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イケメンシリーズ ストーリーのネタバレです

王宮【アラン】12話前半honey

アラン「……黙ってろよ?」

 

噴水の影に隠れたまま、アランが突然キスをした。


「…っ……」

 

水音の合間に響く足音に気づき、私は必死に声を抑える。


やがて足音が遠ざかると、長く続いたキスも離れていった。


「…………」

 

私の鼓動は大きく跳ねて、頬は赤く染まっている。


大人しく隠れていたアーサーがやって来ると、アランはその頭を撫でながら、私を見上げた。


アラン「お前、一人で戻れるよな?」

 

「え、あ……うん」


私が頷くと、アランが何事もなかったかのように立ち上がる。


アラン「じゃあな」

 

アーサーと共に去っていくアランの背中を見上げ、私も慌てて立ち上がり口を開いた。


「あ、アラン……今日は、ありがとう」

 

アラン「…………」

 

するとちらりと振り返ったアランが、微かに笑みを浮かべた。

 

 

一方、その頃…―。

 

シュタイン王国では、ドレナ王国に兵を出すかどうかの協議が行われていた。


アルバート「ドレナ王国とは確かに交易がありますが、好感が持てる国だとは言い難いですね」


ゼノ「…………」

 

ドレナは最早シュタインからの兵を当てにして、ウィスタリアとの戦争に臨んでいる節がある。

ゼノは眉を寄せ、黙ったままアルバートの報告を聞いていた。

 

アルバート「ウィスタリアの鉱物資源など、安定的な国家運営も捨てがたいものはあります」

 

アルバートが告げた時、静かに部屋のドアが開き、ユーリが姿を現す。


アルバート「役立たずが……何をしに来た」


ユーリ「…………」

 

アルバートが厳しい視線を送るものの、ユーリはただゼノを見上げていた。


ゼノ「やめろ、アル」


ゼノはユーリへと視線を移し、目を細める。

やがて、ユーリに尋ねた。


ゼノ「ユーリ……お前なら、どうする?」

 

 

..........

 


王室会議から数日が経ち、ドレナとの攻防はまさに一進一退を続けていた。


ジル「もしもシュタインがドレナに派兵した場合、戦局は一気にウィスタリア不利に傾くでしょうね」


ジルが言い、眉を寄せる。


ジル「宮廷官僚たちが、シュタインと婚姻を結びたがったのはこのためです」

 

(あ……あの時の)


ジルの言葉に、王室会議で上がったシュタインとの婚姻の話を思い出す。


(シュタインとの関係を築くために、言っていたんだ……)

 

考えていると、ジルが私に手紙を差し出した。


「これは?」


裏を返してみると、そこにはシュタイン王国の印が押してある。


「……!」

 

はっと顔を上げると、ジルがゆっくりと頷きながら口を開いた。


ジル「シュタインから、プリンセスとの極秘会談の誘いを受けています。……出席されますか?」


「…………」

 

(シュタイン王国の、ゼノ様との会談……)


私は、小さく息を呑む。

 

(これはプリンセスとして、私がやらなきゃいけないことなんだ……)

 

やがて頷き、私はジルを見上げた。

 

「はい、ジル。お受けしてください」

 

 

..........


そして、その夜…―。

 

私はベッドで横になりながら息をついた。


(シュタインとの会談で、今後の行方が決まるんだ……)

 

「…………」

 

(話を聞いてもらいたいな……)

 

..........


私が部屋を訪れると、アランが呆れたように言う。

 

アラン「……お前、どんどん抜け出すの上手くなってないか?」

 

「アラン……相談があるの」


そうして私は、アランに極秘会談のことを話した。

 

アラン「…………」


話を聞き終えたアランが、息をつき口を開く。


アラン「ここでアドバイスするのは、俺の役目じゃねえよ」


「そうだよね……」


アランの言葉に、私はうつむいた。


(話を聞いてアドバイスをもらうだけなら、ジルやレオ…ロベールさんだっている。それでも私が、アランのところに来たかったのは……)

 

アラン「…………」

 

やがてアランが私の顔を覗き込み、尋ねる。


アラン「何だよ。してほしいことがあるなら、はっきり言えよ」


「……!」

 

アランの言葉に、私はかあっと顔を赤く染めた。


(し、してほしいことって……)


「アランに……」


私は顔を真っ赤にしながら、アランの袖を引いた。

 

(アランに……抱きしめてほしい)

 

アラン「…………」

 

アランは黙ったまま手を伸ばし、私の身体を抱きしめてくれる。


私はアランの腕の中で、そのぬくもりを感じ目を閉じていた。

 

(うん……勇気が出たかも)

 

「アラン、ありがとう」


アラン「…………」

 

身体を離し言うと、アランが軽く首を傾げる。

 

アラン「それだけでいいのか?」


「え?」


(だけって……)

 

見上げると、アランが近い距離から私を見つめていた。


「あ……あの」


高鳴る鼓動を隠すように、私は顔を背ける。


「……やっぱりいい」

 

アラン「言えよ」


「いいったら」

 

そうして、問答を続けていると…。


目覚めたアーサーが私の声に気づき、尻尾を振りながら飛びかかってきた。


「……っ」


アーサーが、私の頬をぺろりとなめる。

 

「くすぐったいよ、アーサー」

 

私が笑いながら声を上げると、アランが眉を寄せた。

 

アラン「おい」


アランに引き離されたアーサーが、大人しく寝床へと戻っていく。

その様子を目で追いながら、アランが呟いた。


アラン「……アーサーはいいのかよ」

 

(アラン……?)


見ると、アランがむっとした表情を浮かべていて…。その姿に、鼓動が跳ねる。


(アラン、可愛いかも……)


笑みを浮かべて息を吸い込み、私は吐息をつくようにそっと言った。


「アラン……あの。キス、してほしい」

 

言ってしまってから、耳までもが熱くなるのを感じる。


アラン「…………」

 

するとアランが顔を傾け、黙ったまま唇を重ねた。


(え……!?)


触れるようなキスが深く変わり、私は驚いて睫毛を揺らす。

 

「あ、アラ…っ……」

 

舐めるようなキスが繰り返され、力が抜けた身体は、ベッドの上に押し倒されていった。

 

「…………」


驚くまま見上げると、アランが口を開く。

 

アラン「お前が早く言わないのが悪いんだろ」

 

そうして悪戯っぽく笑みを浮かべ、アランが言った。


アラン「不安、感じないようにしてやろうか?」

 

「い、いい……」


私は慌てて首を横に振る。

 

(何も考えられなくなりそうだから……)


すると笑ったアランが身体を起こし、手を差し出しながら言った。


アラン「お前は力抜いて、言いたいこと言えばいいんだよ」


「…………」


(私の、言いたいこと……)

 


アランの手をとり身体を起こしながら、私は小さく頷く。

そうして、アランの顔を見上げた。

 

「うん……ありがとう、アラン」

 

 

..........

 

 

そして、シュタイン王国との極秘会談当日…―。

 

(やっぱり、緊張する……)

 

国境付近に建つ別邸へと足を踏み入れると、そこにはシュタイン国王ゼノ様の姿があった。

 

ゼノ「…………」


(あの方が……ゼノ様)


私はゼノ様を見上げ、それからゆっくりと頭を下げる。


「お待たせいたしました」

 

ゼノ「いや……問題ない」


ゼノ様がすっと目を細め、席に着いた。

その背後では、騎士であるアルバートが私に視線を送っている。


「…………」


私も席に着き、膝の上で指先を握りしめた。

 

(……頑張らなくちゃ)

 

そうして会談は静かに始まり…。


ジルやアルバートを含め、会話は穏やかに進んでいた。

 

(ゼノ様がとてもわかりやすく話してくださるから、緊張も解けてきたみたい……)


やがてゼノ様が、低い声で尋ねた。


ゼノ「……この戦争、ウィスタリアのプリンセスはどう考えているのか聞かせてほしい」

 

「…………」


(プリンセスとしての考え……)

 

ゼノ様の視線を感じ、私は思わず息を呑む。

その時、アランの言葉が脳裏をよぎった。

 

―――――――

 

アラン「お前は力抜いて、言いたいこと言えばいいんだよ」

 

―――――――

 

 

「……私は」

 

一度大きく息を吸い込み、私は顔を上げ口を開く。

 

「ウィスタリアのプリンセスとして、最後まで戦うだけです」

 

ゼノ「…………」


(何かに屈したりはしない。最後まであきらめずに戦いたい……)

 

するとゼノ様が、小さく呟いた。


ゼノ「……なるほど」

 

 

..........

 

そうして極秘会談を終え、ゼノはアルバートと共に馬車に向かっていた。

 

ゼノ「……姿勢を変えよう」

 

ゼノの呟きに、アルバートが驚いたように目を瞬かせる。


アルバート「……それはつまり、ウィスタリア側につくと?」

 

ゼノ「…………」


返事をしないまま、ゼノが足を止めた。

そうして振り返り、遠く見える美香の姿に目を細める。

 

ゼノ「ああ……」