ikemenserieslのブログ

イケメンシリーズ ストーリーのネタバレです

王宮【アラン】1話後半

 

???「美香様……?」

 

ドアがゆっくりと開き、アランが私を抱きしめる腕に力を込める。

 

(……っ!)

 

ユーリ「あれ、美香様ー…?いないの?」

 

(この声、この口調…もしかしてユーリ…?)

 

私たちが抜け出したことを、ユーリは知っている。

 

(ユーリから、隠れる必要はないけど…。こんな状態で、今更出るに出られない…)

 

ユーリに気づかれないよう、私たちはカーテンの陰でじっと気配を殺す。

そっと見上げると、アランは落ち着き払った様子で、ユーリを伺っている。

 

(緊張してるのって、私だけなのかな)

 

その時、ふっとアランの吐息が耳にかかる。

 

「…っ…!」

 

私は顔がさらに火照っていくのを感じて、唇を噛みしめた。

 

ユーリ「もしかして、まだ帰ってきてないのかな…」

 

呟きを残して、ドアの閉まる音がする。

わずかな沈黙が流れた後、アランがそっとカーテンの向こうを覗き見た。

 

アラン「…行ったみたいだな」

 

「う、うん……」

 

私たちは身体を離して、カーテンから出る。

 

(よかった…見つからずに済んだみたい)

 

アラン「…………」

 

すると、アランが私の顔を見るなり吹き出した。

 

アラン「お前、どんな顔してんだ」

 

(私、もしかして顔赤い…?)

 

慌てて赤い頬を手で隠すと、アランが目を細める。

 

アラン「ったく…俺は帰るからな」

 

「あ、うん…ありがとうございました」

 

アラン「はいはい。じゃあな」

 

アランはいつもの意地悪そうな笑みを浮かべ、部屋から出て行った。

 

(つ…疲れた……)

 

ドアが閉まると、軽い脱力感を覚えた私は、大きくため息を吐く。

ふと顔を上げると、ドレッサーが目に入った。

 

鏡の中の自分は、確かに赤い顔をしている。

 

(…急にあんな風に抱きしめられたら、誰だってこんな顔になるよね…)

 

不意に、ひらひらと手を振って部屋を出て行くアランの姿を思い出した。

 

(でも、アランは…すごく普通だったな。こんな華やかな世界にいる人だし、女性慣れしてるのかも…)

 

 

..........


美香の部屋のドアを閉めてから、アランはため息をついた。

 

アラン「ったく……」

 

カーテンから出た後、真っ赤になっていたアンの顔を思い出す。

 

アラン「……見てるこっちが恥ずかしくなるっつの」

 

どこか調子を狂わされたような顔で、踵を返し歩き出した…。

 

........


アランが部屋を出てからしばらく経って、ユーリが戻ってきた。

 

ユーリは私の顔を見て、ほっと安堵の溜息をつく。

 

ユーリ「よかった……美香様、戻ってきたんだ」

 

(ユーリには、心配をかけてしまったな…)

 

「帰るのが遅くなって、ごめんね」

 

ユーリ「ううん。帰ってきたんだったらいいんだ。これから朝食だけど、美香様…食べられそう?」

 

「……え?」

 

ユーリ「徹夜明けって食べづらいかなと思ったんだけど」

 

(私のせいで、迷惑をかけたのに…)

 

ユーリの気遣いに、心があたたかくなる。

 

「ううん、大丈夫。ありがとう、ユーリ」

 

ユーリはにっこりと、微笑み返してくれた。

 

 

そうして、朝食を美味しく食べ終えた頃…―。

 

私のそばに控えていたジルが、麗しい笑みをたたえて口を開く。

 

ジル「さて…早速ですが、本日のスケジュールをお伝えいたします。まず午前中は語学、歴史、帝王学、その後昼食。午後はマナーレッスン、ウォーキング、いったん休憩をはさみまして…」

 

ジルの説明はまだ続いている。

 

(えっ…今日一日でそんなにやることがあるの!?)

 

ジル「……以上となります。それでは、改めまして…本日からどうぞよろしくお願い致します」

 

「は、はい……」

 

(プリンセスって大変……)

 

ふと、アランが言ってくれた言葉が頭に浮かぶ。

 

 

ーーーーーーーー

 

アラン「お前はそれを守るためにプリンセスをやるってわけだ。お前が腹をくくってるんだったら、俺は命に代えてもお前を守る」

 

―――――――

 


(…うん。アランとも約束したんだから、頑張らないと…!)

 

ジル「……ところで、美香様」

 

「はい?」

 

ジルの手が、私に伸ばされる。

その指先は私の頬にとどまり、なぞるように頬の輪郭に触れた。

 

(……ジル?)

 

ジルは何か見定めるように私を見つめる。

 

ジル「顔色がよくないようですね。まるで寝不足のようなお顔ですが」

 

(鋭い……!)

 

ジルの言葉に動揺しながらも、出来る限り平静を装う。

 

「昨日は少し緊張してしまって…なかなか寝付けなかっただけです」

 

ジル「そうですか…ですが、ご安心ください。本日のカリキュラムを終える頃には、美香様の安眠をお約束できると思いますよ」

 

(そ…それってもしかして、疲れきってよく眠れる…ってこと?)

 

ジル「間違っても、プリンセスが暇を持て余して身勝手な行動をとられないよう、しっかりとスケジュールを組ませて頂きましたので」

 

ジルは、曇り一つない完璧な笑みを浮かべる。

 

(もしかして、ジル…昨夜の件に気づいてる…!?)

 

「…よ、よろしくお願い致します」

 

ジル「ええ、こちらこそ」

 

ジルは満足気に頷いた。



............

 

午後のレッスンも半ばに差し掛かり…。

ジルから休憩をもらった私は、眠気を覚ますため城内を散歩していた。

 

(…ようやく眠気も収まってきたかな)

 

そろそろ部屋に戻ろうかと思ったその時、甲高い金属音が聞こえてくる。

 

(……何の音だろう)

 

音の聞こえる方へ近づくと、騎士たちが訓練をしている姿が目に入る。

私は立ち止まり、騎士たちの訓練を遠巻きに眺めていった。

 

(あ…あれは)

 

騎士たちの中にアランの姿を見つけ、私は目を瞬かせる。

 

アラン「そこ!軸足を振らすな!」

 

騎士1「はいっ!」

 

アランは部下たちの様子をつぶさに観察しながら、的確に指示を出していく。

 

(うわ、格好いい…)

 

一瞬見惚れてしまって、はっと顔を上げた。

 

(……私、なに見惚れてるんだろう)

 

騎士2「…あれってプリンセスじゃないか」

 

騎士3「おっ…!?」

 

私に気づいた騎士たちが、ざわめき始める。

 

(あ、しまった…訓練の邪魔だったかな)

 

アラン「お前ら、集中しろ!」

 

アランに一喝され、騎士たちは慌てて訓練に戻る。

 

(私も、もう部屋に戻ろう)

 

来た道を引き返そうとした時、アランが呆れ顔をして近づいてきた。

 

アラン「お前、何でこんなとこに来てんだ?」

 

アランが呆れ顔で、私に尋ねてくる。

 

「ジルから休憩をもらって、ちょっと散歩を…」

 

アラン「またお前は一人でフラフラしやがって…」

 

アランは顔をしかめて、私を見下ろす。

 

アラン「せめて誰かに付いてきてもらえ」

 

(昨日と同じことを注意されてしまった……)

 

「……うん」

 

私が神妙になって頷くと、アランが苦笑まじりに言った。

 

アラン「素直なやつ」

 

それからアランは私の顔を見て、なにか気がついたように覗き込む。

 

(……えっ)

 

アラン「お前、目赤いな」

 

「そ…そうかな…」

 

軽く目をこすりながら、ふと思う。

 

(考えてみれば、アランも昨夜私に付いてきてくれたせいで徹夜なんだよね…)

 

「アランこそ徹夜だったけど…身体は大丈夫?」

 

アラン「当然だ。俺を誰だと思ってる」

 

アランは口の端に笑みを浮かべ、言い放つ。

その時、背後から声が聞こえてきた。

 

???「……あ、美香ちゃん」

 

呼ばれた方を見ると、レオが通りがかりに近づいてくる。

 

レオ「こんにちは、美香ちゃん。今日も可愛いね」

 

レオに挨拶を返そうとすると、アランが急に顔を背けた。

 

「……アラン?」

 

見上げたアランの横顔は、どこか不機嫌そうに見える。

アランの変化に戸惑いながら、私は次の言葉を探す。

 

アラン「…俺は戻るからな」

 

「え……」

 

アランは振り返ることなく、そのまま行ってしまった。

 

(え…この二人って…?)


..........

 

アランが、レオを避けるようにして訓練に戻った後…―。


レオが部屋まで送ってくれることになり、私たちは廊下を歩いていた。


(アランとレオって…明らかに仲が悪いよね。どうしてなんだろう…?)

 

「……レオ」

 

レオ「なに?」

 

「さっきアランの様子がおかしかったけど…なにかあったの?」

 

すると、ふっと目を細めたレオが面白そうに私を見下ろした。

 

レオ「俺がいるのにアランの話?妬けちゃうなぁ」

 

レオが私の肩を引き寄せる。

ちらりと見上げると、レオは私と目を合わせてにこやかに微笑んだ。

 

(もう…レオっていつもこんな感じなのかな)

 

私はその腕をそっと解いた。

 

レオ「…つれないなぁ、美香ちゃん」

 

「…さっきの話の続き、なんだけど…」

 

レオ「あんなの、いつものことだよ」

 

レオはこともなげに、笑って言う。

 

「いつものこと…?」

 

レオ「そ。君みたいに可愛らしい女性が、頭を悩ますようなことじゃないよ」

 

レオは、この話はここでおしまいとでも言うように、にっこりと笑った。

その笑みにふと、教え子たちのケンカを思い出す。

 

(子どもたちなら、意地を張ってもやっぱり仲直りしたいって思ってるものだけど…)

 

考えている私に、レオは少し意地の悪そうな笑みを向けた。

 

レオ「俺たちのことが、そんなに気になる?」

 

(……えっ?)

 

レオに腕を引っ張られ、壁に押し付けられる。

私の身体を囲い込むようにして、レオは両手を壁についた。

 

(……レオ?)

 

なにが起こっているのかわからず、レオを見上げると…。

彼はどこか楽しそうに目を細め、私の頬に手を添えた。

 

レオ「ねえ、心優しいプリンセス。……君が俺を選んだら、教えてあげるよ?」