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イケメンシリーズ ストーリーのネタバレです

王宮【アラン】4話前半

「アラン……」

 

アラン「…………」


アランの目の前に立ち、私はレオの言葉を思い出していた。

 

 

―――――――

 

「アランは私のこと、どう思ってるのかな」

 

レオ「そういうことは、本人に聞いてみたらいいよ」

 

―――――――

 


(確かにレオの言う通りだけど……)

 

アラン「…………」


沈黙が続き、私は息を呑む。


(やっぱり聞けない……でも)

 


―――――――

 

アラン「お前は、誰とだったら踊れるっていうんだよ」

 

「それは……」

 

―――――――

 

 


私はアランを見上げ、小さな声で言った。

 

「私と、踊ってくれますか?」


アラン「……っ」

 

私の口をついて出た言葉に、アランがぴくりと反応を示す。

 

(これは、私の素直な気持ちだから)

 

アランはじっと私を見下ろしてから、視線を逸らした。

 

アラン「……踊るわけねえだろ」

 

アランの言葉が、低く響く。


アラン「相手はそこらじゅうにいるじゃねえか。俺はここに…騎士としているだけだ」


アランは一度下を向くと、そのまま去っていってしまう。


「…………」


私はその場に立ち尽くしたまま、アランの後ろ姿を見送るしかなかった。


(アラン……)

 

 

..........

 

他の騎士たちにプリンセスの警護を指示したアランは、厳しい顔のまま廊下を歩いていた。

不意に後ろから声がかかり、アランの足が止まる。

 

レオ「ムキになっちゃってー」

 

からかうようなレオの声が、廊下に響いていった。


レオ「ダンスくらい、相手してあげればいいのに」

 

アラン「……うるせえ」


レオがダンスホールを振り返り、ふっと目を細める。


レオ「ほら、ルイと一緒にいるよ?いいの?」

 

アラン「…………」


レオがうつむくアランを覗き込むと、アランがはっとしたように顔をそらす。


アラン「関係ねえよ」

 

そうして去っていくアランの姿に息をつきながら、レオは再びアンを振り返った。


レオ「あーあ」


どこか悲しそうに笑みをを浮かべるアンの姿に、苦笑を漏らす。


レオ「ほんと素直じゃないな」

 


..........


舞踏会を終え、私は部屋へと戻ってきていた。

 

「…………」

 

ベッドに横になったまま、大きく息をつく。

 

(なんだか今日は、色んなことがあったな……)


ユーリ「それじゃあ、美香様。ゆっくり休んでね」


部屋まで送ってきてくれたユーリの声が響き、私は顔を上げた。

 

「うん。ありがとう……」

 

ユーリがドアを閉めた後、私はゆっくりと身体を起こす。

窓から吹き込む風が、微かに頬を撫でていた。

 

(あの時のアラン、一度も目を見てくれなかった……)

 

 

―――――――

 

「私と、踊ってくれますか?」

アラン「……踊るわけねえだろ」

 

―――――――

 

そらされたアランの視線を思い出し、ぎゅっと目を閉じる。


「……っ」


(私がプリンセスとして、もしもアランを選んだら……アランは、王様になることをどう思っているのかな)


その時再び、レオの言葉が頭をよぎる。

 


―――――――

 

レオ「そういうことは、本人に聞いてみたらいいよ」

 

―――――――

 

 

(聞いたら、アランは何て答えるんだろう……)

 

「……怖いな」

 

呟くと、私はユーリが少し開けてくれた窓の外を見やり息をつく。

 

(誰かに相談出来たらいいのに……)

 

「あ……」


その時、私はロベールさんの姿を思い出していた。

 


―――――――

 

ロベール「困ったことがあったら、何でも相談して」

 

―――――――

 

 

(そういえば庭で会った時、そういってくれてたっけ……)

 

私は、昔もよくロベールさんに相談に乗ってもらったことを思い出す。

 

(ロベールさんに、話をしてみたいな……)

 

私はベッドから腰を下ろし、静かに立ち上がった。

そうして窓を閉めると、そのままこっそりと部屋を抜け出した。

 

 

..........

 

ロベールさんの部屋を出た私は、静けさの中を歩いていた。

窓の外を見ると、暗闇の中に月が浮かんで見える。


(ロベールさんに相談できて、良かった……)

 

 


―――――――

 

ロベール「驚いたな……こんな時間に、どうしたの?」

 

突然に部屋を訪れた私を、ロベールさんは驚きながらも受け入れてくれた。

 

ロベール「何かあった?美香ちゃん」

 

椅子に腰掛け、ゆっくりと私の話を聞いてくれる。

 

「あの……」

 

私はプリンセスとして一国の王を選ぶということや、そのためには現職をやめてもらわなければならないことを話した。

 

「今さらだけど…そんな重要な役目が務まるのか不安で……」

 

(私に、王様を選ぶ資格はあるのかな……)

 

するとロベールさんが、うつむいた私の顔を覗き込む。

 

ロベール「あまり難しく考えてはだめだよ、美香ちゃん。君は選ばれたんだ。大丈夫」

 

顔を上げると、ロベールさんがにっこりと笑みを浮かべてくれた。

 

(ロベールさんに言ってもらえると、安心するな……)

 

「もう少し、頑張ってみます」

 

私は立ち上がり、ロベールさんに頭を下げる。

するとドアの前に立った私に、ロベールさんが少し困ったように言った。

 

ロベール「それと…女の子がこんな時間に男の部屋に来ちゃだめだよ」

 

「え?」

 

見上げると、ロベールさんがふわりと目を細める。

 

ロベール「今度相談がある時は、昼間においで」

 

 

―――――――

 

ロベールさんの言葉を思い出し、私は暗い庭へと視線を移す。

 

(そうだよね、こんな夜に部屋を抜け出していたらまた……)

 

アランに怒られた時のことを思い出していると、その時…。


庭の奥の方に、アランの姿が見えた。


(……アラン、どこへ行くんだろう)

 

庭の先にアランの姿が見え、私は足を止める。

少し迷ったものの、私の足はアランを追って動き出していた。

 

..........

 

 

アランの後を追い、闘技場に辿り着いた私は、柱の陰に隠れてアランの様子を眺めていた。


アラン「…………」


アランが腰元の剣を抜くと、辺りに高い音が響く。


(わ……)

 

剣を前に突き出すようにして始まった稽古は、私が想像していた剣の動きよりもずっと優雅なものだった。

 

(すごく、綺麗だな……)


アランの敏捷な腕が伸び、空を切る。

しばらくの間、私は瞬きも忘れて見惚れてしまっていた。

やがて剣を下げたアランが、息を整えてから静かに口を開く。

 

アラン「……見てんじゃねえよ」


「……!」

 

アランの声に、私は驚いて背中を震わせた。

 

(ば、ばれてたんだ……)


私は思わず、もう一度陰に隠れ直した。

 

(何て言えばいいんだろう……)


アラン「いいから、出てこいよ」


呆れたようなアランの声に促され、私は柱の影から出ていく。

すると息をつき、アランが言った。


アラン「お前、本当に抜け出すのが好きだな」

 

「……ごめんなさい」


慌てて謝ると、アランが剣をしまう。


アラン「早く戻るぞ」


そうして私とすれ違うようにして、アランが歩いていこうとした時…。


「ま、待って……!」


アラン「……ん?」


思わず引きとめると、アランが振り返った。

 

アラン「……なんだよ」

 

怪訝な表情を浮かべ、尋ねる。

 

「聞きたいことが、あるの」

 

私は痛いほどになる鼓動を鎮めるように、胸の前で手を合わせた。

 

アラン「……なに」

 

「……アラン、前に言ってくれたよね。守るって」

 


私は顔を上げ、うかがうようにアランを見つめる。

 

 

―――――――

 

アラン「俺がお前を守ってやるよ」

 

―――――――

 

 

アラン「…………」

 


黙ったままのアランの髪が、夜風に揺れる。


「あれは、私に言ってくれたの?それとも…プリンセスに?」


アランの目が細められ、私は息を呑んだ。


(アラン……私のこと、どう思ってるの?)


夜風が私とアランの間をすり抜けていく。

 

アラン「…………」

 

沈黙のまま見つめ合っていると、強く風が吹き、私の髪を大きく揺らした。


「……っ」


思わず視線を逸らし、頬にかかった髪を払う。

そうしてもう一度顔を上げた時には、アランの視線はそれてしまっていた。


アラン「…………。俺は騎士として、プリンセスを守るだけだ。そのことを、誇りに思ってる」


そうして、ゆっくりと顔を上げる。

 

アラン「お前は、プリンセスだろ」


「…………」


私はアランの言葉を飲み込むように、小さく息を吸い込む。

 

(アランが守ってくれているのは、私じゃなくプリンセスなんだ。騎士として守るってことは、プリンセスへの誠意なんだよね)


知らずに、唇をぎゅっと噛みしめていた。


(私はプリンセスとして、その気持ちに応えなきゃいけないのに……)


「…………」


胸の前で合わせていた指先が、いつの間にか震えていることに気づく。

 

(今は、出来ない……)


「……ありがとう、アラン。先に戻っていて」


アラン「…………」

 

「大丈夫、すぐに戻るから」


私は言い、最後に小さく囁いた。

 

「お願い」


すると少しの静寂後、ゆっくりと足音が近づいてくる。


(だめ。こんな顔、見られたくない……)


やがて目の前で止まったアランの指先が、きつく合わせたままの私の手にそっと触れた。


「え……?」


アラン「…………」


そうしてぎゅっと、指先に力が込められていき……。