶を交わし

 

(少し、人に酔ったな)

 

こっそり階段に上がりバルコニーの手すりに腕をついて息をつくと......

 

???「私との挨拶がまだおわっていませんよ...プリンセス?」

 

「...っ...申し訳ありません!」

 

ユーリ「なあんちゃって」

 

視線を上げると、そこにはチョコレートを手にしたユーリが立っていた。

 

「もう...驚いたよ」

 

ユーリ「ごめん、ぼうっとしてたからさ。はい、疲れた時は甘いものだよね」

 

「ありがとう、ユーリ」

 

チョコレートを並んで食べていると、ユーリがふわっと笑う。

 

ユーリ「ね、会えたでしょ?」

 

「え...?」

 

ユーリの視線を追うと、階下に人に囲まれているゼノ様の姿を見つける。

 

ゼノ「..........」

 

(シュタインの国王としてお会いしたいと思ってた

     けど...)

 

初めて出会った瞬間の少しだけ柔らかい表情が忘れられない。

 

「...そうだね」

 

手すりをぎゅっと掴むと、ゆったりとした音楽が流れ始める。

 

ユーリ「あ、ダンスタイムだ」

 

(あれ?)

 

「ゼノ様とアルバートさんは帰ってしまうみたいだけど...」

 

ユーリ「だって、国王陛下と踊れる機会なんてそうそうないし女の人たちが群がるでしょ

その前に帰るのが得策ってことじゃないかな」

 

(......っ...)

 

「ユーリ、すぐ戻ってくるから」

 

ユーリ「え?美香様、ちょっと!」

 

ダンスホールを抜け出して、あの背中を追いかける。

 

(今夜を逃してしまったら、いつお会いできるかわからない)

 

(最後に、お聞きしたいことがある...)

 

正面の階段を下りようとしたその時...

 

(ゼノ様...)

 

後ろ姿を見つけて、声をかけた。

 

「あの...っ」

 

ゼノ「......?」

 

アルバート「ダンスパーティーの主役がこんなところで何をされているんですか?」

 

「ゼノ様に、最後にお話しさせて頂きたいことがあって」

 

ゼノ「アル、先に」

 

アルバート「...はい、ゼノ様」

 

「引き止めてしまい申し訳ありません、アルバートさん」

 

アルバート「いえ、先に行って車の手配をして来ます」

 

アルバートさんに頭を下げて、私は階段の中央まで下りて行く。

ゼノ様の前で足を止めると、鼓動が早くなった気がした。

 

ゼノ「それで、話したいこととは?」

 

「まず、謝らせてください」

「初めてお会いした時、ゼノ様だと知らず大変失礼なことをいたしました」

 

ゼノ「気にするな   顔を合わせたことがなかった。仕方がないことだろう」

 

(...ゼノ様はあの時、私がプリンセスだってご存知だったはず)

(それなのに)

 

「ゼノ様、...なぜあの時、名前を教えてくださらなかったのですか?」

 

一瞬だけ沈黙が流れて、低い声が響く。

 

ゼノ「一国の主としてこの場に呼ばれている

それならば、公の場で名乗るが礼儀だろう」

 

(あ...)

 

その瞬間、恥ずかしさで首筋が熱くなる。

 

(よく考えたらわかることなのに)

 

ゼノ「...どうかしたのか?」

 

「いえ、変なことをお聞きして申し訳ありません」

 

夜の静寂が包む中、ゼノ様が息をつく。

 

ゼノ「行くといい

きっと皆ダンスホールでお前を待っているはずだ」

 

「はい」

 

ゼノ「ではな、ウィスタリアのプリンセス」

 

深く頭を下げると、階段を下りる足音が聞こえる。

 

ほどなくして顔を上げると、ゼノ姿がもうそこには無かった。

 

「なに、してるんだろ...」

 

ゼノ様が出ていった扉から、夜の風が吹いてドレスを揺らす。

 

(もう一度、お逢いできたらいいと思ってた。けど...)

 

ダンスホールで見た姿、そして今二人で言葉を交わすほどに、距離を感じるばかりだった。

 

(...私とは住む世界が違って)

(星みたいに遠い人なんだ)