ikemenserieslのブログ

イケメンシリーズ ストーリーのネタバレです

戦国【佐助】共通3話後半

 

敦盛LIVE翌日–––

 

なぜか私は呼び出しを受けて、光秀さんの御殿に来ていた。

部屋でひとり待たされる間も、そわそわして落ち着かない。

 

(何の用事だろう? あの人だけは、まだ少し苦手なんだよな……)

 

いつも薄く微笑んでいる光秀さんは、何を考えているか読み取れない人だ。

 

(牢人たちが襲ってきたときも、愉快そうに笑ってた)

 

ーーーーーーーー

信長「泳がせていたネズミどもが、痺れを切らして尻尾を出したか」

 

敵「なっ、我らが家臣に化けて忍び込んでいたことを知っていただと……っ?」

 

光秀「忍耐力のいないネズミでしたね。しばらく遊ばせておこうと思っていたのですが」

ーーーーーーーー

 

(呼び出されたってことは、まだ私は間者だと疑われてるのかな……?) 

 

光秀「安心しろ、もう疑ってはいない。–––お前のことは、な」

 

「ひゃ!?」

 

いきなり耳元で囁かれて飛び上がる。

見ると、光秀さんのニヤニヤ笑顔が真横にあった。

 

(光秀さん、いつの間に!?) 

 

光秀「考え事に夢中で人の気配にも気づかない人間が、間者などやれるわけがないからな」

 

「ど、どうして、私の思ってることが……」

 

光秀「顔に全部書いてある」

 

(嘘!?)

 

私の反応に、光秀さんは意地悪く笑みもらす。

 

(っ、からかわれただけか)

 

むっとして顔をしかめると、光秀さんの笑みが余計に濃くなった。

 

光秀「そう、怒るな。驚かした詫びだ、飲んでいけ」

 

「え……」

 

光秀さんは慣れた手付きでお茶をたてて、私の前に茶碗を置く。

 

(深みがあって、いい香りがする……)

 

一口飲んでみると……

 

「わあ、美味しいです……!」

 

光秀「そうだろう。とびきりの毒を混ぜておいた」

 

「えっ!?」

 

危うく落としそうになった茶碗を、慌てて両手で包み込む。

 

「一体、何を混ぜたんです……!?」

 

光秀「『嘘』という名の毒だ」

 

(な……っ)

 

光秀「そんなに騙されやすいと、間者どころか、普通の暮らしもままならないだろうな」

 

「ひ、人の悪い嘘はやめてください!」

 

光秀「ほう? 人のいい嘘ならいいんだな?」

 

「それもダメです……!」

 

(光秀さんといると、手のひらでコロコロ転がされてる気分になる……。これじゃずっと、光秀さんのペースのままだ)

 

何とか態勢を立て直したくて、私は光秀さんへ向き直った。

 

「お茶をふるまってくれるために、親切で私を呼んだわけじゃなさそうですね。本題はなんなんですか?」

 

光秀「おや、少しは頭が回るらしい」

 

光秀さんはからかいの笑みを消し、じっと私を見据える。

 

光秀「では、単刀直入に聞こう。お前の友人は、一体どこの手の者だ?」

 

「え……?」

 

いきなり投げられた視線の厳しさに、肝が冷える。

 

(友人って、佐助くんのことだよね……)

 

光秀「…………」

 

(……のほほんと生きてきた現代人の私でも、わかる。嘘を言ったら、即座に見抜かれる)

 

動揺を見せれば、痛くない腹を探られることになりかねない。

 

(そうなれば佐助くんに迷惑がかかる……)

 

一瞬迷った後–––私は覚悟を決めて、光秀さんを静かに見つめ返した。

 

「……佐助くんは、私にとって、大事な友だちです」

 

光秀「ほう……?」

 

「同じ故郷からやってきた大切な仲間……本当に、ただそれだけです」

 

(この人が嘘や罠を仕掛けてくるなら、私はどこまでも本音で対抗しよう)

 

しばらく見つめ合ったのち……光秀さんの口元が楽しげに緩んだ。

 

光秀「……案外、肝が座っている。信長様がお気に召すわけだ」

 

(……納得してくれた?)

 

何かを企むような笑みではなく、本気で面白がってる笑みに、ちょっとホッとする。

 

「あの……なんで私に変な質問をしたんですか?」

 

光秀「なに、もう忘れていい。腹芸のひとつもできない人間相手に、駆け引きを仕掛けた俺が馬鹿だった」

 

(ん?)

 

「それ……自虐に見せかけて、私のことを馬鹿にしてませんか?」

 

光秀「偉いぞ、よく気づいたな」

 

(もう……!)

 

そのあとは、当たり障りのない世間話だけをして、私は御殿を後にした。

不穏な空気にはならなかったものの、光秀さんには楽しいおもちゃを見つけたと言いたげに、さんざんからかわれたけれど。

…………

 

(ふう、なんだかキツネに化かされた気分……。結局、光秀さんの質問の意図はわからなかったな)

 

光秀さんは、佐助くんを敵の間者か何かだと疑ってるみたいだった。

 

(そういえば、佐助くんが庭師の見習いとして城に現れた時……)

 

ーーーーーーーー

「あの……本業の方は大丈夫なの?」

佐助「ああ。むしろ、はかどる」

ーーーーーーーー

 

(佐助くんは元々、仕事で安土に滞在してるって言ってた。もしかしたら光秀さんの読み通り、佐助くんは……)

 

胸がざわざわして、たまらず私は駆け出した。

…………


「佐助くん……! やっぱりここにいた」

 

道端で商品を広げる幸と一緒にいる佐助くんの姿を見つけて、一直線に走り寄る。

 

幸「ん? イノシシ女が猪突猛進してきたぞ、佐助」

 

「どんな走り方でもいいでしょう……っ」

 

幸「……イノシシってことは認めんのかよ。お前、今日どうした?」

 

佐助「美香さん、何があった」

 

「佐助くんに話があって探してたの。よかった、会えて……。実は、光秀さんのことで……」

 

幸「…………」

 

(幸……?)

 

光秀さんの名前が出た途端、幸の顔が険しくなった気がした。

 

佐助「……場所を変えようか、美香さん」

 

「あ。うん……」

 

佐助「幸、俺がいなくて寂しいだろうけど残りの営業はひとりで頑張ってほしい」

 

幸「少しも寂しくねーから、とっとと美香連れてけ」

 

(いつもの幸だ。さっきの違和感は気のせいかな)

 

佐助「あとで戻ってくる」

 

幸「いいからゆっくりして来いよ。またこいつが突進してきて店の前で騒がれたら迷惑だしな」

 

「仕事の邪魔してごめんね、幸」

 

幸「え?」

 

(私、あっちでもこっちでも、迷惑かけてばっかりだ……)

 

幸「おい、顔上げろバカ」

 

(わっ!?)

 

乱暴に頭をくしゃっと撫でられて顔を上げると、幸は力強く微笑んでくれた。

 

幸「何があったかしんねーけど、大丈夫だ」

 

「え……」

 

幸「佐助は、案外すごいヤツだから」

 

(……迷惑かけたのに、励ましてくれるんだ)

 

「……うん! そうだね」

 

佐助「うん、そうだそうだ」

 

幸「佐助、お前には言ってねー。じゃ、またな、美香」

 

「またね、ありがとう幸!」

 

(幸のおかげで、ちょっと冷静になってきた……。落ち着いて、しっかり話そう。佐助くんの身の安全に関わることだ)

…………

 

佐助「光秀さんが、俺が何者か探ってる……?」

 

「そうなの……。佐助くんに知らせておかなきゃと思って」

 

近くの茶屋に入った私は、佐助くんに光秀さんの御殿での出来事を伝えた。

 

佐助「…………」

 

話し終わると、何か深く考えるように佐助くんは口を閉ざしてしまい、沈黙が流れる。

 

(やっぱり、佐助くんは……)

 

意を決して、私は声を低めた。

 

「教えて、佐助くん。佐助くんの忍者としての仕事って、一体何なの……?」

 

(光秀さんが疑ってる通り……織田軍の敵なの?)

 

佐助「それは……乱世のコンプライアンス的に言えない。業務契約上、守秘義務があるから」

 

「そんな会社の規約みたいに言われても……!」

 

佐助「茶化してごめん。でも、事実なんだ」

 

冗談めかした口調でも、佐助くんは真剣に話してくれているのだと伝わってくる。

 

佐助「いつか君には、時が来たらちゃんと話す。でも……今はまだ、知らないほうがいい。君自身のために」

 

「……わかった」

 

(この言い方……少なくとも、信長様たちの味方ではないんだろうな。私を巻き込まないよう、知らせないようにしてくれてるんだ)

 

タイムスリップして以来ずっと、地に足がついていない状態の私とは違って、佐助くんはかなり深くまで、乱世に足を突っ込んでいるような気がしてならない。

 

(佐助君は自分の身を危険にさらして、私のそばにいてくれてるんだ……)

 

佐助「にしても、光秀さんは鋭いな。さすがは織田軍のブレーンだ」

 

「そういえば佐助くん、戦国講座『隣の戦国武将』で、光秀さんにだけは突撃しなかったよね」

 

佐助「あの人は近づくと危険だ。忍者の勘がそう言ってる」

 

(危険がどうかはわからないけど……)

 

「光秀さんの前では嘘がつけないのは確かだと思う。お腹の中まで読まれちゃうかと思った」

 

(あの時のヒヤッとした心地……)

 

光秀さんの鋭い眼差しを思い出して、息をつくと……

 

佐助「君のお腹の中なら、俺も読める」

 

「え……?」

 

佐助くんがクールな表情で、ぐいっと私へ顔を寄せた。

 

佐助「『粟団子モイイケド、今日ハコノ前食べソビレタよもぎ餅ガイイナァ』……君のお腹がそう言ってる。違う?」

 

(ええっと、今のは……もしかして私の声を真似してる?)

 

呆気なく深刻な空気が吹き飛び、思わず笑ってしまう。

 

(佐助くんは、私の不安を消してしまう忍術も使えるんだな)

 

「……ふふ、違わないかも。でも、声真似は要練習かな」

 

佐助「了解、次会うまでに特訓しておく」

 

私を気遣ってくれる佐助くんの優しさが胸に沁みる。

 

(佐助くんをいるとホッとする。心配ごとは増えたけど、会いに来てよかった……)

…………

 

日が暮れかけた頃、茶屋を出て佐助君は私を安土城の門まで送ってくれた。

 

「今日は急に押しかけてごめんね」

 

佐助「いや、何かあったらすぐに知らせてほしい。そのほうが俺も安心だ。それじゃ、また……」

 

政宗「美香、佐助」

 

佐助「……」

 

秀吉「どこかに出かけてきた帰りか?」

 

政宗、秀吉さん……)

 

「うん、茶屋から帰ってきたところ。ふたりはこれからお出かけ?」

 

秀吉「ああ、城下で政宗とメシでも食おうと思ってるんだ。そうだ佐助、お前もこれから町に戻るなら、一緒にどうだ?」

 

(わ、佐助くん喜びそう!)

 

佐助「光栄ですけど……今日は遠慮しておきます」

 

(あれ……)

 

政宗「じゃ、また今度付き合え。俺が気に入ってる美味い店に連れて行ってやる」

 

佐助「ありがとうございます」

 

(意外……。武将大好き佐助くんが、あっさり断っちゃうなんて)

 

よく考えてみると佐助くんは武将たちと知り合いになっても、人間関係に深く踏み込んだりはせずに、ほどよい距離感を保っていた。

 

(『武将は箱推し』だって言ってたのに……)

 

政宗と秀吉さんを見送った後、佐助くんに聞いてみる。

 

「一緒に行かなくてよかったの? 戦国武将と仲良くなるチャンスだったのに」

 

佐助「俺はあるひとりを除いて、どの武将にも肩入れしないと決めてるんだ。あくまで俺は歴史の観察者だから」

 

「観察者……?」

 

佐助「現代人が過去に干渉しすぎるのはよくない。深く関われば、ただでさえ変わり始めている歴史が、さらにひずんでしまう」

 

(なるほど、そういうものなんだ……。でも……あえて距離を置くなんて、なんだか寂しいな。佐助くんは武将たちのこと、あんなに大好きなのに)

 

「さっき言った『あるひとりを除いて』っていうのは……?」

 

佐助「その人とはある契約をかわしてるんだ。それで、深く関わらざるを得なくなった。……ただ、俺はその人の手伝いはしても、歴史の大勢に関わる戦に参戦する気はない」

 

「その人が、佐助くんの上司なの? その人も武将なの?」

 

佐助「……今はまだ、何も言えない」

 

嘘がつけない佐助くんは目を伏せて、沈黙を守り、それ以上、何も聞くことはできなかった。

…………


部屋に戻ってからも、別れ際に交わした会話が頭から離れない。

 

(『今は何も言えない』って佐助くんの言葉で……ますます確信した。佐助くんが仕えているのはきっと、織田軍の敵方の人なんだ。そうだとしたら……)

 

これまで過ごした日々を思い返し、背筋を冷たいものが流れていく。

 

(どうして佐助くんは、武将たちと直接コンタクトを取るなんて危険なことを……?)

 

そこまで考えて、水を浴びせられたようにハッとした。

 

(もしかして……私が織田軍に馴染めるように?)

 

ーーーーーーーー

佐助「驚かせてすまない。実はこの度、庭師の見習いになったんだ。忍びの仕事で城内に潜入することはあるけど、それだと人目があるから君のそばにはいられない。でも、庭師見習いなら、こうして堂々と君に会いに来ることができる」

ーーーーーーーー

佐助「第一回『突撃☆隣の戦国武将』、スタートだ」

 

「講座のタイトルが微妙に変わってるけど、がんばります!」

ーーーーーーーー

 

佐助君は私と一緒にいる時間を増やすために、堂々と門から訪れる口実を作ってくれた。

 

それでもずっとそばにはいられないから、安土城で私が過ごしやすいように、武将たちと打ち解けるきっかけまで作ってくれた……。

いつも親身になってくれる佐助くんに感謝はしていた。

 

けれど、それがどんなに危険な行為か、私は気づいていなかった。

 

(佐助くんは涼し気な顔で飄々と、危ない橋を渡っていたんだ……)

 

驚きを心配で胸の奥がぎゅっと苦しくなる。

 

(佐助くんはすごい人だけど……思ってた以上に、無茶をする人だ。現代人仲間とはいえ、どうしてここまでしてくれるんだろう……?)

 

佐助くんの真意は分からない。けれど–––

 

(これ以上、佐助くんに頼り過ぎたらダメだってことはわかる)

 

「できる限り自分ひとりで、戦国ライフを乗り切らないと……!」

 

乱世で出来たかけがえのない友だちが、自分の知らない間にその身を危険にさらしていた–––

万が一彼に何かあったら……そう思うと、震えるほどに怖かった。

…………

 

一方、美香と別れた佐助は、安土城城下の仮住まいへと戻ってきた。

 

佐助「幸、待たせた」

 

幸「……ここはお前の隠れ処だろ? いつも通りに呼べよ」

 

佐助「……そうだな、幸村」

 

幸村「で……美香の話はなんだった?」

 

表情を硬くした幸村に佐助が向き合う。

 

佐助「光秀さん……明智光秀に、俺がどこかの間者じゃないかって怪しまれてるそうだ」

 

幸村「そんなことだろうと思った」

 

佐助「美香さんの話を聞く限り、俺の背後に誰がいるかまでは、たどりついてないみたいだ」

 

幸村「……越後に文を送る。安土で油売ってられる時間は、もう残り少ねえな」

 

佐助「……ああ、そうだな」