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イケメンシリーズ ストーリーのネタバレです

王宮【アラン】10話後半honey

そして、数日が経ったある日…―。

 

私はドレナ王国から会食の招待を受け、城を出ていた。

馬車の中で、ジルがドレナ王国について話してくれる。


ジル「ドレナ王国は、ここ数年大きくなってきた新興国ですね」


(そういえば少し、聞いたことがある……)


街に住んでいる時から、攻撃的な政治展開をしている国の噂を耳にしていた。

 

(一体、何のお話なんだろう……)

 

..........

 

国境付近の別邸を訪れた私は、ジルと共に席に着いていた。

 

「…………」

 

ジル「…………」

 

向かいに腰掛けるドレナ国王の口からは、留まることなく自慢話が聞こえてくる。

黙ったまま聞いていると、ドレナ国王が言った。


ドレナ国王「我がドレナと結ぶことは、貴国にとっても有益ではないか?」

 

ジル「……どういうことでしょうか?」


ぴくりと眉を動かし、ジルが尋ねる。

 

ドレナ国王「私とプリンセスが婚姻関係を結ぶことが、一番望ましいと言っている」


「……!」

 

(婚姻って……!?)


驚き、私は思わずジルを見上げた。


ジル「……なるほど」

 

ジルが苦笑いを浮かべ、呟く。

 

アラン「…………」


私の後ろに控えるアランも同じように、ただ黙ったまま立っていた。

 

..........

 

 

そして帰りの馬車の中、私はジルに尋ねる。


「ジル……もし断ってしまったら、どうなるの?」


すると、ジルが息をつきながら言った。

 

ジル「ドレナは手っ取り早く、ウィスタリアを手中に収めようとしているのでしょう。この婚姻は、我が国にとっては有益とは言えませんね……」

 

「……そうですか」


ジルの言葉に、私はほっと胸をなでおろす。


そうしてしばらくの沈黙の後、ジルが窓の外を眺めぽつりとこぼした。

 

ジル「しかし何故今、このようなことを言い出したのでしょう……」


「え……?」

 

見上げると、ジルがふっと目を細める。


ジル「……いえ。この婚姻は、お断りされますか?」


「…………」


ジルの問いかけに、私は静かに頷いた。

 

「はい……」

 

そしてジルと同じように窓の外を眺め、微かに漂う嫌な予感に息をつく。


(……何も起きなければいいんだけど)

 

 

..........


ドレナ国王との会食を終えた、翌日…―。

 

私は一人、執務室でため息をついていた。


(どうすればいいんだろう……)

 

そうして、ついさっき交わしたばかりのジルとの会話を思い出す。

 

―――――――

 

ドレナ国王からの婚姻の申し入れを断った私は、ジルの部屋でその後の報告を聞いていた。

 

ジル「率直に申し上げますと、だいぶ気分を害されたご様子でした」

 

「……そうですか」

 

私が顔をうつむかせると、ジルが少し優しい声音で告げる。

 

ジル「確かにドレナの勢いは脅威と言えますが、みすみす婚姻を結び国の実権を握られる方が問題ですよ」

 

―――――――

 

(ジルはああ言ってくれたけど…私の判断のせいで、状況が悪い方向へ進んでしまったら……)

 

考えていると、ドアが叩かれジルが現れた。


「え……」


その後ろには、アランの姿も見える。

 

ジル「プリンセス」

 

厳しい顔つきのジルが、すっと目を細めた。


ジル「ドレナが宣戦布告を行いました」

 

「…っ……それって」


私は声を上げ、アランに視線を寄せる。

 

アラン「…………」

 

アランは黙ったまま、私の視線を受け止めた。


ジル「開戦せざるをえませんね」


「……!」

 

(戦争が、始まるということ……!?)


一瞬の静寂が、部屋を満たす。


ジル「…………」

 

やがて、ジルが呟くように言った。

 

ジル「……あなたはもう、相手を決めているようですが」


ジルの視線が、アランへと向けられる。


アラン「…………」


ジルの言葉に、私ははっと顔を上げた。


(ジル……気づいていたんだ)

 

息をつき、ジルが告げる。


ジル「しばらくの間は、波風を立てないようふせておくようにして下さい」


ジルが告げ、執務室を去っていく。

部屋に残された私とアランの間には、ただ沈黙が流れていった。

 

―――――――

 

ジル「ドレナが宣戦布告を行いました。開戦せざるをえませんね」

 

―――――――

 


(戦争が、始まってしまうんだ……。今度は、援軍として派兵されるだけじゃすまないよね……)


アラン「おい」


突然聞こえたアランの声に、私ははっと顔を上げる。


「アラン……」

 

不安に掠れた声を上げると、アランが近づき手を握ってくれる。

 

(あ……)


絡んだ指先から、アランの手も冷たくなっていることに気がついた。


「…………」


アランの手を、ぎゅっと握り返す。

 

(アランも、私と同じ気持ちなのかもしれない……)


アランがそのまま手を引き、私の身体を優しく引き寄せる。


私はアランの腕の中で、小さな声で呟いた。

 

「どうして、こんなことになっちゃったんだろう……」


(戦争なんて、起こしたくなかったのに……)


アラン「…………」


アランは黙ったまま、腕に力を込めてくれる。

 

「……アラン?」

 

黙りこくるアランを見上げると、その瞳は何かを考えるように揺れていた。

 

やがて私の視線に気づき、ふっと笑みを浮かべる。


アラン「なんでもない」


そうしてアランは顔を寄せ、触れるだけのキスをした。

 


..........


そして、夜…―。

 

部屋のソファに腰掛け考え事をしていると、物音に気がつき顔を上げた。

 

「……?」


(……窓のほうから?)

 

音をたどり窓に目を留めた私は立ち上がり、近づいて行く。

そして窓を開くと、そこから人が現れて…。


「……!」

 

驚き悲鳴を上げようとすると、口を手で押さえられる。

 

???「……声、出さないで」

 

「……っ」

 

その姿を見上げ、私は息を呑んだ。


(ユーリ……!)


ゆっくりと手を外すと、ユーリが笑みを浮かべて口を開く。


ユーリ「ごめんね、こんなところから」


いつもの優しい口調に戸惑いながら、私は静かに尋ねた。


「どうして……」

 

するとユーリが少し目を細め、言う。


ユーリ「今日は、一言だけ忠告に来たんだよ」

 

「……忠告?」


ユーリが視線を合わせ、低い声を響かせた。


ユーリ「逃げたほうがいい、美香様。ここは、戦場になる」


ユーリの言葉に驚き、私は目を見開く。


「なんで、それを……」

 

ユーリ「…………」


私から視線をそらすと、ユーリが懐かしそうに部屋を見渡した。

 

ユーリ「……勝手かもしれないけど、美香様には無事でいてほしいって思うんだ。だから……」


ユーリの瞳が、ゆっくりと私をとらえていく。


再び見つめられ、私はかすかに息を呑んだ。

 

「…………」


(ユーリ……)


その時、廊下から見回りの兵の足音が響いてくる。

私がはっと振り返った途端、ユーリが窓から身を乗り出した。


「待って、ユーリ」

 

呼び止め窓枠に手をつくものの、すでにその姿はない。


「…………」

 

(なんで……?)


ざわめく木の葉を見下ろしながら、私はただ静かに息をついていった。

 


..........


翌朝、私はざわめく闘技場を訪れていた。


訓練に励む騎士たちの中、アランの姿もある。

 

アラン「……お前、どうした?」


気づいたアランが、近づいてきてくれる。

 

「…………」

 

私はただアランを見上げ、睫毛を震わせた。

そうしてアランが目の前まで来ると、人目もはばからず、ぎゅっと抱きつく。


アラン「……?」


ひと目もはばからず抱きつく私の姿に、アランが驚き目を瞬かせる。


私はぎゅっと目を閉じ、考えていた。

 

(逃げるなんて、絶対に出来ない……。でも、大事な人を傷つけたくない……)

 

アラン「……何かあったのか?」


尋ねるアランの優しい声に、私ははっと顔を上げる。

そうしてゆっくりと身体を離すと、小さく首を横に振った。


「……ううん、何でもない。邪魔しちゃってごめんね」


アラン「…………」


訝しげに眉を寄せながらも、アランはそれ以上何も聞かなかった

 

..........

 

執務室に入ると、ジルが待っていた。

 

「ジル……」


ジル「宣戦布告を、正式に受けることとなりました」

 

ジルの言葉に、私は息を呑む。


「話し合い…とかは出来ないんですか?」


ジル「……ドレナとの交渉は、戦いが始まってからになるでしょうね。……ただ、話を聞ける連中でしょうか」

 

ジルの長いため息が、部屋に響いていった。

 

 

..........


廊下から庭を眺めていると、通りがかったレオに声をかけられる。

 

レオ「聞いたよ、プリンセス」


「レオ……」

 

不安のまま見上げると、レオがふっと笑みをこぼす。

そうして真剣な瞳で、言った。


レオ「プリンセスとして、君の判断は正しいよ。胸を張っていればいい」


レオの笑みに、私は小さく息を吐き出す。


「……ありがとう、レオ」


私は頷き、口元をほころばせた。

 


..........

 

気分転換のために庭に出ると、いつもの場所にはロベールさんがいた。


ロベール「大丈夫?なんだか、疲れた顔をしているね」


ロベールさんの隣に腰掛け、私はこれまでのことを語り始める。

するとロベールさんが、厳しい表情を浮かべた。


「……ロベールさん?」

 

ロベール「いや……」


視線を逸らし呟くと、やがてきちんと私に向き直った。


ロベール「大丈夫。美香ちゃんは、周りの力を信じていればいいんだよ」


私はただロベールさんを見上げ、考える。


(信じる……)

 

 

..........

 


夜になると、私は皆から聞いた言葉を一つずつ思い出していた。


(私が皆を信じるように、皆は私のことを信じてくれているんだよね……)


「…………」

 

抱きしめていた枕を離し、ベッドからゆっくりと起き上がる。


そして…―。

 

私は騎士宿舎の廊下に立っていた。


目の前のドアを叩くと、アランがゆっくりと顔を出す。

 

アラン「…………」


私の姿を見つけると、そっと尋ねた。


アラン「……どうした?」


アランの言葉に顔を上げ、私は口を開く。

 

 

「アラン、あのね……」