戦国【佐助】3話前半
佐助くんが城に出入りするようになって数日後……
佐助「庭師の仕事が今日は休みだから、例の約束を実行に移そう。第一回『突撃☆隣の戦国武将』、スタートだ」
「講座のタイトルが微妙に変わってるけど、がんばります!」
–––さかのぼること数日前、眼鏡ケースを渡したあと、私は戦国講座の事前オリエンテーションを受けた。
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佐助「それじゃ、改めて今日の本題に入る。今後の打ち合わせをしよう」
「え、打ち合わせ?」
佐助「近日、戦国講座を開講する。ただし、座学のレクチャーじゃなくて、実践編だけど」
(実践編? なんだか本格的になってきた…)
心配になって、おずおずと片手を上げる。
「あの…私、あまり歴史に詳しくないけど、勉強についていけるかな」
佐助「問題ない。後世に伝わる戦国武将たちの逸話を、実証しながら歴史を学ぶのが実践編のカリキュラムだ。歴史を学ぶ面白みは、詰め込み教育じゃわからない。過去に生きた人たちの息吹を感じてこそ体感できる–––これが当講座の教育方針だ」
(なるほど……そういう考え方もあるんだ)
佐助「美香さんは、俺が前に『武将だって人間だ』って言ったこと覚えてる?」
「もちろんだよ。あの言葉ですごく救われたから」
(この乱世の人たちも、現代人と同じ人間らしい一面があるんだって気づけた)
佐助「つまり、この実践編の根幹もそれと同じ。この時代の人たちは、俺たちとは価値観がまったく違う。わからないと諦めることは簡単だけど、理解しようと思って初めて見えることもある。戦国時代にタイムスリップしてきた俺たちは、絶好のチャンスが与えられている。実際に目で見て、耳で聞き、手で触れることで、より深くこの時代について学ぶことができるんだ。美香さんは戦国ライフを生き抜くヒントが得られるはずだ」
「深い……深いよ、佐助くん!」
淡々としながらも熱のこもったプレゼンが終了し、私は佐助くんへ拍手を送る。
「面白そう! ありがとう、やる気が出てきた」
佐助「それはよかった。俺もまだ知らない歴史を、美香さんと一緒に学ぶつもりだ」
ほんの少しだけれど佐助くんの頬が緩んで見える。
(あ、これは多分、喜んでる顔だ)
「学ぶって言いつつ、佐助くん、楽しんでない……?」
佐助「ああ、楽しい。学ぶことを楽しんじゃいけないなんて、誰が決めたの?」
(言われてみれば……)
目からうろこが落ちたように感じて、真面目に頷く。
「そうだね。勉強=大変って、どこかで思い込んじゃってたかも」
佐助「その思い込みは今日までにして、戦国ライフを楽しみつくそう」
「うん。よろしくお願いします!」
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お互い仕事を終えたあとの時間を、戦国講座に使うことになり、今日はその第一回目だ。
(前よりこの時代に馴染んできたけど、まだまだ佐助くんほどの境地には達していない。私も佐助くんみたいになれるように、いっぱい学ぼう!)
佐助くんも相変わらず無表情だけど、ワクワクしているのが伝わってくる。
「第一回は、どの武将に突撃するの?」
佐助「最初のターゲットは、あの人にしよう」
…………
秀吉「まあ、楽にしてくれ。今、茶でも淹れる」
佐助「お構いなく」
秀吉「美香と美香の友達だ、構わずにいられるか」
佐助くんと私が最初にやってきたのは、秀吉さんの御殿だった。
秀吉「佐助が城を訪れるようになってから、美香の顔色がどんどんよくなってる。ありがとな、佐助」
佐助「とんでもないです。秀吉さん直々に点ててくれたお茶、とても香り高いです……。抹茶は苦手だけど、これならグビグビいけます。しかも、いい茶碗ですね……」
佐助くんは茶碗のお茶をどんどん飲み干していく。
秀吉「おいおい、苦手なら無理するな。今、白湯を淹れて……」
佐助「いえ、むしろおかわりをいただきたいです」
(佐助くん、感動して暴走気味だな)
「佐助くん」
佐助「…………!」
こっそり肘でつつくと、佐助くんはすっと居住まいをただした。
秀吉「で、なんなんだ? 折り入って俺に話があるって言ってたけど」
佐助「実は秀吉さんに、ある噂の真相を確かめたくてお邪魔しました」
秀吉「噂の真相……?」
佐助「以前、信長様の草履を懐で温めていたと聞いたことがあるのですが本当ですか」
秀吉「……っ!」
(この逸話は私にも覚えがある。確か雪が降っていた日に、信長様が寒い思いをしないようにって……有名だけど本当なのかな)
興味を惹かれて、佐助くんと一緒に見つめると–––
秀吉「お前たち……どこでそれを……っ」
秀吉さんは首の後ろを撫でながら、気恥ずかしそうに眉根を寄せた。
(なんだか照れてる……?)
佐助「その反応からすると、事実なんですね」
秀吉「まあ、なんだ、若気の至りってやつだな……。信長様に心酔するあまり、加減を見失ってたというか……」
「本当に草履を温めてたんだ!」
驚きの声が口をついた私に、苦笑いを返される。
秀吉「当時は、あのお方を害するものは足元の冷えだろうと許せないって心境だったんだ」
佐助「冷えすら、ですか」
秀吉「言っとくけど、今はやってないからな! ……時々しか」
佐助「時々はやってるんですね」
秀吉「いいか、お前ら誰にも言うなよ?」
佐助「心得ました」
(あの逸話、秀吉さん的には黒歴史だったみたい……。五百年後にまで語り継がれるよって言ったら、どんな顔するかな)
おかしくなる半面、秀吉さんの信長様への忠義の厚さを思い知った。
「秀吉さんは、心の底から信長様を尊敬してるんだね」
秀吉「当たり前だろ。あのお方のおかげで、俺は–––生きる意味ができた。信長様に出会わなければ……どうなっていたかわからない。俺だけじゃなく、大勢の人間がそうだ」
(そこまで誰かを信頼して想えるなんて……)
教科書や資料からでは分からない、歴史上の人物たちの絆の深さが、秀吉さんの強い眼差しと声音から、じかに伝わってくるようだった。
(こうして会って聞いてみて、初めて分かることってあるんだな。もっとみんなのこと、知りたくなってきた)
知らなかったことを学ぶ楽しさが心の中で芽吹いていく。–––佐助くんが種をまいてくれたから。
…………
別の日には、佐助くんと共に賑わう城下町へと繰り出した。
蘭丸「ねえねえ佐助殿、『みすたー安土こんてすと』って何するの?」
佐助「異国で流行っている行事だ。安土一の美男子が誰かをこれから投票で決めて発表する」
蘭丸「へえ、面白いことが流行ってるんだね。俺、はりきっちゃおっかな♪」
(まさかこの時代で、美男子コンテストを開くことになるとは思わなかった)
佐助くん主催のコンテストには、多くの男性が参加することになり、蘭丸くんにも私が頼んで、出場してもらっていた。
佐助「では、投票を開始します」
町娘たち「蘭丸さま、頑張ってーっ!」
蘭丸「応援ありがとー! みんなのために、蘭丸、頑張っちゃうよ!」
(見物人の数、どんどん増えてる! すっかりお祭り騒ぎだけど……)
こっそり佐助くんへ囁く。
「佐助くん、忍者なのにこんなに目立って大丈夫なの……?」
佐助「俺はあくまでオーガナイザー、出場はしないから大丈夫。それに……忍の世界には、『潜んでいる町に溶け込む者ほどいい忍びだ』という教えもある」
(さすがに溶け込みすぎじゃない……?)
投票箱に町の女性たちが殺到し、列整理に追われ、おおわらわとなり……やがて、歴史的瞬間がやってきた。
幸「佐助ー、票数、数え終わったぞ」
「幸も手伝ってくれてたんだね」
幸「おー。ったく、変なこと手伝わせんなよな、佐助」
佐助「ありがとう幸。次はこのバチを君に託す。ではみなさん、結果を発表します。安土一の美男子は……」
ドラムロールの代わりに、幸の奏でる和太鼓の音が響き渡り、辺りがしんと静まった。
佐助「ダントツで森蘭丸くん!」
町娘たち「きゃーっ!」
ファンらしき町娘たちからんの大歓声を受けて、蘭丸くんがにこやかに手を振る。
蘭丸「みんなー、俺に投票してくれて、ありがとー! 愛してるよっ!」
(織田信長の小姓、森蘭丸は、絶世の美男子だった。この逸話も、当時の人の統計的に確証が取れた訳だけど……)
すっかりお祭り騒ぎになったコンテストの様子を眺める。
(佐助くん、実証するためにここまでやっちゃうなんて、とんでもない行動力だな)
…………
また別の日には、私たちは政宗の御殿を訪れた。
佐助「はい、よろしくお願いします」
(佐助くんの説明では、仙台名物の『ずんだ餅』は諸説あるけど、伊達政宗がレシピを発明したって逸話が残ってるって……本当なのかな?)
政宗「それ、どんな食い物だ?」
「ええっとね……」
甘く炊いた枝豆をすりつぶし、餅と合わせたものだと簡単に説明する。
政宗「へえ、うまそうだ。今度試してみるか」
(……ん?)
佐助「もしかして……」
息を呑み、佐助くんと顔を見合わせる。
(私たちが発端で、ずんだ餅が発明された!? どうしよう、ただでさえ信長様を助けたことで歴史が変わっちゃってるのに、まずかったかな……っ)
政宗「ちょっと待ってろ。さっそく材料をそろえるよう、国に文を書く」
「政宗、文は待っ……」
佐助「美香さん、止めないで。これで政宗さんの有名な一面をさらに見られるはずだ」
「有名な一面?」
小声で耳打ちされて口をつぐむと、政宗が文机に向かい、筆を走らせ始めた。
その字は見惚れるほど流麗で力強い。
佐助「政宗さんは筆マメでも有名なんだ」
「そうなんだ……、確かにすごく書くのが速いね。しかも達筆!」
政宗「よし、これでいいだろ」
(わあ、材料を詳しく書き込んでるだけじゃなく、近況報告まで……)
家臣宛の文の追伸には『お前らにも美味い餅を食わせてやるから、楽しみにしてろ』とあった。
「政宗って、人にごはんを食べさせるのが好きだよね」
政宗「まあな。食うことで、人の命は生かされてる。その命をかけて、武士は戦場で刀を振るう。食うことと戦うこと、俺にとってはどっちも大事だ」
文をピっと美しく折りたたむ政宗の私へ向ける笑みは温かい。
(前に刀を抜いた時の政宗は、別次元の人に思えた……。だけど、あの表情は、レシピを書き留める今の笑顔ともつながってる)
今まで理解できなかった彼の行動の理由を見つけた気がした。
(乱世で生きる武将たちは、戦うことと生きることが、複雑に絡み合ってるんだな……)
政宗「二人とも、完成したら味見しろ」
「うん。ありがとう!」
佐助「楽しみにしてます」
声をかけてくれる政宗に、私たちは笑顔で了承した。
…………
また別の日には……
三成「佐助殿、美香様、差し入れありがとうございます」
佐助くんと私は、三成くんの元に果物をたくさん持ってきていた。
「三成くん、果物は好きだった?」
三成「はい。甘いものを食べると頭が冴えますから」
(味の問題じゃないんだ……)
返事は少し天然だけれど、安定の天使スマイルに癒やされる。
佐助「三成さん、俺のオススメはこれなんですが」
三成「これは……」
佐助くんが三成くんの前に差し出したのは色艶の良い柿だ。
(あれ……?)
三成くんは柿を手にとることなく、困ったように笑う。
三成「申し訳ありません、佐助殿。こちらだけは遠慮しておきます」
…………
三成くんと別れ御殿を出たあと…
「今日の検証は、『三成くんは柿が嫌いかどうか』だったの?」
佐助「いや、そうじゃない。俺たちの知ってる三成さんは食べ物には無頓着みたいだから、気になってたんだけど……『石田三成』にはこんな逸話がある。彼は亡くなる間際、喉がカラカラに乾いてたのに、差し出された柿を食べることを拒否した」
「え……」
佐助「この時代には、柿は身体に毒だと考える人がいたんだ。『身体に差し障りになるものは口にしない。いついかなる時でも出陣できるように。たとえそれが臨終の際であっても』–––その覚悟を、三成さんは持ってるんだ。三成さんは、俺が逸話で知っていた石田三成と同じだった」
(いつも優しく笑ってる三成くんが、そんなことを……)
この数日、話を聞いたり検証をしたりして、武将たちにも自分と通じるところがあると学んできた。
(でも、今度は逆だ。武将たちにはそれぞれ、私には真似できないほどの壮絶な覚悟がある)
乱世に来たばかりの頃は、漠然と恐怖を抱いていたけれど、武将たちのリアルを知るにつれ、彼らの強烈な魅力に気づかされずにはいられない。
「佐助くんが戦国時代にハマる理由が、ちょっとわかってきたかも……」
佐助「布教が成功しつつあって嬉しい」
(これ布教だったんだ……!)
「こんな布教ならもっとしてほしいよ」
佐助「そうか、向上心があって何よりだ。もっと君が興味を惹かれるように工夫する。お楽しみに。あ……」
そのとき、何かに気づいたように、佐助くんが路地の方へ視線を投げた。
佐助「美香さん、あと少し、俺につきあってくれる?」
「もちろんいいけど……」
佐助「ありがとう。ついでにこれを持っていてほしい」
(え、これって硯!?)
「佐助くん、これ何に使……」
佐助「美香さん、早くこっちに」
佐助くんに連れられ、慌ただしく駆け寄った先にいたのは–––
家康「は……? この真っ白な巻物に署名をしろ……?」
城下を見回っていた家康だった。
佐助「はい。どうかお願いします」
佐助くんは礼儀正しく無地の巻物と筆を家康へと差し出している。
私も硯で墨をすりながら、横で待機する。
(佐助くん、今度はどんな検証をするんだろう?)
佐助「欲を言えば『猿飛佐助さんへ』と横に小さく書いてもらえると、なお嬉しいです」
家康「何が目的? 気味が悪いな」
佐助「後ろ暗いことはありません。ただ、床の間に飾りたいんです」
家康「余計不気味なんだけど……。他を当たりなよ」
ふいっと顔を逸らした家康は、背を向け足早に歩き始める。
佐助「待ってください、家康さん! サイン……じゃなくて署名が無理なら、手形でもいいので……!」
家康「っ、追いかけてくるなよ!」
「あ、あの、佐助くん?」
佐助「美香さんも急いで」
(このまま追いかけるの!?)
言われるがまま、佐助くんと家康を追って城下町を走る。
家康「何なの、一体……! ついてくるな!」
佐助「そこを何とか……!」
「佐助くん、これは何の検証なのっ?」
佐助「徳川家康のサインをゲットするのが、戦国時代にきてからの俺の悲願なんだ」
「もしかして佐助くん……」
きりっと佐助くんの表情が引き締まった。
佐助「この時代の武将は箱推しだけど、中でも徳川家康は激推しだ」
(検証じゃなくて、ファンの追っかけだ、これ……!)
家康の背中を追いかけるうちに、おかしさがこみあげてくる。
「ふふ……あははっ」
(どうしよう、止まらない!)
私は笑い声をこぼしながら、佐助くんのあとに続いた。
…………
追いかけっこの末、ついに家康が根負けし、佐助くんは無事にサインをゲットすることができた。
(家康は不機嫌そうだったけど、しっかり『猿飛佐助さんへ』って書いてくれた。根はいい人なんだ)
「ふふふ、よかったね、佐助くん!」
佐助「付き合わせてごめん、美香さん」
「ううん、楽しかった! 佐助くんと一緒にいると、悩んでる暇がなくなるよ」
佐助「そう? なら結果オーライだ」
私を見つめ、佐助くんがかすかに笑みを浮かべた。
(あれ……? まさか……)
「ねえ、佐助くんが戦国講座実践編を開いてくれたのは、戦国時代のことを学ぶためだけじゃなくて、私が部屋にこもって悩まず済むように、あちこち連れ出すため……?」
佐助「まあ、それもある」
サラッと気負いなく返されて、言葉に詰まる。
(佐助くん……)
いつも佐助くんは突拍子もないやり方だけれど、どの行動もとても優しい。
優しすぎて、なんだか胸が苦しいほどだった。
佐助「それより美香さん。今日の戦国講座はまだ終わってない。行こう、とっておきのレクチャーが始まる」
「え……っ?」
…………
その夜、修復が完了したお祝いに、安土城の庭園で宴が開かれた。
暗闇の中、かがり火が焚かれ、扇を手にして舞いうたう信長様の姿が浮かび上がる。
信長「人間五十年、下天のうちをくらぶれば、夢まぼろしのごとくなり……」
(わぁ……っ)
佐助くんと私はこっそりと、庭園の端で信長様に見入っていた。
着物の袖をひるがえす信長様の迫力のあるたたずまいに、息を呑むしかない。
佐助「織田信長は有名な桶狭間合戦の出陣直前、この『敦盛』という曲を舞ったと言われてるんだ。兵の士気はこれ以上ないほど高まり戦は大勝利。敵である今川家は、それを機に滅亡の一途をたどった。」
「うっすら聞いたことがある程度の逸話だったけど……もう一生忘れないと思う」
(私たち、今、ものすごいものを見てるんだ……)
佐助「信長様が特別に舞いを披露することを庭師の頭に聞いて、美香さんに見せたいと思ってたんだ」
「ありがとう……。舞いって、こんなに格好いいんだね……!」
佐助「信長様の舞いは、ひときわだと思う。この目で敦盛LIVEを見られるとは感無量だ」
かがり火が照り映える佐助くんの横顔をそっと盗み見る。
佐助「…………」
(佐助くん、嬉しそう。表情に出にくい人だけど、少しはわかるようになってきた。すごいな……。現代から五百年も隔たった乱世にいるっていうのに)
佐助くんは肩の力を抜いて、ひらすた今の光景を目に焼き付けているようだった。
(せっかく連れて来てもらったから、よし、私も……!)
耳を澄まし、信長様のよく通る鋼のような声に聞き入る。
戦国時代に来なければ見られなかった光景を、佐助くんと静かに胸に刻む。
気づけば、乱世へやってきて半月が経とうとしていた。
やがて信長様の舞いが終わったあと–––
(そうだ……)
「庭園の修復が終わったってことは、佐助くんの庭師見習いの仕事も、もうおしまいだね……」
ここ数日、佐助くんと過ごした時間が楽しすぎて、つい声に寂しさがにじんでしまう。
佐助「安心して。秀吉さんから『たまには顔を出してくれ』って言われてるから、城門は顔パスだ」
「本当? よかった……」
(そういえば前に幸が言ってたっけ。佐助くんは用意周到だって。さすがだな。それに比べて私は……)
佐助「美香さん、どうかした?」
「ううん、なんでもない」
佐助くんに頼りっぱなしになってる自分が、ふがいなく思えて目を伏せた。
(たとえ城門が顔パスでも、今までみたいに毎日会えなくなるし、佐助くんに迷惑をかけないよう、これからはちゃんと自立しよう……!)
気持ちを言葉にすることなく、私は密かにそう心に決めた。
…………
庭の隅にいる美香と佐助を、口元に笑みを含ませ注視している男がいた。
光秀「猿飛佐助、か……。美香も、妙な友人を持っている。少し、揺さぶりをかけてみるか」