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イケメンシリーズ ストーリーのネタバレです

戦国【佐助】幸福12話前半

佐助「……これはこれで、かなり困る」

 

「どうして……?」

 

身体を起こしかけて、いきなり視界が反転する。

 

(わっ?)

 

柔らかい草むらに押し倒されたと気づいた時には、覆いかぶさる佐助くんが私を真っすぐ見下ろしていた。

 

佐助「これでも必死に歯止めをかけてたつもりなんだけど、気づいてなかった?」

 

「え……」

 

間近で囁かれ、ドクッと心臓の音が耳に響く。

視線を合わせたまま、佐助くんの唇が近づき……

 

「ぁ、……んっ……」

 

唇を奪われ、入り込んだ舌がとろりと絡み合う。

 

(こんな、急に……)

 

熱が増していく肌が恥ずかしくて、佐助くんの胸を必死に押す。

 

なのに体はびくともしない。

 

佐助「こんな風に、ずっと触れたかった」

 

唇を離した佐助くんが私の耳たぶに舌先を這わせる。

 

「や、……あぁ……」

 

びくっと背筋が反った私を佐助くんが優しく抑え込んだ。

 

「佐助くん……っ、ここ、外だし……待っ……、ぁ……っ」

 

佐助「最後までは、しない。でも……君も俺と同じ焦れったさを、味わって」

 

(……? なに言って……) 

 

組み敷く私の着物の裾をたくし上げ、大きな手のひらが上へと這っていく。

 

「ふっ、ぁ……」

 

淡い触れ方でなぞられて、口の端から甘ったるい声が漏れる。

押し返そうとしていたはずなのに、気づけば佐助くんをきつく抱きしめていた。

 

佐助「……その反応は可愛すぎると思う」

 

「い、今の無し!」

 

佐助「無しは、無しだ」

 

口元を覆いかけた私の手を取り払って、指先にキスを落とす。

 

「っ……!」

 

一本、また一本と、指の形を確かめるかのように佐助くんの唇が触れた。

 

(声、我慢できなくなる……)

 

手が自由になったかと思うと、佐助くんの唇が、乱れて開いた胸元へと移動する。

 

大きく上下する先端に吐息がかかっただけで、身体の芯が鋭く痺れた。

 

「佐助、くん」

 

佐助「少し我慢して」

 

(我慢って……無理っ)

 

いやいやと首を横に振っても、佐助くんは許してくれない。

 

あちこちを触れられ、キスの雨が降り注ぎ、身体に熱がいきわたる。

 

「い、意地悪……」

 

佐助「ある統計結果では、九割の確率で男は好きな子には意地悪になると決まっている」

 

「そんな統計結果、知らない……」

 

佐助「無理もない、俺調べのデータだから。ちなみに、調査対象は俺ひとり」

 

(ふふ、なに、それ……)

 

とぼけた口調にほだされて、身体から力が抜けてしまった。

押さえ込んだ私の肌に意地悪な愛撫が続けられる。

 

柔らかな箇所へと滑らされた指に、足の指先がきつく縮こまって、ぐずぐずに体の奥が溶けていく。

 

(息が、苦しい……なのにもっと触れて欲しい)

 

佐助くんの肩越しに見える澄んだ星空が、溢れそうな涙でにじんで見えた時–––

 

佐助「……そろそろ限界だ。これ以上踏み込むと、引き返せなくなる」 

 

佐助くんは耐えるように唇を噛みながら、そっと私を抱き起こした。

 

半泣きになっている私を、佐助くんはぎゅーっと力いっぱいに抱きしめてくれる。

 

上がってしまった熱い吐息のやり場がなくて、お腹の下あたりがじんじんと疼いて苦しい。

 

「……っ、……ひどいと思う」

 

佐助「ごめん。でも、ここで止めるのは俺も相当つらいものがある。だから、痛み分けということで」

 

「……もう」

 

ぽす、と佐助くんの胸を軽く叩いて、そのまま抱きつく。

 

佐助「無事に現代へ戻れたら、まず真っ先に、君をめちゃくちゃに抱く。いい?」

 

「……そうしてくれなかったら、私が佐助くんをめちゃくちゃにする」

 

佐助「……それはそれで素敵だけど、俺の我慢が君より先に切れるのは百二十パーセント確実だ」

 

ちゅ、と頭のてっぺんにキスされて幸せな気持ちがこみあげる。

たかぶった熱はなかなか鎮まらないものの、安らいだ気持ちにも包まれる。

 

(佐助くんはこの時代に、大切なものをたくさん残していくことになる。その分、もっともっと、幸せになってもらわなきゃ……)

 

その夜は、たき火の明かりに照らされながら、佐助くんと寄り添って木陰で眠った。

 

切なさと甘さが入り混じった夜が静かに過ぎていった–––

 

 

…………


美香が寝入ったあと––– 

 

佐助「自業自得だけど、思った以上の難易度の高さだな。好きな人の寝顔をただ見てるだけっていうのは」

 

苦しげにため息をつき、佐助は予備の着物を敷いて、美香を寝かせる。

 

膝枕をしてやりながら、美香の頬に落ちかかる髪を、そっと払った。

 

佐助「でも……そう悪くもない。今夜、美香さんの眠りを守るために、俺は忍びになったのかもしれない」 

 

幸せそうな表情で呟くと、佐助は寝ずの番をして長い夜を過ごした。

 

 

…………


一方その頃、織田軍の野営地では–––

 

蘭丸「ん……、う……っ」

 

家康「蘭丸……!」

 

蘭丸「家、康……殿……?」

 

家康「っ……はぁ、やっと起きた。まったく、手間かけさせないでくれる」

 

意識を取り戻した蘭丸に、家康は深く息を吐き出した。

 

蘭丸「ここ、どこ……? 俺……、織田軍の兵に見つかって……」

 

家康「大怪我をして運び込まれて、今の今まで意識を失ってたんだよ。顕如の手下に手ひどくやられたらしいね。よく生き残ったな」

 

蘭丸「っ……!」

 

全てを思い出した蘭丸が、布団をはねのけ身体を起こす。

 

家康「ちょっと、急に動くなよ。傷が開いたら……」

 

蘭丸「顕如さ……、っ……顕如は、どうなったの……?」

 

家康「俺が捕らえた。安土の牢獄で残りの生涯を送ることになるだろうね」

 

蘭丸「……っ、そう……」

 

家康「黒幕は捕まったし、武器の流入経路だった堺の海は信長様が封鎖の命を出した。お前がのんびり寝てる間に全部決着がついたから、余計な心配はいらないよ」

 

蘭丸「…………」

 

血の気が引き青い顔をしている蘭丸のために、家康は薬湯の支度をする。

 

家康「この薬を飲んで。俺は皆にお前が起きたことを知らせてくる」

 

蘭丸「……わかった」

 

家康に支えられ、差し出された薬湯を蘭丸は大人しく飲み下す。 

 

蘭丸「ねえ……ありがとね、家康様。皆にも、信長様にも、そう伝えて。本当に本当に、お世話になって、ありがとうございましたって」

 

家康「病人は余計な気を回さずに寝てなよ」

 

蘭丸が再び寝入るのを見届け、家康は天幕を出ていく。

 

家康の足音が聞こえなくなった途端、蘭丸はすぐさま跳ね起きた。

 

蘭丸「ぐ……っ」

 

顔がゆがむほどの痛みを堪え、すぐに身支度を始める。

 

蘭丸「まだ……っ、終わりじゃない。あいつが、生きてる……! 何が何でもあいつを止めなきゃ……っ。俺ひとり、おめおめと生き残るなんて……。そんなの絶対、許されない! 俺が、俺を、許せないよ……っ」

 

蘭丸は身を引きずりながらも気配を消すと、織田軍の陣営を抜け出し、闇へと紛れた。

 

 

…………


ワームホール出現まであと一週間。

 

佐助くんと京の町にたどり着いて、その華やかな様子に目を奪われた。

 

(わぁ、ずいぶん賑わってる! 安土の町を思い出すな)

佐助「ご機嫌だな、美香さん」

 

「ふふ、久しぶりに都会に来たからテンションが上がっちゃった」

 

佐助「俺もかなりテンアゲだ。今日は忍者メシ以外の美味しい食事をしよう。野宿もナシだ」

 

「そうだね!」

 

まだ、皆と別れた寂しさは消えそうにない。

それでも佐助くんを心配させないように、明るく振る舞うように努める。

 

(悩んでても仕方がない。送り出してくれた幸村や謙信様たちのためにも前を向かないと。佐助くんもきっと、同じ気持ちでいるはずだ)

 

珍しい商品を並べた店先や、着飾った人々が行き交う京の町を楽しんだ後、ひとまず食事処を探し、休憩することに決めた。

 

(ん?) 

 

佐助「……」

 

辺りを見回す佐助くんの目が、なぜか少し鋭い。

 

「どうかした?」

 

佐助「一瞬、どこかから視線を感じた」

 

「え……?」

 

一緒になって辺りを見回す。

 

(……特別、怪しい人影は見当たらないと思うけど)

 

「気のせいじゃないかな。もう町なかだし、気を張ることもないんじゃない? 武将の皆といた頃ならともかく、一般人になった私たちを誰かが付け狙う理由もないし」

 

佐助「……君の言う通りかもしれない。職業柄、ちょっとしたことも気になってしまうクセがついてるんだ」

 

(さすがの佐助くんも、少し疲れてるのかもな……)

 

人里にたどり着くまでの道中は、山賊や落ち武者狩りに遭う可能性があるからと、佐助くんはずっと神経を張り詰めて警戒してくれていた。

 

(幸い危険な目に遭うことなく、京にたどり着くことができたけど……)

 

「佐助くん、ここまでずっと守ってくれてありがとう。今日はどうかゆっくり眠ってね」

 

(少しでも身体を休めてほしいな。……そうだ!)

 

「疲れが取れるように、お風呂のあとマッサージしてあげる」

 

佐助「……! 魅力的な申し出すぎて、このまま宿に直行したいくらいだ」

 

(そんなに!?)

 

「ただ、そんなに上手にはできないと思うよ?」

 

佐助「君も疲れてるはずなのに、その気持だけで十分、俺は嬉しい。ただ……君のそばでゆっくり眠るのは難題だ」

 

「まだ何か心配ごとがある……?」

 

佐助「そうじゃない。ここ数日で実証されたことなんだけど……」

 

目じりの上がった涼やかな佐助くんの瞳が私だけを映す。 

佐助「手を伸ばせば届く距離に君がいるのに、何もせずに入眠するのは至難の業だ」

 

「え……」 

 

(それで難題って言ったの!?)

 

ため息をつく佐助くんの言葉の意味を察して、顔が一気に熱くなった。

 

佐助「現代に戻ったら君を抱く、なんて約束をした自分を殴りたい」

 

「ええっと……なんて言ったらいいか……!」

 

佐助「何も言わないで。現代に帰るまで本当の意味で安心はできない。そして、俺は約束を守る男だ」

 

佐助くんは私と手をつなぎ、指の腹で手の甲をつ…と意味深に撫でる。

 

佐助「ただ……忍耐した分、どれほど大きな反動があるか、自分でも想像できない」

 

私へ向けられる鋭い瞳に、いつにない荒々しさがにじむ。

 

どきっと心が騒ぎながらも、その視線を真っ向から受け止めた。

 

「っ……大丈夫、だと思う、多分。どんな佐助くんも……私はきっと、好きだから」

 

(触れてほしいのは、私も同じだから)

 

佐助「その言葉、忘れないで」

 

「うん……」

 

ぎゅっと手をつなぎ直すと、佐助くんのきりりと締まった口元に笑みが浮かぶ。

 

(佐助くんは表情が乏しいと思ってたけど、そんなことはなかった)

 

出会って仲良くなって、恋をして、喧嘩もして、どんどん好きになって……

 

そのたびに、佐助くんの新しい表情を目にしてきた。

 

(この人は、どれだけ底知れない魅力を秘めてるんだろう)

 

佐助くんを知るたびに、『好き』が増えていく。

こんな幸せがずっと続けばいいと、願わずにはいられなかった。

 

 

…………

 

食事処で美味しいご飯をたっぷり食べて、休憩した後–––

 

佐助「美香さん、支払いを済ませてくるから、入口で待ってて」

 

「ありがとう、佐助くん」

 

(ふぅ、もうお腹いっぱいだ)

 

席を立って佐助くんを待っていると……

 

(ん……?)

 

誰かに低い位置から着物の裾を引っ張られる。

視線を向けると、小さな男の子が、真っ青な顔でこっちを見上げていた。

 

「どうしたの?」

 

子ども「えっと……母ちゃんが……たいへんなの……いっしょに来て」

 

(どうしたんだろう、やけに怯えてる……)

 

子ども「おねがい……」

 

「大変って……、あっ、ちょっと……!?」

 

 

…………

 

強引に店の外へ引っ張り出された直後––– 

 

???「よくやった、坊主。そいつと交換に、お前の母ちゃんを返してやるよ」

 

(誰……?)

 

表にいたのは、精悍で日焼けした肌を持つ男だった。

 

彼は、襟元を乱暴に掴んでいた女性を、子どもの方へとドンっと押しやる。

 

子どもの母親「きゃっ……」

 

子ども「母ちゃん!!」

 

???「ありがとよ。ようやくあの隙のない男の目を盗めた」

 

(この人は一体……!?)

 

頭の中で警鐘が鳴り響き、急いで店の中へ戻ろうとしたけれど–––

 

「きゃ……、んんっ!?」

 

間髪入れずに襟を掴まれ、引き寄せた私の口に、男性が布を押し込んだ。

 

元就「はじめまして、お姫さん。おれは毛利元就ってんだが……少し、俺の火遊びに付き合ってもらうぜ?」

 

(何なの? この人!? 逃げなきゃ……!!)

 

もがこうとするものの、急に力がフッと抜け、まぶたが重くなってくる。

 

(っ……まさか、この布……眠り薬か何かが……?)

 

通りの人たちがざわつく中、用意してあった駕籠に詰め込まれ……

まどろみの中で最後に見たのは、元就と名乗った男の狂気めいた笑みだった。

 

 

…………


佐助「美香さん……? 美香さん……!」 

 

異変に気づき佐助が表へ飛び出したのは、美香を乗せた駕籠が出発してすぐだった。

 

町人「あんた、あの女の子の連れかい!? 大変なことになった、白昼堂々人さらいが出たんだ!」

 

佐助「何があったか教えて下さい!」

 

目撃していた町の人たちが、一部始終を佐助に話して聞かせた。

 

町人「すまない、あっという間の出来事で助けに入る暇もなくて……。その男は、毛利元就と名乗ってたが……」

 

佐助「毛利元就……? もう死んでるはずの武将がどうして……っ」

 

佐助の目の色が、一瞬にして変わる。

 

怒りをはらんだ瞳は、町人たちが怯えるほどに厳しい。

佐助は元就の人相と風貌、駕籠が消えた方角を聞き出すと、脱兎のごとく駆け出した。

 

佐助「待っててくれ、美香さん。必ず助ける!」