ikemenserieslのブログ

イケメンシリーズ ストーリーのネタバレです

ヴァンパイア【アイザック】1話

美しい月の光に導かれるように、私はルーヴル美術館の扉から不思議なお屋敷へと迷い込んだ。

落ちたら最後、もう二度と戻れない運命の恋に巡り合うとも知らずに…ーー

 

(誰かに首を咬まれる夢を見るなんて.....)

 

奇妙な夢のあらましを話すと、執事のセバスチャンは神妙な面持ちで私を見つめた。

 

セバスチャン「その夢は、きっとこの屋敷があなたに見せた夢ですよ」

 

「あの....ちょっと意味が......」

 

セバスチャン「その夢は、あなたへの忠告です。

......身も、心も、彼らに奪われないように」

 

「彼ら......?」

 

セバスチャン「この屋敷で暮らす住人......あなたがお会いした方々は皆.....__

あなたが夢に見たような、本物のヴァンパイアですから」

 

(ヴァンパイアって......)

 

その言葉に、さっき見た夢の恐怖が蘇ってくる。

 

「冗談.....ですよね?」

 

セバスチャン「......」

 

笑い飛ばそうとするけれど上手く笑えない。

ほんな私を、セバスチャンは何も言わずに見つめていた。

 

(まさか、本当に......?)

 

混乱する頭で考えていると、パンっと手を叩く音で現実に引き戻される。

 

セバスチャン「とにかく、今日はお疲れでしょう。詳しい話はまた明日、伯爵から」

 

「はい......」

 

(セバスチャンの言う通り、今日はもう寝てしまおう......)

 

信じられない現実から目を背けるように、私は食堂を後にした。

 

真っ暗な廊下をひとり、歩いていると__

 

???「っ.....はっ......」

 

角を曲がったところで、苦しげな吐息が聞こえてきた。

 

(誰かいるの......?)

 

おそるおそる近づくと、ひんやりした月光が照らす。 先にいたのは__

壁にもたれて立つ、桜色の髪をした青年だった。

 

(この人、確か......)

 

ーーーーーーーー

???「誰か知らないけど、席ついたら?」

 

???「先頭のアンタがボーっとしてると、後ろが迷惑だと思うんだけど」

 

???「アイちゃん、優しいー」

 

アイザックアイザックアイザック・ニュートン

物理学が専門」

ーーーーーーーー

 

「あなたは......

アイザック、さん......?」

 

戸惑いながら名前を呼ぶ。

 

アイザック「.......なんだ、覚えてたの?」

 

呆れたようなため息には、どこか苦しげな呼吸が混ざっていた。

 

(もしさっきのセバスチャンの話が本当だったら......、この人もヴァンパイアってこと、だよね?)

 

そんな考えが一瞬頭をよぎったけれど、辛そうな様子が気になる。

 

「もしかして、どこか具合が悪いんですか......?」

 

慌てて近づくと、彼は拒絶するように後ずさった。

 

アイザック「っ、近づかないで」

 

「ご、ごめんなさい」

 

(すごく避けられてる......)

 

なんとなく気まずい気持ちで、伸ばしかけた手をひっこめる。

 

アイザック「......セバスは?」

 

「セバスチャンなら、多分まだキッチンに.....」

 

アイザック「わかった」

 

アイザックさんはそれだけ言うと、急ぐように私の横を通り過ぎて行った。

 

(本当に大丈夫なのかな?でも放っておいてほしそうだったし......)

 

アイザックさんの様子が気になりつつ、私も部屋に向かって歩き出す。

 

「........」

 

暗い廊下が果てしなく見えて、思わず足を止めた。

 

(本当、どうしてこんな所に来ちゃったんだろ.....)

 

この世界に来てから、信じられないことの連続だ。

今が19世紀であること、歴史に名を残す偉人たちが生きているということ。

 

(でも......)

 

さっき出逢ったアイザックさんのことを思い出す。

アイザック・ニュートン

確か万有引力の法則を発見されたという、有名な学者だ。

 

(やっぱり......まだ少し信じられない)

 

そんなことを考えながら歩いていると......

 

セバスチャン「美香、まだ部屋に戻っていなかったのですか」

 

後ろから声をかけられ、振り返るとセバスチャンがいた。

 

「あれ、セバスチャン?さっきまでキッチンにいたんじゃ.......」

 

セバスチャン「あなたのすぐ後に出ましたよ。これを運ぶ前に、エントランスの戸締りを確認していました。」

 

セバスチャンの持つトレイには、サンドイッチとワインのよつなものが乗っていた。

 

(こんな時間にお夜食を摂る人がいるんだ)

 

セバスチャン「それでは、私はこれで。おやすみなさい」

 

「はい、おやすみなさい」

 

セバスチャンが急ぐように去った後......

 

(あ、そういえば......)

 

さっき、アイザックさんにセバスチャンがキッチンにいると伝えてしまったことを思い出す。

 

(どうしよう、入れ違いになっちゃったなら教えに行ったほうがいいかな?)

 

暗い廊下を戻るかどうか、迷っていると__

突然、ガラスの割れるような音が聞こえた。

 

(な、何......?今の音、キッチンからだよね)

 

具合が悪そうだったアイザックさんの様子が脳裏に蘇る。

 

(もしかして何かあったんじゃ......)

 

心配になって、急いで灯りが消えたキッチンに向かった。

おそるおそる覗くと、暗闇の中で屈みこむ人影と、砕け散ったグラスが見えた。

 

アイザック「うっ......」

 

アイザックさん!?」

 

急いで駆け寄り、その背中に手を添える。

激しい息遣いが、手の平から伝わってきた。

 

アイザックさん、大丈夫ですか......?」

 

アイザック「あんた、まだいたの......」

 

苦しげな呼吸の合間に、アイザックさんが言葉を紡ぐ。

 

(どうしよう、やっぱり具合が悪かったんだ)

 

アイザック「......て、け」

 

「えっ?」

 

アイザック「出て、け......」

 

「そんな......放っておけません」

 

(こんなに苦しそうなのに......!)

 

アイザック「いいから、早く......、俺から離れろ!」

 

「きゃっ!」

 

強く手を振り払われて、その場に尻もちをついた。

同時に、鋭い痛みが指先に走る。

 

(痛......)

 

散らばっていた鋭いガラスの破片が、生温い血を滴らせて不気味に光らせている。

 

アイザック「......っ!」

 

目の前にいるアイザックさんの白い喉が、ごくりと動いた気がした。

 

「ごめんなさい......。私、人を呼んできます」

 

(セバスチャンならまだきっと近くにいるはずだよね)

 

立ち上がって背を向けた瞬間、手を掴まれて__

 

アイザック「.....アンタを、ちょうだい」

 

(えっ?)

 

壁に押し付けられ、熱い吐息が首筋にかかった。

 

アイザック、さん......?」

 

密着した背中からはどくどくと鼓動が伝わってくる。

 

アイザック「ねぇ......いいでしょ?アンタが欲しくて、たまらないんだ」

 

甘くねだる声も、熱に浮かされてようにこちらを見つめる瞳も、さっきとは別人みたいだ。

 

(一体、何が......)

 

逃げようとしとも、ぎゅうっと握りしめる手が私を離してくれない。

 

「待っ......」

 

アイザック「もう無理......、我慢できない」

 

わずかに開いた瑞々しい唇から、チラリと牙が覗く。

 

「っ.......!」

 

瞬間、セバスチャンの言葉が脳裏をよぎった。

 

(まさか、本当にヴァンパイアだったの......?)

 

「いや......っ、離して!!」

 

(誰か......!)

 

レオナルド「おい、そこまでにしておけ」

 

重く甘い香りが漂い、アイザックさんの動きが止まった。

 

(レオナルドさん.......)

 

アイザック「っ......俺......」

 

その瞳に正気の光が戻り、彼は慌てたように私から離れる。

 

(どうしよう、身体が......動かない)

 

ぺたりと座り込む私を、アイザックさんはひどく傷ついたような顔で見つめていた。

 

アイザック「.......」

 

(どうして、アイザックさんがそんな顔をするの......?)

 

さっきまで怖かったはずなのに、あまりに痛々しい眼差しに頭の中が混乱する。

 

レオナルド「おい、小娘。さっさとセバスのところ行って、それ手当てしてもらってこい」

 

レオナルドさんは煙草をくゆらせながら、こちらを指差す。

 

レオナルド「セバスから聞かなかったか?それは俺たちにとって刺激物だ」

 

私の左手の薬指には、鮮やかな赤が滲んでいた.....。