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イケメンシリーズ ストーリーのネタバレです

王宮【アラン】8話前半

アラン「後で聞くから、少し黙ってろよ」

 

軽く首を傾げたアランが囁き、唇を重ねる。

柔らかな感触が、やがてついばむようなキスに変わっていった。


「……っ」


何度も繰り返される甘いキスに、吐息が漏れる。

 

「……んっ…」

 

深くなるキスに耐え切れず、私がアランの腕を掴んだ時…。


風が吹き、窓ガラスが音を立てて震えた。

 

アラン「…………」

 

アランがゆっくりと、唇を離す。

 

(あ、アラン……?)


鼓動を高鳴らせたまま、私はそっとまぶたを開いた。

すると、ふっと目を細めたアランがからかうように言う。


アラン「真っ赤」


「なっ……」


(アランのせいなのに…!)

 

アランを見上げ眉を寄せると、私は小さな声で尋ねた。


「……アランはこういうこと、慣れてるの?」


アラン「……は?」


私の言葉に、アランが呆れたように声を上げる。


アラン「……普通、今聞くか?」

 

「だって……」


私は視線を逸らし、微かに身をよじった。

 

(私だけ焦って、アランは余裕みたいに見えるから……)

 

アラン「…………」


アランが口元に笑みを浮かべ、腰にまわした手に力を込める。


「……えっ」

 

そうして再び私の身体を引き寄せると、額にキスをした。


「……っ」


驚き睫毛を震わせるうちに、今度は頬にキスをされる。

微かに響く甘い音に、耳元までもが熱くなってしまった。

 

アラン「俺、今…お前のことだけ考えてたいんだけど」

 

「……!」


アランが囁き、再び唇を重ねる。

限りなく優しい仕草のはずなのに、身体中が痺れたように動かなくなってしまった。


(なんだか、立っていられない……)


しがみつくようにアランの腕を握ると、気づいたアランが顔を離す。


アラン「…………」


(アラン……?)

 

見上げると、アランが腰元からするりと手を離した。


アラン「……じゃあな」


「え……!?」


そのまま部屋を出て行くアランの後ろ姿を見送ると、私は力が抜けたようにベッドに腰掛けた。

 

(び、びっくりした……)

 

それから唇に手をあて、考える。

 

(アラン、なんで私にあんなことを聞いたんだろう…)

 

―――――――

 

アラン「俺以外のやつ、選べんの?」

 

―――――――

 


(それに、なんでキスなんか……理由を聞くのを忘れちゃったな)


私はもう一度ドアを見つめ、小さく息をついた。

 

 

..........

 

そして、翌朝…―。

 

戦争についてジルに詳しく聞こうと、私は部屋へと向かっていた。

ドアを叩こうと手をあげた時、中から声が聞こえてくることに気が付く。


(……ジルの声?)

 

ジル「では、機密事項が漏れていたということですか?」

 

(え……!?)


戦争について尋ねようとジルの部屋を訪れた私は、宮廷官僚たちが部屋を出たことを確認し、ドアを叩いた。

 

ジル「……どうかされましたか?プリンセス」


中では、厳しく眉を寄せたジルが立ったまま書類に目を通していた。

不意に目をあげたジルに見つめられ、私の鼓動が大きく跳ねる。


「いえ、あの……」


(さっきの話って……聞いていいことなのかな)

 


―――――――

 

ジル「では、機密事項が漏れていたということですか?」

 

―――――――

 

ドアの前で聞いてしまった声を思い出していると、ジルが目を細めた。

 

ジル「何か聞こえていましたか?」

 

「え…!?」


思わず顔を上げると、ジルが息をつきながら言う。


ジル「聞こえていたとしても、プリンセスであるあなたには関係のない話です。あなたの役目は、次期国王を選ぶことなのですから」

 

ジルの言葉に、私はただ口を閉ざすしかなかった。

 

ジルの言葉に何も言えなかった私は、一人廊下を歩いていた。


(それに結局、何も聞けなかったな……)


考えながら顔を上げると、廊下の奥にユーリの姿を見つける。

いつもとは少し違う厳しい表情に、私は思わず声を掛けた。


「ユーリ、どうかしたの?」

 

ユーリ「……!」


驚いたように振り返ったユーリが、私に気づき笑みを浮かべる。

 

ユーリ「なんでもないよ?」


(でも、少し元気がないように見えたけど……)


私は近づき、ユーリの顔を見上げて言った。


「ユーリ……あの、何かあったら言ってね。話を聞くことしか出来ないかもしれないけど…」


ユーリ「…………」


私の言葉に驚いたように眉を上げ、ユーリが目を細める。


ユーリ「そうだな。じゃあもう勝手に抜け出して心配させないでね」

 

「う、うん……努力する」

 

慌てて頷くと、ユーリが微かに声をあげて笑った。

 

 

..........

 

 


その後、勉強を一通り終えた私は、一休みのため庭へと出てきていた。


不意に、聞き知った声を聞く。


(なんだか、アランの声が聞こえるような……)


不思議に思いながら、私は庭の茂みの方を覗き込んだ。

 

アラン「おい、止めろって…」


「え……?」

 

するとそこには、犬と楽しそうに戯れるアランの姿があって…。


「アラン…!?」


庭の片隅で犬と戯れるアランの姿に、私は驚いて声を上げた。

 

「その犬って……」


すると飛びつこうとする犬を押し止め、アランが私を見上げる。

 

アラン「ここで腹空かせてたから食い物やったら、なついて……っ!」

 

制するアランの手をかいくぐり、犬がアランの身体に飛びついていく。


(か、可愛い……!)

 

私はたまらずに屈みこみ、アランに尋ねた。


「触ってもいい?」

 

アラン「なんで俺に聞くんだよ。こいつに聞けって」


アランが眉を寄せ、犬の身体を引き離す。


「……触ってもいいですか?」


アランに言われた通りに尋ねると、途端に犬が飛びついてきた。


「人に慣れてるんだね」


アランが息をつき、犬を見下ろす。


アラン「どっかから迷ってきたんだろ」


(でも、すごく綺麗で賢そうな犬だな……。どこかに、飼い主の人がいるのかな?)

 

私は犬を抱き上げると、アランを見上げた。


「ねえ、アラン。この子の飼い主、探してあげられないかな?」

 

私の言葉を予想していたのか、アランは大きく息をついた後で、ゆっくりと立ち上がった。


アラン「ああ、仕方ねえな」

 

 

..........

 

夕方まで探したものの、飼い主は見つからないまま、私たちは一旦、犬を連れてアランの部屋へと戻っていた。

 

(どうしよう……)

 

疲れたのか部屋の隅で丸くなって眠る犬を撫でながら、私は息をつく。

 

(ジルは、プリンセスが犬を飼うことを許すとは思えないし…。でも、一度頼んでみようかな……)

 

アラン「…………」


やがてベッドに腰掛けたまま頬杖をつくアランが、ぽつりと言った。

 

アラン「俺の部屋に置いてやってもいいけど」


「え……!」

 

私は勢いよく振り返り、アランを見上げた。

 

「いいの……!?」


アラン「…………」


ふっと口元をほころばせるアランを見上げ、私は笑みを浮かべる。


(良かった……)


そうして喜んでいると、ふと視線を感じた。


「……どうしたの?」


尋ねると、アランがゆっくりと口を開く。

 

アラン「……触っていい?」


「えっ……」

 

アランの言葉に、私は庭での出来事を思い出していった。

 

 

―――――――

 

「触ってもいい?」

 

アラン「なんで俺に聞くんだよ。こいつに聞けって」

 

―――――――

 


(それって……)

 

顔が赤くなるのを感じ、私は微かに息を呑む。


(恥ずかしい。でも……)

 

アラン「…………」


じっと見つめるアランに、私は小さく頷いた。

するとアランが立ち上がり側まで来ると、犬にするのと同じように、私の頭をわしゃわしゃと撫でた。


アラン「良かったな……」


「わっ……もう」


思わず見上げると、アランが楽しそうに声をあげて笑っていた。

 


..........

 


翌日、騎士宿舎に向かうと、犬はすでに騎士たちに『アーサー』と名付けられ、可愛がられていた。

 

「……アーサー」


試しに呼びかけてみると、アーサーが嬉しそうに尻尾をふり駆けてくる。

 

(可愛い……!!)

 

飛びついてくるアーサーを抱きしめ、私はぎゅっと目を閉じた。

 

アラン「…………」

 


「やだ、アーサー。くすぐったいよ!アーサーったら」

 

アーサーと遊ぶ私の後ろには、どこか不機嫌そうなアランが立っている。

 

アラン「……おい」


「え?」

 

振り返ると、アランがはっとしたように顔を背けた。


アラン「……何でもねえよ」

 

 

..........

 

アンが執務室へと向かった後、アランは廊下を歩いていた。

ふと足を止め、曲がり角の先を見やる。


アラン「…………」


そこは、国王の部屋へと向かう道だった。


行く先を変え角を曲がったアランが、目を細める。


アラン「……何してんだ?あいつ」


そこには、歩き去っていく不審な人影があった…。

 

 

..........

 

 

そして、夜…―。

 

私がこそこそと準備をしていると、いつものようにドアが叩かれた。


ユーリ「夕食の時間だよ、美香様」

 

「え、あ……うん!」


ドアが開かれると、私は慌てて手に持っていたものを隠す。


ユーリ「え?何を隠したの?」

 

「な、なんでもないよ」


ごまかそうとする私に近づき、ユーリがひょいっと後ろを覗き込む。


「あ……!」


ユーリ「……それって、犬用のおもちゃ?」

 

不思議そうに呟くユーリに、私は慌てて顔を上げた。


ユーリ「もしかして……犬飼ってる?」


返事出来ないでいる私を見下ろし、ユーリが軽く首を傾げる。


ユーリ「うーん……ジル様、怒るんじゃないかな?猫ならまだしも」


(や、やっぱり…。でもアランが飼ってるから大丈夫だとは、もっと言えないし…)


ユーリの言葉にかぶせるように、私は口を開いた。


「ユーリ、お願い。内緒にしててくれる?」


すると少し面食らったように、ユーリが頷く。

 

ユーリ「いいけど……そんなに信用しないでね」

 

笑みを浮かべるユーリに、私はほっと胸を撫で下ろした。


「ユーリなら信用出来るよ。ありがとう」


ユーリ「…………」

 

その時私は、ユーリが浮かべた複雑な表情に気がつかなかった…。

 


..........


翌朝、私はジルからついに戦争が始まると告げられていた。

 

ジル「まあ戦争とはいえ、国境近くの小競り合いのようなものです。あまり危惧するようなことではありませんが…」


「…………」


黙ったままうつむく私を見下ろし、ジルが息をつく。


ジル「騎士団は、派兵されることになります。あなたの護衛としてついているアラン殿も、しばらく留守になります」


ジルの言葉に、私ははっと顔を上げた。


(やっぱり、アランは戦場へ…?)


何か言おうと口を開きかけると、それを制するようにジルが低く言う。

 

ジル「プリンセス、あなたが心配することはありませんよ。しっかりと勉強や稽古事に励んでください」


釘を刺すようなジルの視線に、私はただ頷くしかなかった。

 

執務室で机に向かいながらも、私は集中できずにいた。


「…………」

 

立ち上がり、本棚から戦争に関連のありそうな本を取り出す。


(ジルは心配ないと言っていたけれど…どんなに小さくても、戦争という以上危険はあるんだよね……)


立ったまま本をめくり、私は眉を寄せた。

 

―――――――

 

ジル「プリンセス、あなたが心配することはありませんよ」

 

―――――――

 


(そんなことない。プリンセスとしても、ウィスタリアの国民としても、他人事ではいられないよ……)


そうしてしばらくの間、本のページを静かにめくっていると、後ろからため息が響いてくる。

 

「……え?」

 

驚き振り向くと、そこにはジルが立っていた。


ジル「まったく。大人しくしていると思えば、全く関係ない勉強をされているようですね」


「す、すみません……でも」

 

私が視線を伏せると、ジルが呟くように言う。

 

ジル「……明日一日、休日としましょう」


「え?」


顔を上げると、ジルがじっと私を見下ろしていた。

 

ジル「顔色が悪いですよ。息抜きでもされてきたらいかがですか?」


(……ジル)


私は本を閉じ、小さく頷く。

 

「うん……ありがとう」

 

 ..........

 


そして夕方、厩舎へと足を運ぶとそこにはアランの姿があった。

 

アラン「…なに?」


声をかけられずにいた私に気づき、アランが尋ねる。


「アラン、あのね……」


私はジルからもらった休日の話を切り出した。

 

(明日は、アランとゆっくり話が出来たらいいな…。でも、こんな時に遊びに行く気分にはなれないよね)


アラン「…………」


迷う私を見下ろして、やがてアランが少し考えるようにして口を開いた。

 

アラン「……だったら、行きたいところがある」


(え……行きたいところ?)

 

アランの言葉に、私は軽く首を傾げる。

 

 

..........

 

そして、翌日…―。

 

ジルから休日をもらった私は、新しい靴を履きバッグを持って、正門で待つアランの元へと向かっていた。


「おはよう、アラン」


アラン「…………」

 

馬の手綱を引いて待っていたアランが私を見つけ、じっと見つめる。


アラン「ふーん」


「な、なに?」

 

(どこか、おかしいかな?)

 

アランの視線に頬を赤く染めながら、私は尋ねた。

するとアランが目を細め、口元に笑みを浮かべる。


アラン「出掛けるのに丁度いい格好だな。いいんじゃねえの」


それだけ言うと、少し照れたように背を背けた。


「ありがとう……」

 

(昨日の夜から、準備しててよかった……)


ほっと息をついていると、馬の背から、アランが手を伸ばしていることに気がつく。


「どこへ行くの?」


アラン「行けばわかる」

 

私の手をしっかりと握ると、アランが力強く引き寄せてくれた。

 

 

..........

城下町へ降りてくると、私たちは馬を降り歩いていた。


(ここって……)


そこはかつて、私が住んでいた街だった。


(少し前のことなのに、この道を歩いたことがずっと昔のように感じる。何だか、懐かしいな…)

 

ふと、隣を歩くアランを見上げる。


アラン「…………」


(アランはどうして、ここに行きたいって言ったんだろう……)


広場まで出ると、アランがふっと笑みを浮かべて私を見下ろした。


アラン「確かめに来たんだよ」

 

「え?」


アランの言葉に、私は思わず目を瞬かせる。


アラン「守るもんは、はっきりしてたほうがいいだろ」


(それって、もしかして…)


―――――――

 

ジル「騎士団は、派兵されることになります。あなたの護衛としてついているアラン殿も、しばらく留守になります」

 

―――――――

 


(騎士として、アランが守るものってこと…?)


途端に戦争の不安を思い出し、私は視線を落とした。

 

「そっか……」


アラン「…………」

 

そんな私の姿を、アランが黙ったまま見つめている。

 

(言いたいことは、たくさんあるのに……)


何も言えないままでいると、突然にアランが私の手をとった。

そうしてそのまま、歩き出す。


「え、アラン……?」


やがて脇道にそれると、アランが私の手をぐっと引き寄せた。

 

「……!」

 

壁に背中がつくと、私を囲うようにアランが手をつく。


(近い……!)

 

間近から見下ろされ顔が赤くなるのを感じ、私は急いで顔を下向かせた。

 

アラン「……おい、こっち見ろよ」


「で、でも……」


(恥ずかしい……)

 


すると少しの沈黙の後、アランの指先が私の頬をなぞった。


アラン「見ろって」


「……っ」


心臓の音が、飛び出しそうなほどに響いている。

アランの言葉に、私は本当にゆっくりと顔を上げていった。


アラン「…………」


やがて目が合うと、アランが言う。

 

アラン「やれば出来るじゃねえか」

 

そうしてふっと笑みを浮かべると、アランが顔を寄せた。


「ん…っ…」

 

(絶対に、言えないけど……)


アランの柔らかな唇が、渡しの唇の輪郭を辿る。


(どこにも行かないでほしい……側にいてほしい……)


アラン「……なに?」

 

熱い息をつく私を見下ろし、アランが掠れた声で尋ねる。


「……ううん、何でもない」


私はアランの腕をぎゅっと握り、答えた。


アラン「…………」


そうして今度はしっかりと目を閉じ、私はアランのキスを受け止めた…。