ikemenserieslのブログ

イケメンシリーズ ストーリーのネタバレです

ヴァンパイア【アイザック】2話

 

レオナルド「おい小娘。さっさとセバスのところ行って、それ手当てしてもらってこい」

 

レオナルドさんは煙草をくゆらせながら、こちらを指差す。

 

レオナルド「セバスから聞かなかったか?それは俺たちにとって刺激物だ」

 

私の左手の薬指には、鮮やかな赤が滲んでいた。

 

セバスチャンに手当をしてもらい部屋に戻った私は、シーツにくるまり震えていた。

 

(ヴァンパイアの話は、本当だったんだ)

 

さっきの出来事を思い出すだけで、背中に冷たい汗が伝う。

 

(こわかった。......でも)

 

 

ーーーーーーーー

 

アイザック「っ......俺......」

 

アイザック「.........」

 

ーーーーーーーー

 

(あの人は、どうしてあんなに哀しそうな顔をしていたんだろう......)

 

座りこむ私を見つめる瞳が、いつまでも瞼の裏にこびりついて、その夜は結局、ほとんど眠れなかった......__

 

 

(朝になっちゃった......)

 

部屋の外に出る気になれないでいると、ドアがノックされる。

 

サンジェルマン伯爵「おはよう、美香。起きてるかい?」

 

(この声は、伯爵?)

 

サンジェルマン伯爵「昨夜のことはレオナルドから聞いたよ。怖い思いをさせてしまって、すまなかった」

 

優しい声色に安心しかけるけど、彼だってヴァンパイアかもしれない。

 

(また昨日みたいになことがあったら......)

 

サンジェルマン伯爵「君を怖がらせるようなことはしないと、約束するよ」

 

「でも......」

 

サンジェルマン伯爵「とりあえずでてきてくれないかい?君にはきちんと説明がしたい」

 

(...確かにいつまでも部屋に閉じこもってるわけにはいかない)

 

まずは情報を集めないと、何もわからないままだ。

 

「......わかりました」

 

竦む足わなんとか進ませて、私は扉を開けた。

 

伯爵と共に明るい食堂に入ると、すでに数人の住人たちが席についていた。

 

フィンセント「あ、おはよう。美香」

 

太宰「やあ、とし子さん。昨夜はよく眠れ......なかったっていう顔だねえ」

 

「えっと、おはようございます」

 

朝陽が射し込む食堂で見る彼らは、普通の人間と何も変わらないように見える。

 

(未だに信じられない。この人たにがヴァンパイアだなんて......)

 

不安を拭えないまま立っていると、私の後ろで扉が開いた。

 

アイザック「あ......」

 

アイザック、さん......)

 

目の前にいる彼は、やっぱり昨夜とは違って普通の男の人に見えた。

 

アイザック「あのさ」

 

アイザックさんは遠慮がちに一本踏み出す。

 

「っ!」

 

途端に昨夜のできごとがフラッシュバックして、私は思わず一本後ずさった。

 

(どうしよう......。今のはさすがに失礼、だよね。でも......)

 

まだ身体が昨日の恐怖を思い出して震えてしまう。

 

アイザック「......」

 

アイザックさんはそんな私からすっと目を逸らしら踵を返した。

 

太宰「おや?朝食は摂らないのかい?」

 

アイザック「......俺がいないほうがいいでしょ。部屋で食べるよ」

 

(あっ......)

 

「あの、待ってください」

 

あまりにも哀しげな瞳に、気付けば声をかけていた。

 

アイザック「......何?」

 

「い、いえ......」

 

それ以上声が出なくて、結局ただその寂しそうな背中を見送ることしか出来ない。

入れ違いに、朝食のワゴンを押押したセバスチャンがやってくる。

 

セバスチャン「さあ、席についてください。ひとまず朝食にしましょう」

 

 

.........

 

豪華な食事が並べられたテーブルを挟み、私と伯爵は向かい合う。

 

サンジェルマン伯爵「もう君も気付いてるかと思うけど、屋敷の住人は歴史に名を残してきた本当の偉人であり、俺がこの手で蘇らせた、ヴァンパイアだ」

 

「伯爵の手で......?」

 

セバスチャン「ああ、セバスチャン以外はね」

 

(伯爵って一体何者なんだろう。ても、それより......)

 

(どうしてそんなことを?)

 

サンジェルマン伯爵「契約だよ。彼らは永遠に等しい時間を手に入れる代わりに、ヴァンパイアになることを受け入れた」

 

「契約......」

 

サンジェルマン伯爵「そうだね。例えばフィンセントの場合だと......」

 

伯爵の隣に座っていたフィンセントそんは目が合うとにこりと微笑んでくれる。

 

フィンセント「もっと絵画を描いていたこったから、かな」

 

サンジェルマン伯爵「そして弟のテオドルスは」

 

テオドルス「兄さんの絵を売るため。それと......、まだ埋もれたままの才能を見つけたいからだ」

 

(みんな、色んな理由があるんだ)

 

ちらっと、隣に座る太宰さんを見る。

 

太宰「ああ、俺はねぇ......。何だったかな、忘れてしまったよ」

 

(色んな理由があるんだよね......?)

 

サンジェルマン伯爵「そして、君が昨夜出逢ったアイザックが蘇った理由は......誰にも邪魔されない静かな場所で、思案の時間を持ちたかったからだ」

 

(ひとりで考え事をしたいってこと?)

 

(でも、だからってヴァンパイアになるなんて......)

 

思わず黙り込んでいると、こっくりとした瞳が私を見つめた。

 

サンジェルマン伯爵「さて。君は今こう考えているんじゃないかな。  ヴァンパイア全員が、君を狙っているんじゃないか......と」

 

黄金色の眼差しに見据えられると、嘘なんて無意味な気がした。

 

ゆっくり一度だけ頷くと、伯爵の瞳がふっと和らぐ。

 

サンジェルマン伯爵「確かに俺たちヴァンパイアは血液を糧にして生きている。だが......」

 

セバスチャンが赤ワインと白ワインのようなものが入ったグラスをテーブルの上に置いた。

 

(こんな朝からワインを......?)

 

セバスチャン「こちらの赤いものはルージュと呼ばれる、安全ルートから確保している人の血液です」

 

「安全な経路ですか」

 

セバスチャン「安全な経路です」

 

セバスチャン「そひてこちらの白いものはブランと呼ばれる、貴重な花から精製された血液の代替品です」

 

サンジェルマン伯爵「俺たちはこれらで十分飢えを満たすことができる。だから人間に手を出すことはほぼ無いんだよ」

 

「ルージュやブランドがある限り、血液が必要ないことはわかりました。でも、それならどうして昨日......」

 

昨夜の、飢えたような獰猛な光を宿した瞳を思い出す。

 

セバスチャン「実はアイザックさんは他の住人達と異なる点があるのです」

 

「異なる点?」

 

セバスチャン「アイザックさんは、他のヴァンパイアよりも必要ない血の摂取量が多いのです   昨夜は私が他の仕事に追われていて、ルージュを運ぶのが遅れてしまい......」

 

 

(それじゃあ、昨日セバスチャンが運んでいたのはアイザックさんのお夜食だったんた)

 

そしてアイザックさんは入れ違いにルージュを取りにキッチンへ向かった。

 

全てが頭の中で繋がっていく。

 

セバスチャン「申し訳ございませんでした」

 

「いえ、そんな......」

 

(というか、むしろセバスチャンが仕事に追われていた理由って......)

 

「私が来て、忙しかったからですよね.....?」

 

用意してもらった部屋は隅々まで清掃されて、すぐに眠れる状態にだった。

 

サンジェルマン伯爵「君が謝ることじゃないよ。こちらの不手際だ」

 

太宰「ほうそう、可愛らしい女性が来たから、浮かれてしまったんだよね」

 

セバスチャン「いえ、浮かれていたわけではありませんが」

 

申し訳ない気持ちになっていると......

 

レオナルド「よう、おはよう小娘」

 

レオナルドさんがあくびに噛み殺しながら食堂にやってきた。

 

「おはようございます。あの......、昨日はありがとうございました」

 

レオナルド「たまたま出くわしただけだ。.......で、あんな、怪我はどうだ?」

 

「おかげさまで、大丈夫です」

 

レオナルド「それならよかった。これからは迂闊に血を流さねえようにしろよ?」

 

ガラスで切ってしまった指の傷はおもったよりも深くて、今も包帯を巻いている。

 

レオナルド「あんたからすると襲われたって思うかもしれねえが、逆もまた然りだ」

 

「えっ?」

 

レオナルド「根本的に俺たちは人間を襲おうとは思っちゃいない   ......だが、襲いたくねぇのに襲っちまうこともあるってことだ」

 

(襲いたくないのに、襲ってしまった......)

 

レオナルドさんの言葉に、昨夜様子を思い出す。

 

 

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アイザック「出て、け......」

 

「そんな......放っておけません」

 

アイザック「いいから、早く......、俺から離れろ!」

 

ーーーーーーーー

 

(確かに、あの時アイザックさんは必死に私を遠ざけようとしてくれていた......)

 

「私......」

 

今朝、アイザックさんを一方的にきょぜつしてしまったことを思い出して胸が痛む。

 

サンジェルマン伯爵「いいや仕方ないことだよ。昨日、君を怖がらせまいと説明していなかった俺のせい」

 

伯爵は小さく息をつくと、私をじっと見つめた。

 

サンジェルマン伯爵「......君がどうしてもこの屋敷から出ていきたいと言うのなら、邸宅を用意しよう」

 

「邸宅、ですか?」

 

サンジェルマン伯爵「ああ、できれば俺の目の届く場所にきてほしいからね。安全は保障するよ」

 

今朝までは、このお屋敷にいることが危険だと思ってた。

 

(でも、こうして説明を聞いているとだんだんわからなくなってくる......)

 

答えられずにいると__

 

フィンセント「この屋敷から出ていっちゃうの......?」

 

フィンセントさんが悲しそうにこちらを見つめていた。

 

フィンセント「俺......あなたと仲良くなりたかったんだけど」

 

「フィンセントさん......」

 

(そんな封に、思ってくれてたんだ....)

 

フィンセント「フィンセント、でいいよ。ねえ、テオもそうでしょ?」

 

テオドルス「兄さんが言うなら、仲良くしてやらないこともない   まあ、お前がここに住む限り、俺たちにとって餌であることは変わらんが」

 

「テオドルスさん、餌っていうのは......?」

 

フィンセント「あ、テオでいいからね。大丈夫、咬んだりしないから」

 

(そんな、愛犬みたいに......)

 

太宰「とにかく、1度ゆっくり考えてみればいいんじゃないかな?時間はたっぷりとあるんだから」

 

「はい......、ありがとうございます」

 

 

.........

 

(なんだかみんな、私が思っていたヴァンパイア像とは違っていたな)

 

紳士的で、優しくて、私のために丁寧に説明までしてくれた。

 

(でも、そうだよね。みんな元は同じ人間だったんだから)

 

みんなの顔を思い出していると、ふとアイザックさんのことを思い出す。

心に残っているのは、あの寂しげな瞳だ。

 

(事情を知った今、一度ちゃんと話してみたほうがいい気がする)

 

廊下を歩きながら考えていると、曲がり角でアイザックさんと鉢合わせた。

 

美香・アイザック「あっ」

 

アイザックそんはすぐに目を逸らし、私の横を急ぎ足でとおりすぎていく。

 

「あ、あの!」

 

慌てて声を掛けるけれど、アイザックさんは歩みを止めない。

 

(ええ......止まってくれない)

 

「待って!」

 

私はとっさに、彼の服の裾を掴んでいた。

 

アイザック「......」

 

アイザックさんは戸惑うように、こちらを振り向く。

青空に散りゆく桜のように儚げな色の瞳が、私を映した。

 

(綺麗......)

 

初めて、彼の瞳をまっすぐに見た瞬間だった......__