王宮【アラン】11話前半honey
「アラン、あのね……」
私が口を開くと、廊下の先から足音が響いてきた。
(誰か、来る……?)
思わず視線を逸らし、廊下の先を見やる。
アラン「…………」
すると突然、アランが私の手を強く引いた。
「……!」
そうしてアランは、私を部屋の中へと引き入れていった。
私の手を握ったまま、アランが静かに部屋のドアを閉める。
アラン「…………」
そうして改めて、私を見下ろした。
「あ……」
(続きを、話さなくちゃ……)
アランの視線を受け止め、私は小さく息を吸い込む。
「あのね、私……最後までプリンセスとして、戦いたいの」
―――――――
ジル「……事態は、思った以上に深刻です。あなたには現状、国王に代わる国のトップとして動いて頂かねばなりません。……覚悟は、しておいて下さいね」
―――――――
(これが、プリンセスとしての私の覚悟なんだ……。ドレナとの戦争も、受け入れていかなくちゃいけない)
そうして再び、口を開いた。
「だから、アラン……」
(わかって……もらえるかな)
思わず声が小さくなると、アランが静かな声で言う。
アラン「下向くな。前だけ見てろって言ったろ。プリンセス」
「……!」
アランの言葉にはっとすると、私は改めて顔を上げた。
アランが、じっと私を見つめている。
アラン「…………」
「……アラン=クロフォード。ウィスタリアのため、一緒に戦ってくれますか?」
私が告げると、アランがふっと目を細めた。
アラン「ああ……命をかけて」
「…………」
(命を……)
アランの言葉に微かな不安を覚え、私の鼓動が跳ねる。
(一緒に戦ってほしい……。でも、アランがいなくなってしまったら私は……)
私はアランを見上げ、小さな声で言った。
「アラン、危険なことは……」
するとアランが笑みを浮かべ、私の背中を抱き寄せる。
アラン「……わかってるよ」
腕に力を込め、アランがからかうように口を開いた。
アラン「生きてないと、こいうことも出来ないもんな」
「……っ」
私は腕の中で、頬を染める。
アラン「……絶対に、死なねえよ。生きて、戦うから」
「うん……」
そうしてアランの胸に頬をつけると、温かな心臓の音を聞いた。
(アランの、生きてる音だ……)
思いながら、私はゆっくりと目を閉じていった。
..........
そして、ドレナ王国との戦争が始まり…―。
「え……?」
ジルに呼び出された私は、見慣れない言葉に声を上げた。
「王室会議……ですか?」
ジル「ええ……開かれることが決まりました」
ジルが息をつき、私を見下ろす。
(ジル……どうしたんだろう?)
ジルが見せる厳しい表情に、私は軽く首を傾げる。
すると、ジルが眉を寄せ告げた。
ジル「……言ってしまえば、あなたを裁く会議ですね」
ジルの言葉に戸惑い、私は目を瞬かせた。
「私を……裁く?」
(それって、一体どういうこと……?)
見上げると、ジルが長くため息をつきながら言う。
ジル「現状、プリンセスであるあなたが、ウィスタリアでの最高権力です。あなたにその役目が務まるのかどうか……宮廷官僚の重鎮たちが集まり、協議されるのですよ」
「…………」
何も答えられないでいる私に、ジルがゆっくりと説明してくれた。
王室会議とは王をも裁くことの出来る場であり、不可侵として、締め切られた部屋で、丸一日続けられるのだという。
「そんな……」
不安にうつむく私に、ジルが厳しい顔で言う。
ジル「覚悟だけは、しておいて下さいね」
..........
そして、王室会議当日…―。
廊下を歩きながら、私は緊張に息を呑んでいた。
レオ「プリンセス……」
するとそこに、宮廷官僚として会議に出席するレオが現れる。
「レオ……」
振り返ると、レオが私の耳元でこっそりと囁いた。
レオ「ここは国の古株たちに糾弾される場だ。頭の固い連中だからね、何を言われても考えない方がいい……」
そっと見上げると、レオが心配そうに眉を寄せる。
レオ「目を閉じているんだよ、美香ちゃん」
「……う、うん」
不安に声を掠れさせたまま、私は頷いた。
ジル「あなたはただ、黙っていてください」
「…………」
ジルの言葉にも頷き、私はゆっくりと息をついた。
そうして辿り着いた謁見の間の扉の横には、アランの姿があった。
(アラン……)
騎士として立つアランと、一瞬だけ視線が交わる。
「…………」
アラン「…………」
私は扉を見上げ、思った。
(戦うって決めたんだから、こんなところで立ち止まるわけにはいかないよね……)
そうして重苦しい音をたて、扉が開いていく。
「…………」
私はぐっと指先を握り、足を踏み入れていった…。
宮廷官僚の重鎮たちが、私を取り囲むように腰掛けている。
宮廷官僚1「プリンセスとしての役目を、果たしていると言えるのか」
「…………」
低く攻撃的な声音を次々と浴びせられ、私は思わず息を呑んだ。
(何これ、怖い……)
異様な雰囲気に、私はこれまで味わったことのない恐怖を感じていた。
―――――――
レオ「ここは国の古株たちに糾弾される場だ。頭の固い連中だからね、何を言われても考えない方がいい……目を閉じているんだよ、美香ちゃん」
―――――――
(目を閉じていても、声は聞こえてきてしまう……)
レオの言葉を思い出すものの、私は薄く目を開いてしまった。
「……っ」
すると注がれるたくさんの厳しい視線に、身体がすくんでしまう。
ジル「…………」
レオ「…………」
ジルやレオたちでさえ、眉を寄せ緊張した面持ちで辺りを見回していた。
やがて宮廷官僚たちの言葉が、重なって響いてくる。
宮廷官僚1「プリンセスは、この国を守りきれるとお思いか?」
宮廷官僚2「やはりここは、シュタインとの婚姻関係を結ぶべきだろう」
聞こえてくる声に、私はぴくりと眉を動かし呟いた。
「……そんな」
(…どうすればいいの)
とめどない非難や批判の嵐に、耳を塞ぎたくなった、その時…―。
部屋に、重く軋むような音が響き渡る。
「…………」
(え……?)
振り返ると、会議が終わるまで開かれるはずのない扉が、ゆっくりと開いていった…。
見ると、そこにはアランの姿がある。
アラン「…………」
「……あ、アラン?」
(そんな、まさか……)
小さく息を呑み、私は呟く。
ジルやレオも、驚いたような視線を送っていた。
レオ「驚いたな……」
ジル「…………」
宮廷官僚たちのざわめきが、大きくなっていく。
やがてそれは重なり合い、耳に嫌に響いた。
宮廷官僚1「この場所に足を踏み入れることは、許していない」
宮廷官僚2「関係のない騎士が、何をしに来た」
その土豪に、私は思わずまぶたを震わせる。
(ここに勝手に入ってきてしまったら、大変なことになるんじゃ……)
アラン「…………」
すると足音を響かせて歩いてきたアランが、私の隣に立った。
「アラン……?」
(どうして、ここに……)
私も戸惑うまま、アランを見上げる。
アラン「……あるだろ」
アランが、宮廷官僚たちに告げる。
宮廷官僚2「何だと……?」
アランは前を向くと、口元に微かに笑みを浮かべて言った。
アラン「……この国を守る守らないの話なら、関係あるだろ」
アランの発言に、辺りのざわめきがより濃く変わる。
(アラン……?)
宮廷官僚1「なぜ騎士団長が、そのような発言を……」
アラン「…………」
すると、アランが口を開いた。
アラン「プリンセスが選んだのが、俺だからだよ」