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イケメンシリーズ ストーリーのネタバレです

王宮【アラン】8話後半

息抜きを終え、お城へと戻ってくると、殺伐とした雰囲気が漂い始めていた。

 

(騎士たちは、明日から出かけることになるって言ってたけど……)

 

送ってくれたアランもすぐに厳しい顔つきに戻り、部屋を出て行った。

窓から若い騎士と共に歩いていくアランの姿を見つめながら、私は一人ため息をつく。


(本当に、私に出来ることってないのかな……)


するとドアを叩く高い音が響き、ユーリが現れた。

 

ユーリ「どうしたの、美香様。せっかくのお休みなのに、元気ないね」


「ユーリ……」


私はユーリを見上げて少し悩んだ後、小さな声で尋ねる。


「ねえ、今私に出来ることって何かないかな?」

 

ユーリ「え?」


驚いたユーリが、やがてにっこりと微笑んで言った。

 

ユーリ「プリンセスは、お城にいるだけでいいと思うよ?」


「そっか……」


ユーリの言葉に再び息をつき、私は窓の外を見やった。

せめて勉強だけはしておこうと執務室で机に向かっていると、突然頭の上から声が降ってきた。


???「今日は、休日のはずでは?」


「えっ……!」


思わず目を見開いて顔を上げると、ジルが呆れた様子で立っている。

 

ジル「あなたには、他に目を向けて頂かなければならないことがあります」


「……でも、ジル。私にも何か出来ることってないの?」


ジル「…………」

 

するとジルは息をつき、私の手から分厚い戦術の本を取り上げた。


ジル「今のプリンセスの役目は、大人しくしていること。そして早く、次の王を見つけることですよ」

 

 

..........

 

そして、日が暮れ始めた頃…―。

 

私はアーサーと共に庭を散歩していた。


「……アーサー」

 

足元にじゃれるアーサーの頭を撫でながら、ぽつりとこぼす。


「私には、やっぱり何も出来ないのかな……」


するとそこに、アランの声が響いてきた。


アラン「お前、何やってんの?」

 

「アラン……」


私と同じようにしゃがみこみ、アランがアーサーの頭を撫でる。

 

「…………」


私はその様子をじっと見つめていた。

 

アラン「……なんだよ」


アランの声に、はっと顔を上げる。


アラン「何か言いたいんじゃねえのか?」

 

「……え?」

 

(なんで、分かったんだろう……)


するとアーサーに触れながら、アランが呆れたように言う。


アラン「お前、すぐに顔に出んだよ」

 

「…そうなの!?」


そうしてアーサーから私に視線を移した。

 

アラン「……言えよ」


「…………」

 

アランの視線を受け止めたまま、私はユーリやジルと同じことを尋ねた。


(やっぱりアランも、大人しくしていろって言うのかな……)


アラン「…………」


少し黙ったアランが、やがて口を開く。

 

アラン「お前は、信じてろよ」


「……え」

 

戸惑いに目を上げると、アランが優しく目を細めて言った。


アラン「お前はこの国の誰よりも、俺たちの無事を信じてろ」


アランの言葉に、私は小さく息を呑んだ。

 

(信じる……アランたちの無事を?)


やがてアランが目を逸らし、告げる。

 

アラン「お前が信じるなら、俺がどんな無茶なことでも叶えてやるから」


「…………」


少しの沈黙が降りた後、アランがもう一度私の目を見た。

 

アラン「…………」


(…出来ることは少ないけど、それがアランの力になるんだとしたら、私はこの城で、国で……誰よりも信じて待っていよう)


「うん……わかった」


私が頷くと、アランがふっと目を細めた。


そうしてしばらくの時間が過ぎた頃、私は静かに立ち上がる。

時計塔を見上げ、小さく息をついた。


(もう、こんな時間……別れがたいけど、アランは明日の朝早く発つんだから、邪魔はできないよね)


「そろそろ行くね。ありがとう、アラン」


アラン「…………」


すると立ち上がったアランが、私の手をとった。

 

「……!」


(え……?)


アランに手を引かれるまま、私はアーサーと共に部屋へと訪れていた。

 

(アラン、どうしたんだろう……)


足を掠めるように、アーサーが部屋の隅の寝床へと駆けていく。


やがて手が離れると、アランがゆっくりと振り返った。

 

「……っ」

 

真っ直ぐな目で見つめられ、鼓動が大きく跳ねる。


アラン「…………」


「……アラン?」

 

やがて視線を外しベッドまで歩いていったアランが、どさりと腰を下ろして私を見上げた。

 

アラン「……まだお前に、言ってないことがある」


アランの言葉に、私は戸惑って目を瞬かせた。

 

「……え?」


すると視線を逸らし、アランが呟くように言う。

 

アラン「まあ、今言う資格はないんだけどな」

 

「……資格?」


(何のことだろう……)

 

私の声に、アランが静かに息をついた。

 

アラン「ああ。派兵されることになった限り、俺はまだ一介の騎士だからな。今、お前に答えることは出来ねえけど……」


(答えるって……)

 

 

―――――――

 

「アランが……いい」

 

アラン「…………」

 

「アランを、選びたい」

 

―――――――

 


(あの時の、答えなのかな……)


そうして、アランが再び私を見上げる。

 

(アラン……)

 

私はゆっくりと、アランに近づいていった。

するとふっと笑みを浮かべたアランが、手を伸ばす。


アラン「お前さ、俺を守るって言ったよな?」

 

「え?」


―――――――

 

「私にも、アランを守らせてほしい。私にだって、守れるものはあるはずだから」

 

―――――――

 


「う、うん……」

 

髪を取る指先に鼓動を速めながらも、私は頷いた。

するとアランが私の髪に唇をつけ、目を伏せる。


アラン「お前がいれば、絶対に生きて帰ろうって気になる。……死にたくないってのは、弱いやつの言うことだと思ってたんだけどな」


「…………」


指先から私の髪がこぼれていくと、アランが言った。

 

アラン「美香、俺を守れよ」


アランの言葉に、私の鼓動が早鐘を打つ。

 

「……っ」

 

(アランが、そんな風に思ってくれるなんて……)

 


―――――――

 

アラン「お前がいれば、絶対に生きて帰ろうって気になる。……死にたくないってのは、弱いやつの言うことだと思ってたんだけどな」

 

―――――――


アラン「…………」


やがて何も言えずにいた私の頬を、アランが軽くつねった。


「……??」

 

驚いて見下ろすと、アランが軽く首を傾げて口を開く。


アラン「何か言えよ」


「あ……」


(そうだ、私も返事をしないと……)

 

慌てて考え、私は一度息を吸い込んでからゆっくりと言った。


「うん……私はここで、アランが帰ってくるって信じて待ってるよ」


アラン「ああ……」


アランが呟き、ふっと目を細めて笑った。

 

(言葉で伝えられて、良かった……)

 

アラン「…………」


そうして少しの沈黙が流れた後、アランが私の顔を覗き込んだ。


アラン「……でも、それだけじゃ足りないかもな」

 

「え?」


私の腰元を引き寄せ、アランが私の身体を膝の上に乗せた。


「……っ」


驚いて肩に手を置き、私はアランを見下ろし声をあげる。

「た、足りないって……」


アラン「…………」

 

かあっと赤く染まった顔を向けると、アランが意地悪な笑みを浮かべた。

 

「……あっ」


そうして手に力を込め、アランが私を見上げて尋ねる。


アラン「お前はこの先、どうすればいいと思う?」

 

「え……!?」


アランに上目遣いで尋ねられ、私の頬がどんどん熱くなる。

腰元を引き寄せる指先に力が込められ、私はアランの肩に置いた手にぐっと力をこめて身体を離した。


「わ、わかんないよ」


アラン「…………」


するとアランが私の頭を下に引き寄せ、そのままキスをする。

 

「……んっ…」

 

私の顔を寄せたまま、アランが囁いた。


アラン「……今度はお前の番だったよな」


「……え?」


私は震える睫毛を上げ、アランを見る。

するとアランが身体を反転させ、私の身体をベッドの上に押し倒した。

 

「……っ」

 

思わずつぶってしまった目を開けると、私を見下ろすアランが言う。


アラン「教えた分だけ、教え返す約束だろ?俺のことはもう、だいぶ教えたじゃねえか」

 

「あ……」

 


―――――――

 

「私、アランのことをもっと知りたい。私に、アランのことを教えて欲しいの……」

 

アラン「…………」

 

―――――――

 

(あの時のこと、だよね……)


「……えっと」

 

考えていると、アランが唇を重ねてくる。

その柔らかで強引な仕草に、私は思わず指先を震わせた。


「……ん…っ」


やがて吸いつくような唇が離れると、アランが私の唇に息をふきかけるように甘く囁く。

 

アラン「もっと教えて、お前のこと」


「……っ」

 

アランの探るようなキスが、どんどん甘く変わっていく。

指先は首筋をなぞり、やがて服にかかった。

 

「……ぁっ…」


アランの指先や熱に翻弄されるまま、私は目じりに涙を浮かべて思う。


(明日の朝には、アランは出発してしまうんだ……)

 

アランの爪が軽く素肌をかき、私は身体を震わせてアランの身体にしがみついた。


「…っ…アラン」


アラン「…………」


アランの片腕が、私をそっと抱きしめ返してくれる。

 

(ずっと、このままでいられたらいいのに……)

 

アランの肩に顔をうずめながら、私は深まっていく夜に、目を閉じていった…。