戦国【佐助】2話後半
佐助「俺が四年の間に培ってきた乱世のライフハックを、君に伝えたいと思ってる。君さえよければ今度『戦国講座』をしよう。ハッピーな戦国ライフを送れるように」
(すごい……佐助くんて、本当に頼りになるな)
「『戦国講座』の受講を申し込みます! よろしくお願いします!」
佐助「お任せあれ。それからあとは……君の不安を取り除けるよう、狼煙以外の対策を検討してみる」
「狼煙以外の対策……?」
無表情な佐助くんの口元に、かすかだけど自信に満ちた笑みが浮かんだ。
佐助「楽しみにしておいて」
…………
佐助くんと幸とお茶をした、その日の夜。
蘭丸「美香様、来ちゃった」
「どうぞ、蘭丸くん」
蘭丸「おっ邪魔っしまーす。お城のお姉さんたちにあんこ餅もらったから、一緒に食べよ?」
(ふふ、すっかり懐かれちゃったな)
宴の夜以降、蘭丸くんはこうしてちょくちょく部屋に遊びに来てくれるようになった。
(安土城での暮らし方や城内の人間関係、町の情報まで色々と教えてくれてすごく助かる。何より蘭丸くんがいると、パっと花が咲いたように明るくなった気がするな。こんなに慕ってくれる理由が、イマイチわからないけど……戦国時代で友だちが増えて嬉しい。佐助くんの言う通り、心を開いてよかった。今日は幸とも仲良くなれたし……)
蘭丸「なーんかいいことあったの、美香様?」
「えっ、どうして?」
蘭丸「だってずっとニコニコしてるよ?」
(そ、そうかな……?)
あんこ餅を頬張りながら、蘭丸くんの視線が私へ注がれる。
蘭丸「ねえ、美香様にとってのいいことが何なのか、俺知りたいなー」
「実は町で新しい友だちができたんだ。ちょっと口が悪いんだけど」
蘭丸「わあ、よかったね! でも、俺とも仲良くしてくれないとやだよ?」
「ふふ、こちらこそ、私と仲良くしてくれて嬉しいと思ってるよ、蘭丸くん」
蘭丸「ほんと?」
「うん! 蘭丸くんがいると、花が咲いたみたいに明るくなるなって思ってたところだよ」
蘭丸「明るく……。……ふふ、美香様って、ほーんと、いい子だよね」
(蘭丸くん……?)
いつもの天真爛漫な笑顔とは違う、どこか寂しげな大人びた微笑に、ふと胸をつかれた。
(なんだか……初めて会った日のことを思い出してしまう。)
頭を下げながら震えていた背中、命がけで信長様をかばった時の、切なく悲痛な叫び声–––
(魅力的でキラキラした子なのに、どこか危うげで、放っておけない気にさせられるな……)
蘭丸「うん、このあんこ餅、美味しい! 美香様も、いーっぱい食べてよね」
「うん、ありがとう……」
(明るい蘭丸くんにも、何か大変な事情があるのかもしれない。私が、現代から来た人間だって、武将のみんなに明かせないのと同じで)
蘭丸くんを自分に重ねながらも、城への帰り道に感じた心細さは、今はすっかり消えていた。
(きっと、これのおかげだ)
懐に忍ばせた狼煙の袋を、着物の上からそっと押さえる。
(これさえあれば、佐助くんと繋がっていられる……。深い緑の匂いがして落ち着くな)
「そうだ。ねえ、蘭丸くん。狼煙て知ってる?」
蘭丸「えっ? 急にどうしたの?」
「ええっと、人に、そういう特殊な連絡手段があるって話を聞いて、何となく気になって。火をつけたら細い煙が真っ直ぐに立つらしいけど、狼煙の材料って何で出来てるんだろう?」
蘭丸「–––狼煙は、狼の煙。はっきり言っちゃうと、狼のフンだよ」
「ええっ!?」
驚きのあまり、あんこ餅が手から落ちそうになった。
蘭丸「って言っても、あんまり手に入らないモノだから、実際の狼煙は松とか杉とかヨモギとか、煙のよく出る木片を使うことが多いらしいけどねー」
「そ、そっか、よかった……っ」
(佐助くんも研究を重ねて改良したものだって言ってたし……蘭丸くんの説を信じよう!)
蘭丸「–––ねえ美香様、狼煙の話なんて、誰としたの?」
「友達と世間話してる時に聞いたんだ。謎が解けてスッキリした!」
蘭丸「ふうん、そうなんだ」
「蘭丸くんって物知りだね」
蘭丸「……うん、そう。俺、物知りなの! いっけない! 俺、そろそろ仕事に戻らなきゃ!」
「そっか、無理しないでね」
蘭丸「うんっ! またね、美香様ー!」
(もう遅い時間なのに、お仕事大変そうだな……)
少しだけ早足で部屋を出ていく蘭丸くんを、私は手を振って見送った。
…………
美香の部屋を出た直後、蘭丸の顔から、明るい笑顔が一瞬で散った。
蘭丸「急に狼煙の話なんて振るから驚いたけど……探りを入れてきたって感じじゃなかったな。ホッとした。美香様に限って、そんなことはありえないよね。……忍びじゃあるまいし」
悲しげに眉根を寄せながら、蘭丸は音もなく、濃くなった夜闇に姿を溶かした。
彼が城を抜け出したことに、気づく者はいなかった。
…………
–––蘭丸は安土の城下町から離れた、奥深い森の中を進んでいた。
蘭丸「遅くなりました、顕如様」
開けた場所で呼びかけると、錫杖の音ともに袈裟をまとう男が現れる。
顕如「……待っていたぞ、蘭丸。首尾よく信長の元へ戻れたようだな」
欄丸「……はい。もう一度、あの人を討つ機会をじっくりとうかがいます」
向けられる薄い笑みに、欄丸がためらいがちに頷くと……
???「『じっくり待つ』なんてかったるいやり方はやめろうぜ?」
欄丸「誰……っ?」
???「いい話を持ってきた。顕如、欄丸」
顕如「……!」
欄丸「顕如様、ここは俺が!」
錫杖を構える顕如を背にかばい、蘭丸は腰を低くし、柄に手をかける。
警戒するふたりの前に、浅黒い肌の男が不敵な笑みを浮かべて姿を現した。
蘭丸「何者だ……!?」
元就「俺か? 死人だ」
顕如「お前……元就か!」
顕如が目を見開き、蘭丸も同時に息を呑む。
蘭丸「織田の水軍と戦って負けた毛利家の武将……!?」
顕如「まさか生きていたとはな……」
元就「死んだことにして海に出て、しばらく異国をフラフラしてたんだ。思うところあってな」
顕如「……死人がなぜ私の前に姿を現した」
元就「……なあに、かつて共に信長と戦った者同士、もう一度手を組んで、魔王と再戦といかねえかと思ってよ」
顕如・蘭丸「…………!」
軽い口調とは裏腹に、元就の瞳は危険に満ちてきらりと光っている。
蘭丸「……顕如様、行きましょう。こんな怪しい男の話に耳を傾けちゃダメです」
元就「待て、待て、待て……」
その場を離れようとした蘭丸の行く手を、元就がはばんだ。
元就「蘭丸、お前、誰のおかげで織田軍に舞い戻れたと思ってんだ?」
蘭丸「え……?」
元就「城で信長を襲った牢人どもは、俺が安土に潜り込めるように手配してやった奴らだ」
蘭丸「なっ……、何のためにそんなこと……」
睨み見据える蘭丸の視線を受け、元就は悪びれずに笑みを浮かべる。
元就「本能寺で敵襲を受けて逃げたことになってるお前が、信長の小姓に戻れるとしたら、よっぽどの忠義を示した場合だけ。違うか?」
顕如「蘭丸に間諜を続けさせるきっかけを、お前が裏でお膳立てしていた、と?」
蘭丸「ふざけないで! 俺は本気であの時、死ぬ覚悟で……っ」
はっとしたように唇を噛んだ蘭丸は、苦しげに顔を歪めた。
顕如「蘭丸?」
蘭丸「……っ、なんでもありません、顕如様」
元就「お前らが本能寺で信長を討とうとして失敗したのを、偶然見物しててな。一度の失敗で、お前らの悲願が絶たれねえようにと思って……ま、親切心ってやつだ」
蘭丸「ぬけぬけと……! 顕如様、恩を着せて強引に共闘を持ちかけるなんて、裏があるに決まってます」
顕如「……いや、待て蘭丸。元就、策はあるのだろうな?」
元就「もちろん。お前らの追い風になる、取って置きの情報もな」
蘭丸「顕如様……!」
暗い色を瞳に宿し、顕如が重々しく口を開いた。
顕如「–––私は御仏に背いた身。こうなれば、堕ちるところまで堕ちるのみだ」
元就「そう来なくちゃよ。神輿の担ぎ手が多けりゃ多いほど、祭りは派手になる。くくっ……!」
蘭丸「…………っ」
吹き抜ける風が黒く染まった木々を揺らす中、夜闇に元就の不吉な笑い声が響くのを、蘭丸は歯噛みして聞いていた。
…………
数日後–––
何度も試作を繰り返し、佐助くんへ贈る眼鏡ケースがようやく完成した。
(これだけ頑丈に作れば、どんな忍者修行でも壊れないはず……! さっそく渡しに行こう。午後は仕事が入ってないし、狼煙を上げて佐助くんと連絡を取ろうかな)
外へ向かう途中、人のざわめきが聞こえてきて、ふと足を止める。
(庭園に人がたくさん……)
どうやら、先日の牢人たちの急襲で踏み荒らされた庭園の整備をしているらしい。
庭師の頭が、見習いの若い者たちに、次々と木の植え替えや庭石を運ぶ指示を出している。
(……改めて見ると、ひどい有様だ)
無残に斬りつけられた植木を見ているうちに、あの日の恐怖が蘇ってきた。
(……っ、大丈夫! 私には、ちょっとすごい忍者がついてるんだから!)
懐に収めた狼煙の材料を、着物の上からそっと押さえた時–––
「あれ!?」
ここにいるはずのない見知った顔を庭師たちの中に見つけてしまった。
(なんで……? ちょっとすごい忍者が、植木を運んでる!?)
固まっているうちに、その人物が、すました顔でそばへとやってくる。
佐助「やあやあ美香さん、偶然だな」
「そうだね、安土城のお庭でバッタリ会うなんて本当に偶然……なわけないよね!?」
佐助「お手本のようなノリツッコミ、痛み入る」
「いやいや、つっこんだんじゃなくて、本気で驚いただけだよ!」
佐助「無自覚だとすれば素晴らしい才能だ。君はナチュラルボーンツッコミなんだな」
(褒められても嬉しくない……!)
「佐助くんは、どうしてここにいるの?」
佐助「それは–––」
庭師の頭「お前たち、半刻ほど休憩だ。信長様の大事なお庭だ、しっかり休んで気合をいれろ!」
庭師見習いたち「はい!」
佐助「……ちょうどよかった。あっちで座って話そう」
「う、うん」
縁側に佐助くんと並んで腰かけ、ふうっと息をつく。
「やっと動悸がおさまってきた。まさか佐助くんが、城内にいるとは思わなかったよ」
佐助「驚かせてすまない。実はこの度、庭師の見習いになったんだ」
「忍者からジョブチェンジしたの?」
佐助「いや、庭師見習いは期間限定の副業だ。急襲事件で荒れた庭を立て直すために、城付きの庭師が町で人手をかき集めてたんだ。忍びの仕事で城内に潜入することはあるけど、それだと人目があるから君のそばにはいられない。でも、庭師見習いなら、こうして堂々と君に会いに来ることができる」
「私のために……?」
(前に『狼煙以外の対策を考えてみる』って言ってくれたけど……)
「どうして、そこまで……?」
佐助「約束したから。君に戦国講座をするって」
事もなげに言ってのける佐助くんに、胸が詰まる。
(佐助くんの優しさは嬉しい。でもここまでしてもらっていいのかな……。私と友だちでいることで、佐助くんの負担になってるんじゃ……)
佐助「美香さん、どうかした?」
「あの……本業の方は大丈夫なの?」
佐助「ああ。むしろ、はかどる」
「はかどる……?」
(もしかして佐助くんは忍びの仕事としても、安土城に用があるってこと?)
あっさりと返された言葉に、疑問がわいた時……
???「–––美香。誰だ、そいつは」
(っ……!)
ハッとして振り向くと、政宗が冷ややかな顔で佐助くんを見据えている。
(政宗のこの瞳……知ってる)
それは襲撃した牢人たちと相対した時と同じ、容赦のない武将の目だった。
佐助「あなたは……」
「あ、あの実は……」
政宗「遠い国の出だと言ってたお前が、どうして城内の庭師見習いと顔見知りなんだ? お前が間者じゃないことは、織田軍全員の認めるところだが……間者の手引きをしてたとなると話は別だ」
「っ、違うよ!」
政宗「だったら……」
政宗の手が刀の柄にかかり、つり上がった厳しい目が佐助くんを射すくめる。
佐助「…………」
佐助くんは鋭い眼光と向き合い、私は一歩も動けない。
政宗「何者か答えろ。さもなきゃ、ふたりともこの場で叩き斬る」
(この目、本気だ……!)
「勘違いだよ、政宗……っ」
必死に声を絞り出すと、佐助くんが静かに立ち上がった。
佐助「俺から説明します。俺は佐助といいます。こはるさんとは同じ故郷出身の古い友人です」
政宗「同じ故郷?」
(うん、嘘はついてない……!)
佐助「偶然、安土の町で彼女を見かけたと思ったら、怪しい男たちに追われていて……」
(……ん?)
言葉が途切れた佐助くんが、私へ両目を瞬いてウィンクする。
(っ、アイコンタクト! そっか、佐助くん、嘘がつけないから……自分で敵を倒したことまで明かしちゃったら、ますます怪しまれちゃうしな)
頭をフル回転させ、後を引き継ぐ。
「そ、そうなの! 佐助くんは、町を見回りしてた織田軍配下の武士の人たちを、呼びに行ってくれたの。それで私は、どうにか助かったんだ……」
政宗「どうして黙ってた」
「みんなを、心配させたくなかったし……怖いことを思い出すのが、嫌だったから」
政宗「…………」
最後に本音がぽつりとこぼれ落ちてしまい、目を伏せる。
(今でも向けられた刀の鈍い光を思い出すと、足が震える……)
佐助「彼女はとても怯えていて、心配になったんです。顔なじみがそばにいれば少しは気も紛れるかと思って、庭師見習いとしてここへやってきました」
政宗「–––なるほど、筋は通る」
やっと酷薄な眼差しを政宗が和らげた。
(信用してくれたのかな……?)
刀の柄から政宗の手が離れて胸をなでおろしていると–––
秀吉「おい、一体何の騒ぎだ?」
三成「政宗様と美香様、それに……この方は?」
家康「見慣れない顔だけど、ここで何してるの」
(秀吉さん、三成くん、それに家康まで……!)
政宗「庭師見習いの佐助。美香の古い友人だそうだ」
佐助「みなさん、初めまして」
秀吉「美香の友だち?」
政宗「ああ。同じ故郷の出身だと」
政宗はみんなに、佐助くんが私を心配し、ここへ来た経緯を伝えてくれた。
秀吉「そうだったか……。ありがとな、佐助。よければ、庭師の仕事がないときは、こいつと一緒にいてやってくれるか?」
佐助「……願ってもないことです。ありがとうございます」
(わあ、嬉しい……! 当分、連絡手段がなくても困らない。佐助くんに毎日会えるんだ)
三成「つもり話もあるでしょうし、おふたりでお茶でもなさってはどうですか?」
佐助「はい……」
家康「少しは喜んだらどうなの?」
佐助「はい……」
家康「顔をこわばらせて、変な奴」
佐助「はい……」
(あれ? 佐助くん、たしかに様子が変かも……。さっきから直立不動のままだし……)
心配になって、ひとまず佐助くんを部屋へと案内することにした。
…………
部屋へ通した後も、佐助くんの表情は乏しいまま変わらない。
「佐助くん、大丈夫?」
佐助「あんまり大丈夫じゃない……」
「そうだよね、政宗の目、本気だったし、怖かったよね……」
(私も斬られるかと思ったくらいだし)
佐助「ああ、独眼竜の殺気を浴びることができるなんて、感激で叫ぶところだった」
(……ん?)
よく見ると佐助くんの瞳が眼鏡越しに輝いている。
佐助「豊臣秀吉にねぎらわれて、石田三成にお茶をすすめられて、挙げ句の果てには、徳川家康に塩対応されて……乱世に来て、よかった……」
(まさか……っ)
「感激してたの!? さっきの佐助くん、お地蔵さんみたいだったのに!?」
佐助「誰だって、ナマの武将を肉眼で拝んだら地蔵になると思う」
「ならないよ!」
胸の前で手を合わせる佐助くんに、ぷっと吹き出してしまった。
(斬られるかもしれないって時にそんなこと考えてたんだ。佐助くんって大物だな)
安心して、笑いが止まらなくなった。
「ふふ! そういえば、佐助くんがこの部屋の入り口から入ってくるのって、初めてだね」
佐助「ああ。新鮮な感覚だ」
「入り口から入るのが普通なんだけどね」
(だけどこれで、狼煙を上げないで済むな。せっかく佐助くんにもらったものだから、お守りに取っておこう)
「実はね、ちょうど佐助くんに連絡を取ろうと思ってたところなの」
佐助「何か用事?」
「うん、これを渡したくて。いつもお世話になってるお礼です」
佐助「え……」
私が差し出した眼鏡ケースを受け取り、佐助くんは角度を変えながらしげしげと眺めた。
佐助「……これ、もしかして美香さんの手作り?」
「そうだよ。佐助くんと市で買った布地を使ったの」
佐助「そうか、あの時の。いい色合いだ。使ってみても構わない?」
「もちろん!」
佐助くんは眼鏡を外してケースに収めた。
佐助「サイズぴったりだ」
「落とさないよう、紐で身体にくくりつけることもできるようにしてみました」
佐助「なるほど、この紐か……長さもちょうどいい」
(喜んでもらえてるかな……?)
佐助「…………」
緊張しながら様子をうかがっても、特に佐助くんの表情は変わらない。
(さすが佐助くん、何を考えてるのかまったく読めない)
もっと顔をよく見ようとすると、なぜかあさっての方向を向かれてしまう。
佐助「素敵な品をありがとう、美香さん」
「っ、佐助くんが見てるの、私じゃなくて掛け軸だよ」
佐助「ああ、こっちか」
「そっちは行燈!」
(やっぱり眼鏡がないと、びっくりするほど見えないんだな)
歯がゆくなって、佐助くんの頬を挟んで私の方へと振り向かせる。
「私はここだよ」
佐助「…………」
(あ、つい……っ)
「あ、その、ごめん……! 佐助くんに喜んでもらえてるか、ちょっと、心配になって……」
佐助「心配しなくいていい。俺は今、とても心が高揚している。君の贈り物のお陰で」
佐助くんの薄い唇にほのかな笑みがにじむ。
(……知らなかった。佐助くんってこんな風に笑うんだ)
妙に胸が騒いで、まっすぐに見つめていられなくなる。
佐助くんは眼鏡をかけなおし、眼鏡ケースを丁寧に懐に仕舞った。
佐助「この眼鏡ケース、大切に使わせてもらう」
「うん……」
(佐助くん、すぐいつものクールな表情に戻っちゃった。……何ひとりで照れてるんだろう、私)
佐助「それじゃ、改めて今日の本題に入る。今後の打ち合わせをしよう」
「え、打ち合わせ?」
佐助くんは私が淹れたお茶を飲み終え、真顔で頷いた。
佐助「近日、戦国講座を開講する。ただし、座学のレクチャーじゃなくて、実践編だけど」
(実践編?)