ikemenserieslのブログ

イケメンシリーズ ストーリーのネタバレです

王宮【アラン】3話前半

プリンセスセレモニーの翌朝…―。

 

私はいつものように、ジルから告げられるスケジュールを聞いていた。


「え……?」

 

パンをちぎる手を止め、思わずジルの顔をまじまじと見上げてしまう。

 

(そ、そのスケジュールって…)

 

ジルは構わずに、男性と会う予定ばかりを読み上げていく。


やがてジルが視線を上げ、笑みを浮かべた。

 

ジル「優れた国王を選ぶために、貴女にはより多くの男性と知り合って頂きます」

 

(それって、たくさんの男性とデートしろってことだよね)

 

驚く私の脳裏に、昨夜誓った言葉がよみがえる。

 

(プリンセスとしての役目を果たすって、決めたんだから…)

 

「…わかりました」

 

私はジルを見上げ、小さく頷いた。

 

 

そして馬車に乗り、私は初めてプリンセスとして城の外に出かけていた。

ちらりと外を見ると、馬に乗ったアランの姿が見える。

 

(知らない男性とのデートだなんて、不安だったけど…)

 

騎士として付き添ってくれるアランの姿に、私はほっとしていた。

 

(なんだか、アランがいるだけで心強いな)

 

やがて馬車は止まり、ある有力貴族の屋敷の前に止まる。

扉が開かれると、アランが手を差し伸べてくれた。


アラン「…こけんなよ」

 

「うん」

 

その手を取ろうと、私が立ち上がった時…。


貴族「よくいらっしゃいました、プリンセス」


アランの後ろから、貴族の男性が顔を出した。

そうしてアランの前に立ち、手を差し出す。


「あ、ありがとうございます…」

 

アラン「…………」


ふと見ると、一歩下がり視線を逸らしたアランが眉を寄せた。


(アラン…?)

 

貴族の男性が歩く隣で、私は気づかれないようにアランを振り返る。

 

(アラン、何か言いたそうだけど…)

 

すると振り返った貴族の男性が、にっこりと笑みを浮かべて言った。


貴族「庭を散歩しませんか?ぜひ、二人きりで」

 

「あ……えっと」


(どうしよう……)

 

私は答えに困り、思わずアランを見上げてしまう。

すると少し考えるようにしてから、アランが口を開いた。


アラン「申し訳ありませんが、騎士としてプリンセスの側を離れる訳にはいかないので」

 

貴族「……そうか、残念だな」


アランの言葉にほっと胸をなでおろした私は、促されるままに貴族の男性の隣を歩いていった…。

 

 

..........


馬の側に立つアランが、庭で貴族の男と歩くアンの姿を見守っていた。

時折見せるアンの笑顔から、アランが思わず視線を逸らす。


アラン「何考えてんだ、俺は……」


そうして再び、誰にも気づかれないように眉を寄せた。


アラン「…………」

 

 

..........

 


部屋に戻った私は、ぐったりとソファに腰掛ける。

毎日続くデートのスケジュールに、私の身体は疲れきっていた。


(プリンセスの役目とはいえ、大変だな……)

 

アラン「…………」

 

部屋まで送り届けてくれたアランが、私を見下ろし息をつく。


アラン「明日も早いんだ。早く休めよ」

 

「う、うん…」


溜息をつきながら言うと、アランが不意に視線を逸らす。


(明日もたぶん、一日中デートの予定が入っているんだろうな…)

 

アラン「じゃあな」

 

やがてアランがドアを閉めると、途端に静寂が部屋を満たした。

私はゆっくりと視線を移し、窓の外を見やる。

 

(そうだ…)


不意に思いつき、私は立ち上がった。


(馬のお世話に行きたいな…最近、全然行けてなかったから)

 

こっそりと部屋を抜け出した私は、足音に気を付けながら廊下を駆けていた。

ふと、数日前の出来事を思い出す。

 

 

―――――――

 

アラン「何度言わせるんだ。連れもつけずに歩き回りやがって…」

 

―――――――

 

 

(またアランに怒られちゃうかな…)

 

そうして庭まで出ると、突然後ろから誰かに呼び止められた。


???「おや、君は…」

 

「…!」

 

暗闇の中に響く低い声に、私の背中がびくりと跳ねる。

恐る恐る振り返ると、そこには目を瞬かせて立つ男性の姿があった。


(あれ、この人…あの時中庭で見た)

 

王宮の庭で花を探しているときに見かけた、宮廷画家だった。

 

(やっぱり以前にも見かけたことがあるけど、どこだったっけ…)

 

「あ、あの…」


すると、口元に柔らかな笑みを浮かべ男性が近づいてきた。


???「やっぱり覚えていないかな。昔近所に住んで勉強を教えたりしていたんだけど…」


その言葉に、私ははっと顔を上げた。

 

「もしかして……」


私は顔を上げ、驚くまま口を開いた。

 

「…ロベールさん!?」


ロベール「そうだよ、美香ちゃん。久しぶりだね」

 

ロベールさんが頷き、ふわりと目を細める。


(懐かしい…)

 

ロベールさんは昔、絵画を学ぶかたわら、近所の子どもたちに勉強を教えてくれていた。

 

(随分前に、行方不明になったって聞いていたけど…)


ロベール「まさか美香ちゃんがプリンセスになるなんて…。こんなところで再会するなんて、思いもしなかったな」


今は宮廷画家としてお城にいるというロベールさんが、笑みを浮かべて言う。


「私もです…」

 

(なんだか、嬉しいな)


ふと、ロベールさんが何かに気づいたように口を開いた。

 

ロベール「プリンセスをこんなところに引きとめてちゃいけないな。美香ちゃん、早く部屋に戻ったほうがいいね」


「あ、はい」

 

(そうだった、早く厩舎に行かないと…)

 

ロベール「困ったことがあったら、何でも相談して」


私は小さく頭を下げ、ロベールさんの後姿をちらりと確認してから、足早に庭を後にした。

 


..........

 


アンと別れた後、ロベールは一人静かに振り返った。

部屋とは別の方向に向かっていく美香の姿を見つけ、笑みを浮かべる。

 


ロベール「変わってないな、美香ちゃん」

 

...........


ようやく厩舎に辿り着くと、そこには馬の世話をするアランの姿があった。

 

「アラン…?」


アラン「……!」

 

思わず名前を呼ぶと、アランがぎょっとした表情で振り返る。

けれどすぐに諦めたようなため息をつき、手を動かし始めた。

 

(良かった、怒られなかったみたい)

 

アランがブラシをかける馬に近づき、私はその鼻を丁寧に撫でる。

 

「久しぶりだね…」


そうして馬に触れていると、数日前まで厩舎に通って馬のお世話をしていたことを思い出す。

 

(……今は、毎日色んな男性と会ってばかり)

 

「こんな風に毎日誰かと会うなんて、何か意味があるのかな…」

 

(これから王様を選ぶまで、こんな日々が続くなんて…)

 

アラン「…………」


するとアランがぴたりと手を止め、私を見た。


アラン「おい」

 

(え…?)

 

振り返ると、アランの手が私へと伸びてきて…。

伸ばされたアランの指先が、私の眉間を軽くはじく。


「……っ」

 

アラン「泣き言いってんじゃねーよ」

 

「う、うん…」


アランの指先が触れた場所に手をあてながら、私は思い出していた。

 

(そうだよね、頑張るって決めたんだから)

 

小さく息を吸い込み、顔を上げる。

 

「アラン…?」


すると見上げたアランの眉間には、先ほどの私と同じようにしわが寄っていた。

 

「どうかしたの?」


アラン「いや…」

 

呟くとアランが顔を背け、再び馬の腹にブラシを当てた。

 

 

..........

 

そうして翌日…―。

 

(部屋に戻って、支度をしないと…)


食事を終えた私は、ユーリが先に待っているはずの部屋へと向かっていた。

急いで曲がり角を曲がった時…。

 

「きゃっ」


誰かとぶつかってしまった。


「すみません……!」


慌てて言うと、微かな笑い声が響いてきた。

 

レオ「疲れた顔してるね、プリンセス」

 

「レオ……」

 

驚いて顔を上げると、レオがふっと息をつくように笑う。


レオ「噂では聞いてるよ。最近、デート続きだって…。……まあ、大体ルイの当て馬だろうけどね」

 

「え……?」


(今の、良く聞こえなかったけど……)


するとごまかすような笑みを浮かべ、レオが軽く首を傾げた。

 

レオ「なんでもない。それより、気になる男はいた?」


(気になる……?)

 

レオの言葉に、私は何故だかアランの顔を思い出してしまう。

 

 

―――――――

 

アラン「いつまでも下向いてんじゃねーよ。…守ってやるって、言っただろ?」

 

―――――――

 

「えっと……」


恥ずかしさに顔が赤くなってしまい、私は思わずうつむいた。


(なんで、今アランのことを……)


レオ「…………」


やがてレオが口元に薄い笑みを浮かべ、ささやくように言う。

 

レオ「ねえ、プリンセス。これだけは言っておく。アランだけは、無理かもね」

 

「え?」


アランという名前に、私は弾かれたように顔を上げた。

レオはいつの間にか視線をそらし、窓の外を見ている。


レオ「アランは騎士を、やめたがらないから」


レオの言葉に戸惑い、私は小さな声で尋ねた。


「それって、どういう……」

 

すると、レオの視線が窓から私の背後へと移ったことに気づく。

 

レオ「…………」


(え、レオ?)


私も振り返り同じように視線を向けると、廊下の奥からアランが歩いてくる姿が見えた。

 

(アラン……)


レオ「…じゃあね、美香ちゃん。頑張って」

 

「あ……」


思わず引きとめようとすると、アランの声が響いてくる。


アラン「おい、何してんだ。時間だろ」

 

「うん……」


私は遠くなっていくレオの後ろ姿を、ちらりと見ながら頷いた。

 

(今のレオの話…どういうことなんだろう)

 

歩き出したアランの後を追いながらも、私は胸の中でずっと考えていた。

 

 

..........

 

 

その夜、アランはジルの部屋を訪れていた。

 

ジル「あなたが来るとは、珍しいですね」

 

するとドアを閉めたアランが、ジルの言葉にかぶせるように口を開く。


アラン「お前の計画のせいで、あいつがだいぶ疲れてる。たまには息抜きさせろよ」

 

ジル「…………」


夜の静寂の中で、机の上のランプの灯が揺れていた。

やがて沈黙を破るように、ジルが深いため息をつく。

 

ジル「いいでしょう。明日は休日にします」


アラン「……ああ」


そうしてアランが去った後、ジルが書類を机に置きながら呟いた。


ジル「まあアラン殿だけは、絶対に王になることはないでしょうからね」

 


..........

 

そして翌日…―。


私の部屋のドアを叩き、アランが迎えにやって来た。


「え、どうしたの?」


普段とは違うアランの格好に、私は思わず声をあげる。

 

(私服みたいだけど……)

 

すると私を見下ろし、アランが言った。


アラン「行くぞ」


迎えに来たアランの私服姿に驚き、私は目を瞬かせる。


「え、どこへ……?」

 

アラン「今日は休みだ。どこへでも」

 

アランが視線を逸らし、言った。

 

「えっ」

 

私は思わず大きな声を上げてしまう。

アランに話を聞くと、ジルが休日をくれたのだという。


(ジル、気を遣ってくれたのかな……)

 

アラン「…………」


視線をそらしていたアランが、ゆっくりと私を見た。

 

アラン「何かやりたいことはねえのかよ」

 

「えっと、そうだな」


(突然言われると、何も思い浮かばない……)

 

私が困っていると、見かねたアランが小さく息をついた。


アラン「じゃあ、約束守れ」


「え……?」


私が見上げると、アランが眉を寄せる。


アラン「馬術を教えてやった時に言ったろ?」


(あの時……?)

 

 

―――――――

 

アラン「仕方ねえから、今度俺にも何か教えろよ。お前、ここに来る前は何か教えてたんだろ?」

 

―――――――

 

 

アランの言葉を思い出し、私は顔を上げる。

するとアランが私の顔を窺うように首を傾げて言った。

 

アラン「俺に何か、教えろよ」

 

 

..........

 

普段着に着替えた私は、アランの部屋を訪れていた。

 

(どうしよう、少し緊張するな…)

 

ドアを閉めながら、アランがぽつりと言う。

 

アラン「似合ってるんじゃねえの?」

 

「え……?」


振り返ったアランは何も言わないまま、私の側を通り過ぎ、何事もなかったかのように部屋の奥へと進んでいく。


(今のは、褒めてくれたのかな……?)


思わず口元をほころばせていると、アランがベッドに腰掛けて私を見上げた。


アラン「で、何を教えてくれんだよ」

 

「うーん、そうだな…」

 

(子どもたちに教えていたことで、アランが知らなさそうなことは…)


そうしてしばらく考えた末、私はひらめいて顔を上げる。

 

「お話…とかはどうかな?」


アラン「……?」

 

 

..........

 


ベッドに腰掛けるアランの前で椅子に腰掛け、私は覚えている物語を語り始めた。

 

(懐かしい…こうしてよく、子どもたちに話をしたっけ)

 

そうしてしばらくの間、物語を続けていると、アランがぽつりと呟く。

 

アラン「……お前の声って、何か落ち着くな」

 

「え……」


アランの言葉に物語を中断すると、アランがぽすりと軽い音を立ててベッドに横たわった。


アラン「続けろよ」

 

「う、うん……」


アランに見上げられ、私は再び語り始める。

 

(なんだか、さっきよりも緊張するな…)

 

 


やがて物語も、終盤に差し掛かっていた。

 

「庶民に戻ったお姫様を王子様が見つけ出し言いました。『君だったのか。やっと見つけた』そうして二人は末長く幸せに暮らしました……」

 

物語を終え見ると、アランのまぶたはすっかり閉じてしまっていた。

 

(もう。真剣に話をしていたのに)

 

私は息をつき、静かに立ち上がる。

そうしてベッドの脇に屈むと、アランの寝顔を覗き込んだ。


(でも、寝顔可愛いかも……)


長い睫毛が、頬に影を落としている。

普段の少し意地悪そうな表情とは違う、あどけないその寝顔に、私は知らずに笑みを浮かべていた。

 

「……仕方ないな」


呟き、アランの背中の方にある布団に手をかける。

すると、その時…―。


「……!」

 

突然にアランに手首を取られ、私は驚いて息を呑んだ。

軽く込められた力に、鼓動が跳ねる。

 

(ど、どうしよう…)

 

アランの指先が私の手の甲にかかり、頬が熱くなってしまう。

そのまま動けずにいると、アランの手からだんだんと力が抜けていき…。

 

 

..........

 

 

慌てて出て行ったアンがドアを閉めると、部屋の中ではアランがゆっくりとその身体を起こした。

ベッドがぎしりと、低い音を響かせる。

 

そうしてベッドに腰掛けると、アランは微かに眉を寄せ、自分の右手を見下ろした…。

 

アラン「…………」