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イケメンシリーズ ストーリーのネタバレです

王宮【アラン】10話前半honey

ユーリ「あーあ……。やっぱりバレちゃったのか」

 

アラン「…………」

 

ユーリが、呟くように口を開く。


(ユーリ……どういうこと?)

 

私が戸惑いに視線を逸らしていると、アランが静かに尋ねた。

 

アラン「お前、シュタイン側の人間か?」

 

ユーリ「…………」


黙ったままのユーリの口元には、薄く笑みが浮かんでいる。


「……!」

 

(そ、そんな……)


アランの言葉に驚き、私は思わず息を呑んだ。

 

「ユーリ……それって、本当なの?」


ユーリ「…………」

 

振り返ったユーリが、私を見下ろし目を細める。

そして手を伸ばすと、強い力で私の腕を取った。


「……っ」

 

ユーリ「そうだよ、プリンセス」


引き寄せられ耳元で囁かれると、私の身体がびくりと震える。

 

アラン「…………」

 

思わず視線をさまよわせると、目の端に剣を抜くアランの姿が見えた。


(アラン……!)

 

その動きを目の端にとらえた時、ユーリがぼそりと呟いた。

 

ユーリ「抜け出して、心配かけないでねって言ったのに……」


「え……?」

 

ユーリの言葉に、私は以前の会話を思い出していく。

 

―――――――

 

「ユーリ……あの、何かあったら言ってね」

 

ユーリ「そうだな。じゃあもう勝手に抜け出して、心配させないでね」

 

「う、うん……努力する」

 

―――――――

 


ユーリ「…………」


それだけを言うと、ユーリが私の身体を軽く前に押す。

 

「……あっ」

 

慌てて顔を上げた時には、ユーリの姿は森の中へと消えてしまっていた。


「ユーリ……!」


アラン「……!」


ユーリの姿を追い森の中に目を凝らすと、後ろからアランが駆けてくる。

 

アラン「…………」

 

私の側で立ち止まり暗闇に目を凝らすものの、もうすでにユーリの姿は見えなかった。


森は風に揺れ、静かなざわめきだけを響かせている。

 

「ごめん、私のせいで……」


ユーリが私を突き放すように駆けていったことを思い出し、呟く。

 

(私は今、アランの邪魔をしてしまったんだよね……)

 

そして顔を上げ、掠れた声で尋ねた。


「アラン、ユーリは……?」


(どこへ行ってしまったんだろう……)


アラン「…………」

 

アランが息をつき、私へと視線を移す。


アラン「……お前はあんま首突っ込むな」

 

「で、でも……」

 

(そんな訳にはいかない……)


アラン「…………」

 

するとアランが剣をしまい、口を開いた。


アラン「それより……」

 

アランの視線が、厳しく細められる。


アラン「お前、何でこんなとこにいんだよ」

 

「あ、えっと……」


アランの問いかけに、私ははっと目を見開いた。


(そうだ私、アランに会うためにお城を抜け出してきたんだ…)


アラン「…………」


「あ、あのね……」

 

私が城を抜け出してきたことを告げると、ため息を漏らすアランが、私の額を軽く叩く。


アラン「何かあったらどうするんだ」

 

「ご、ごめんなさい」


黙ってしまったアランが、じっと私を見下ろしていた。

 

アラン「…………」

 

「……怒ってる?」

 

沈黙に耐え切れず尋ねるとアランが手を伸ばし、私の身体を力いっぱい抱きしめる。


「……っ」

 

アラン「……怒ってるに決まってんだろ」


「……!?」

 

アランにぎゅっと抱きしめられ、私は思わず身をよじる。


「あ、アラン……少し苦しいよ」

 

アラン「怒ってるって言ってんだろ」


アランの腕により力がこもり、私はふっと息をついた。


(く、苦しい……でも)

 

久しぶりに触れるアランの体温や香りに、安堵の気持ちが広がる。


「アラン……会いたかった」

 

アラン「…………」


思わず囁くと、アランの指先が優しく私の髪をすいた。


アラン「……俺がいない間に危ない目にあったらどうすんだよ」


「え……?」

 

アランが呆れたように言う。


アラン「俺は、二人も三人もいるわけじゃねえんだぞ」


耳元で囁くアランの低い声に、私は小さく頷いた。

 

「う、うん……ごめんなさい」


(アラン、本当に心配してくれているんだ…。さっきだって、もしアランがいなかったら……)

 

ユーリに腕を掴まれたことを思い出し、私はきつく目を閉じた。

アランの背中をぎゅっと掴むと、レオの言葉が脳裏を過ぎる。


―――――――

 

レオ「城の中に裏切り者がいるかもしれない。気をつけて」

 

―――――――

 

(レオの言っていた『裏切り者』って、ユーリのことだったの……?)


そうして、ユーリの笑顔を思い出す。

 

「……っ」


(本当に?ユーリ……)


アラン「…………」


不安に駆られ指先に力を込めると、アランが優しく抱きしめ直してくれた...

 

..........

 

 

アランと共に、私は夜のうちに部屋へと戻ってきていた。

 

「…………」

翌朝、部屋を出るとすでに城内にはユーリ失踪の噂が広がっている。


(やっぱりユーリは、戻らなかったんだ……)


痛む胸を押さえるように手を握ると、静かにドアが開き、ジルが現れた。


「ジル……?」


ジルが浮かべる表情は、ひどく厳しい。


ジル「プリンセス、お話があります」

 

 

........

 

ジルの部屋を訪れると、そこにはアランの姿もあった。

 

ジル「お二人はすでに、ご存知かもしれませんが……」

 

ジルの口から、ユーリがシュタイン側の人間であったこと、そして昨夜失踪したことが告げられた。


「……っ」

 

(やっぱり、間違いじゃなかったんだ……)


アラン「…………」


するとジルが息をつき、改めて私へ視線を向けた。

 

ジル「問題はそれだけではありません。これは公にしていないことですが…」

 

ジルの眉が、微かに寄せられる。


ジル「……機密文書流出の恐れがあります」


「え……!」

 

アラン「……っ」


ジルの言葉に、アランも初耳のように顔を上げた。

そうして僅かな沈黙の後、ジルが苦しそうに呟く。


ジル「……事態は、思った以上に深刻です」

 

 

..........

 

 


一方その頃、シュタイン王国にはユーリの姿があった。


ユーリ「…………」

 

国王執務室のドアを開き、静かに足を踏み入れる。


ユーリ「ゼノ様」

 

ユーリの声に振り返ったゼノが、目を細めた。


ゼノ「ユーリか……」

 

ゼノの前にユーリが立つと、側に控えていたアルバートが眉をひそめた。


アルバート「まったく、何をしにウィスタリアに行ったんだか…」

 

ユーリ「…………」


黙り視線を落とすユーリの姿に、アルバートが言葉を続ける。

 

アルバート「勝手に行ったにも関わらず、収穫もなしとはな……」

 

ゼノ「やめろ、アル」


ゼノの言葉に、アルバートがすっと口をつぐんだ。

 

アルバート「…………」


ゼノが見下ろすと、ユーリが初めて視線を上げる。

 

ゼノ「…………」


ユーリ「……ゼノ様」


するとゼノがふっと笑みを浮かべて尋ねた。


ゼノ「……それで、プリンセスはどうだった?

 


..........

 


西の空が溶けそうなほどの赤に染まる、夕方…―。

 

私は厩舎で一人、馬の世話をしていた。


「…………」

 

ブラシをかけ終え外に出ると、庭ではアーサーが走り回っている。

その光景に、私はそっと息をついた。


(こんな毎日が、ずっと続けばいいのに……)


そうしてじっと見つめていると、後ろから優しく頭を小突かれる。


アラン「何してんだよ」

 

「アラン……」


振り返りアランを見上げると、私はジルから言われた言葉を思い出した。

 


―――――――

 

ジル「……事態は、思った以上に深刻です。あなたには現状、国王に代わる国のトップとして動いて頂かねばなりません。……覚悟は、しておいて下さいね」

 

―――――――

 


(国のトップとしての、覚悟……)

 

アラン「……どうした?」

 

アランに顔を覗き込まれ、私はハッと顔をあげる。


「……ううん」

 

小さく首を振ると、私は再び綺麗な夕焼けを見上げた。

平和な光景に、目を細める。


(私に、守りきれるのかな……)

 

 

..........

 

ジルからユーリについての話を聞いた、その翌朝…―。

 

私は微かな物音に、目を覚ました。


(え……!?)


身体を起こすと、部屋のドアが叩かれていることに気づく。

 

(こんな時間に、一体誰だろう……)


立ち上がりそっとドアを開くと、そこにはアランの姿があった。


「……っ」

 

驚き、私は慌ててドアを閉めかける。


アラン「おい」


「…………」

 

隙間から覗くと、アランが眉を寄せ軽く首を傾げていた。


アラン「何してんだよ」

 

「だ、だって……」

 

(こんな、寝間着姿の時に来なくても……)


私が微かに頬を赤らめると、息をつきアランが言った。


アラン「早く支度して来いよ。出かけるから」

 

「え……?」


アランの言葉に、私はただ目を瞬かせるしかなかった。

 

着替えを済ませ正門でやって来ると、私はアランに尋ねる。


「どこ行くの?」


すると私を見下ろし、アランが聞き返す。


アラン「お前、どっか行きたいとこねえの?」

 

「え……」


アランの言葉に少し考えてから、私は思い切って口を開いた。

 

「じゃあ、お願いしてもいい?」

 

 

..........


そうして馬に乗り、私たちは丘へとやって来ていた。


(わあ……)

 

そこは、王宮や街並みが一望できる場所だった。

 

「綺麗……」

 

丘に腰掛けるアランの横に立ち、私は街を見下ろす。

朝もやに包まれる町が、輝いて見えた。

 

(この街には、たくさんの人たちが住んでるんだ……)

 


―――――――

 

ジル「あなたには現状、国王に代わる国のトップとして動いて頂かねばなりません。……覚悟は、しておいて下さいね」

 

―――――――

 


(プリンセスとして、覚悟を決めなきゃいけないんだ……)

 

アラン「…………」


しばらくの沈黙の後、静かに立ち上がったアランが、私の身体を後ろからふわりと抱きしめた。


「……っ」


私の身体が微かに震えた時、アランが口を開く。

 

アラン「お前、一人で背負ってると思うなよ?」


「……え?」

 

中越しに、アランの声の響きが伝わってくる。

 

アラン「何のために、俺がいるんだよ」


「アラン……」

 

アランの腕に指で触れ、私は改めて街を見下ろした。

風が吹き、私の髪が柔らかく揺れる。

 

「うん……ありがとう」


私は小さく息を吸い込み、頷いた。


アラン「…………」


すると突然、アランが私の身体を正面に向かせワンピースを見下ろした。

 

「……!」

 

(……アラン?)

 

ふっと笑みを浮かべると、指先で首筋を撫でる。


「……っ!な、なに?」


慌てて言うと、アランが視線を上げた。

 

アラン「これ、首元開きすぎじゃねえ?足も…」


「ふ、普通だよ……」

 

速まる鼓動を隠すように顔を背けると、アランがゆっくりと顔を寄せる。


「…んっ……」

 

首元や鎖骨に、わざと音を立てるようにキスをしていった。

 

アラン「……こういうこと、期待してんのかと思った」

 

アランの言葉に、私の全身がかあっと熱くなる。

 

(き、期待だなんて……)


「そんなこと……」

 

アラン「冗談だよ」


楽しそうに笑うアランが、声を上げる私の唇を塞いだ。


「……っ…」

 

繰り返されるキスを受け止めながら、私は震える睫毛を下ろしていく。

 


―――――――

 

アラン「お前、一人で背負ってると思うなよ?」

 

―――――――

 

(私には、アランがいるから頑張れる……。きっと、大丈夫……)


そうして私は、ぎこちない仕草でアランのキスに応えていった…。